心を決めて
ゼノヴィアは、イルから別れた後に起きた出来事の一部始終を聞いた。
セーフェルが、グシュナサフに連れ去られたこと。
城内で再会したイシスに、此処まで案内してもらったこと。
そのイシスが、既に神の眷属の手に落ちてしまっていたこと。
しかし彼は命令に反して最後までイルの味方であろうとし、此処で、蟲に喰われて殺されてしまったこと。
「…………」
話を聞き終えたゼノヴィアは前髪をくしゃりと掻いた。
今の話から、彼には分かったことがあった。
それは、イルがドミヌスの力を開放したということだ。
物体を溶解させる高熱を有した一撃。これは、グリモワールでなければ為せない所業である。
しかし、イルが放った一撃は、明らかに規模が桁違いだった。流石にグリモワールでは、此処までの威力は見込めない。
これが、ドミヌスの力なのか。
下手をすれば味方まで一瞬で滅ぼしかねない、究極の破壊の力。そう揶揄される理由が分かったような気がする。
ゼノヴィアは、イルの目をまっすぐに見つめて言った。
「ドミヌスを使うのはいい……それに関してはおれは止めねぇ。でも、それでてめぇまで消すような真似だけは間違ってもするんじゃねぇ」
「………… ごめん」
「……辛い思いしたな」
ぽん、とイルの肩を優しく叩いてやると、イルは唇を噛んで俯き、涙を零し始めた。
無理もない。イシスは、イルにとって近しい存在だった。それが目の前で殺される瞬間を見せつけられたのだから、錯乱するのも無理はないことなのだ。
しかし、それで捨て身になるようなことだけはあってはならない。誰かが敢えて口にしてやらなければ、彼は本当に自分の力で自分自身をも滅ぼしてしまいかねない。
恨まれてでも、自分がその役を買って出るべきなのだ。年長者として。
相変わらず自分は説得が下手だな、とゼノヴィアは内心苦笑した。
「……さあ。此処で泣いてばかりもいられねぇぜ。イシスのためにも、目的はきちんと果たしに行かなきゃな」
「……ああ」
ゼノヴィアが座っていた腰を上げると、イルも涙を手の甲で拭い、ゆっくりと立ち上がった。
すっかり焦げて炭となった蟲の死骸を踏み越えて、中空の通路を先へと進んでいく。
彼には、神を倒すという目的がある。それだけじゃない、おそらくそこへ連れ去られたであろうセーフェルを奪還するという使命もある。
立ち止まってはいられないと、彼なりに、理解しているのだろう。
……此処まで来た。おれも──
ゼノヴィアは更に天へと向けて伸びる塔を見上げて、胸中で独りごちた。
す、と息を吸い、己の気持ちを再確認して。
2人は、歩みを再開した。




