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赤髪の勇者

 十字剣を構え、壇上へと一気に駆け上がった若者を迎え撃ったのは、王の前に立っていた2人のうちの、男の方だった。

 ウェーブの掛かった白銀の髪に、真紅の双眸。白い燕尾服を纏った端正な顔立ちの男である。

 身に着けているものが上等な作りの礼服であったなら、貴族にも見えただろう。そんな一種の気品を備えたその男は、左手で軽く印を切り、虚空から細身の剣を取り出して若者の一撃を受け止めた。

 硬い音が響き、2本の得物ががっちりと噛み合う。

 きりきりと音を立てる剣を微妙に震わせながら構える男に、傍らの女が冷笑を送った。

「たかが俗物の一撃に、醜態を晒すような真似はしないで下さいませね? ヴェゼヴィーユ」

「……黙れ」

 男──ヴェゼヴィーユが眉間に皺を寄せる。

 切り結んだままの体勢で右手で印を結び、更に同じ形状の剣をもう1本喚び出して、それを斜め上から若者に向けて振り下ろす。

 脅威がふたつに増えたことを察した若者は、十字剣をぐっと押し込んで生まれた反動でヴェゼヴィーユの傍から離れた。標的を軌道上から失った2本の細剣が、斜め十字に交差しながら何もない虚空を通り過ぎていく。

「──白銀のヴェゼヴィーユ……漆黒のクラウディア」

 間合いを取りながら、十字剣を構え直し若者が呟いた。

「そうか。貴様たちが『エルシャダイの使徒』か」

「……如何にも」

 その呟きを拾ったのは、ヴェゼヴィーユたちの後方に控えていた王だった。

「余の名を冠する剣と、盾。良くできた我が息子たちだ。……よもやその名を人たる汝の口から聞けるとはな」

 長き生何が起こるか分からん、と独り呟き、ふっふっと肩を揺らす。

「単なる蛮勇ではない勇を持つ者は歓迎しよう。人間の騎士よ。余こそが唯一神エルシャダイ、ノヴリージェである」

 2人を横に退けるように前に進み出て、ノヴリージェは杖の先端で足元の床をとんと突いた。

 すっかり人気がなくなった礼拝堂中の燭台に、一瞬にして消えていた炎がぼっと灯る。

「余は、汝が此処へ来た理由を知っている。汝が欲するもの──余の生命は、確かに此処にある」

 言って、ノヴリージェは己の胸元にそっと空いている方の掌を添えた。

 悠然と若者を見下ろし、続ける。

「此処にいる2人──ヴェゼヴィーユもクラウディアも、共に余の力『ドミヌス』を継いだ片腕。見事これらを破ることができたならば、その時は、敬意を持って余は汝の前に立とう。汝が予言にある『十字の刃を掲げる存在もの』であるならば、それを行うのは実に容易いことであろう──まずは証明してみせよ。汝、審判を下す宣託者であるか?」

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