合わせ鏡の双子
神と神の眷属──
彼らが己らをそのように称する理由のひとつとして、彼らが宿した特別な力の存在がある。
それは、名を『グリモワール』という。神の力に起因した、自然現象を意のままに操る魔法のような能力だ。
程度に差はあれど、神の眷属ならば誰もがこの能力を持っている。
そして、神──彼らの王たるノヴリージェには、その能力の基礎となる『グリモワールの始祖』とも呼べる能力がある。
それが『ドミヌス』。全ての始まりにして全てに終わりを齎す、究極の破滅の力として彼らにすら畏れられている能力である。
ノヴリージェはこのドミヌスの力を使い、理想郷を築き上げ、実に様々なことを行ってきた。
ドミヌスの力の断片を継承した『神の武具』の役目を担った特別な眷属を生み出すこと。
政に必要不可欠な才を持つ『3賢者』の名を与えた特別な眷族を一族より選出すること。
そして──先見の目による、一族の未来を詠んだ『予言』。
禍つ星落ちる刻、十字の刃が審判を下す。混沌は輪廻に還り、死地は新たな生を持ち蘇る。
ノヴリージェによって彼ら一族に宣託された予言にはこうある。
予言にある『十字の刃』の象徴とも取れる、十字剣を携えた若者が審判を下す者なのかどうかは、予言を行ったノヴリージェ自身にすら分からない。
故に、彼には興味があったのだ。
この若者が、一族の存亡に関わるであろう『人類の英雄』であるのか。ドミヌスすら凌駕する存在であるのか──
「ふ~ん」
ノヴリージェがその場から身を引き、ヴェゼヴィーユが再び両手の細剣を構えたところで。
若者の背後から、彼の顔を覗き込むように2人の子供がぴょこんと姿を現した。
1人は黒髪に白い肌、額に玉を刺したような格子の形をした紋を刻んでいる。
1人は白髪に黒い肌、額に点を散らした5芒星の形をした紋を刻んでいる。
2人共に髪をふんわりと丸く刈り、5つ房の帽子を被り、白黒の菱形をモチーフにした道化師のような衣裳を身に纏った外見6歳程度の少年だった。
「この人がノヴリージェ様が言ってた『審判』の人なの? ローシュ」
「ヴェゼヴィーユと戦える人間なんだから、そうなんじゃないかなぁ? アッタ」
子供たちは、同じ声色で互いの名を呼びながら何やら喋り合っている。
眉を顰める若者の様子も何処吹く風で、互いに顔を見合わせてうんと頷くと、若者を見上げて親しげに語りかけた。
「初めまして、お兄さん」
「ボクはローシュ。過去を視る白の道化師」
「ボクはアッタ。未来を視る黒の道化師」
「2人でひとつ。合わせ鏡の双子だよ♪」
「お兄さん、ボクたちとも遊んでよ。退屈だったんだよねっ」
笑いながら、彼らは若者の前でふわりと宙に浮かび上がった。
若者の赤茶色の双眸を、スタールビーのような大粒の瞳で覗き込み、にんまりと笑う。
「……イ、シ、ス……プライウェル。そっか、お兄さんの名前はイシスっていうのか」
「!」
ぎょっとした若者が、咄嗟に構えていた十字剣を彼らに向けて振り下ろす。
しかし大振りの一撃は双子のどちらにも掠ることはなく、双子たちは揃ってきゃーと笑いながら彼から身を遠ざけて、ずっと事の成り行きを傍観していたクラウディアの陰へと隠れてしまった。
「こわい、こわーい」
「殺されちゃうー、助けてー」
「アッタ! ローシュ!」
怒気を孕んだ声音で双子たちを嗜めるヴェゼヴィーユ。
「此処は遊び場ではない! 部屋で大人しくしているように言っておいたはずだ!」
「えー。だって久々の『お客さん』なんでしょー? ボクたちだって見たいもん」
「ねー」
「……お前たちは……!」
黒地に黒糸で薔薇の刺繍を施したドレスの裾をふわりと翻し、クラウディアが冷めた眼差しでヴェゼヴィーユを見つめた。
「子供たちの戯れに目くじらを立てるなど……大人気ないですわね、それでも『エルシャダイの剣』を冠する使徒なのかしら?」
「…………!」
きゅ、と唇を噛んだヴェゼヴィーユが、左右の剣を構えてイシスに突進する。
鳩尾に深い膝蹴りを食らったイシスはよろけて、壇上から転がり落ちた。
彼の手から離れた十字剣が、がちゃんと音を立てて床上に転がる。
咄嗟に体勢を立て直してそちらに手を伸ばすイシスの動きを妨げるように、ヴェゼヴィーユは左手の剣で彼の指の先を深々と貫いた。
寸でのところで一撃をかわし、動きが硬直したイシスに、唸るような声を発する。
「……私は、ノヴリージェ様に認められて『力』を授かった……たかが人間如きに後れを取るなど、あってなるものか……!」




