表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

この季節、エアコンは神!の第五話:魔王様、配下のセンスに凍てつく!

 魔王城がある魔族の世界も梅雨の季節がやって来た。

「蒸し暑いぞ、ベルフェゴール! 何とかせよ!」

 胸に「りーしぇ」と書かれた名札布が縫い付けられたスクール水着を着て、額に冷えピタを貼ったリーシェが玉座で団扇を扇ぎながら嘆いた。

「暑いのは拙者も同じでございます」

「そんな鎧を着ておるからじゃ。脱げば良いではないか?」

「この鎧は十二魔将筆頭の証! 脱ぐ訳にまいりません!」

「何じゃ? 脱ぐとすごいのか? お腹がボヨンと出てるとか?」

「そ、そんなことはございません! 筋骨隆々のY字体型でございますよ」

「この前、腹が苦しいと言っておったではないか」

「あ、あの時は、ちょっと食べ過ぎたものですから……。それはそうと、魔王様のその格好は何なんですか?」

「このスク水か? 読者へのサービスシーンに決まっておろう」

「マニアックすぎますぞ! 幼女のスク水姿で喜ぶような読者など……、それなりに、いそうですな」

「そうであろう? こういうところで読者に媚びを売って、アクセス数を増やそうという作者の見え透いた戦略のようじゃ」

「なるほど」

「しかし、そんなことはどうでも良いのじゃ。ベルフェゴール! この暑さ、何とかせよ!」

「何とかせよと言われましても」

「冷房じゃ! エアコンを買ってくるのじゃ!」

「そんなお金があるわけございません」

「備蓄があると言っておったではないか?」

「備蓄金は、将来の我らの生活の糧とすべきもの。いっときの快楽のために使うものではございません」

「快楽などではないわ! 命の危険が掛かっておるわい!」

「不死身の魔王様が言われても説得力がございません」

「……そうじゃ! そなたらの傘貼りの賃金は入って来ぬのか?」

「来週にならないと入りませんし、入ったとしてもエアコンを買えるような金額ではございませんよ」

「も~う! わらわは魔王じゃぞ! どこの世界に、汗をかきかき仕事をしている魔王がおるのじゃ? おかしいであろう?」

「魔王様がスク水を着ている時点でおかしいですが……。そうでございます!」

「何じゃ?」

「暑い日を乗り切るには、ホラー映画など見て、涼しくしましょうぞ」

「魔族がホラー映画を見るのか? そもそも、そなたらの顔を毎日見ていると、ホラー映画どころではないわ! しかし、効果はないし」

「……こうなれば仕方ありませぬ! 人族の世界で涼しい所を見つけ、そこを占拠しましょうぞ!」

「おお! ついに戦か?」

「いえ、ここは平和的に占拠いたします」



「ベルフェゴールよ」

「ははあ!」

「わらわと十二魔将全員の十三人で、フライドポテトを一つだけ頼んで、もう、かれこれ六時間になるが……」

「涼しいですなあ。それに、マックロナルドでは、水は只ですからなあ。魔王様! 冷たいお水のお代わりを入れてまいりましょうか?」

「い、いや、かまわぬ。店員たちの視線の方が水よりも冷たく感じるのじゃが?」

「それはようございました! さらに涼しさを感じられるなど」

「い、いや、涼しさを通り越して、痛く感じるのじゃが?」

「魔王様が人族の視線など気になさることなどございませんよ! その気になれば、こんな店の一つや二つ、魔王様の指先だけで消し去ることさえできるのですぞ」

「ま、まあ、それはそうじゃが、すこぶる居心地が悪いぞ」

「そうでございますか? では、残念ですが、そろそろ出ますか?」

「そうしようぞ」

 マックロナルドから出ると、目の前にリサイクルショップが見えた。

「ベルフェゴールよ! あそこなら、格安のエアコンがあるかもしれぬぞ」

「確かめてみましょう。皆の者が一緒だと暑苦しいので、拙者と魔王様だけで入るゆえ、そなたらは先に魔王城に帰っておれ」

 他の魔将どもを先に魔王城に帰らせて、リーシェとベルフェゴールがリサイクルショップに入ると、そこも冷房が効いていた。

「うむうむ。ここも涼しいの。ゆっくりと品定めができるというものじゃ」

 店内に入ると、すぐにベルフェゴールの足が止まった。

「おお! これは『ガールフレンド(熟女)』の登場人物『くおえうえーーーーるえうおおおおお』の等身大フィギアではございませんか!」

「何じゃ? ベルフェゴールは、本当に、こういう熟女が好きなんじゃな?」

「この適度な皺! 適度な肌のたるみ! 適度な腹の出具合! どれをとっても最高でございますなあ」

「わらわは、そなたの趣味がよく分からぬわ」

「十万円か……」

「ベルフェゴール。もしや、備蓄に手を出そうと考えておるのではないだろうの?」

「け、けっして、そのようなことは!」

「手を出しても良いぞ。わらわは見なかったことにしてやろう」

「ま、魔王様……」

「その代わり、エアコンの購入とオージーコーナーのケーキを今後一年間食べ放題ということで手を打ってやろう! どうじゃ?」

「ぐおおおおおお!」

 等身大フィギアを前に、リーシェの悪魔の囁きにもだえるベルフェゴールだったが、「ちょっと、すみません」と言って店員がやってくると、等身大フィギアの顔に「売約済み」の赤い札を貼り、去って行った。

「ベルフェゴール以外にも買う奴がいたとは……」

「ざ、残念でございます。というか、危ない危ない! 魔王様の悪魔の囁きに負けるところでしたぞ!」

「わらわは悪魔じゃから、悪魔の囁きには違いないがの」

「そこまでツッコミの材料を用意しなくても……、とりあえず、エアコンを見てみましょうぞ」

「そうじゃの。それで、ベルフェゴールよ。予算的に幾らぐらいなら買えそうなのじゃ?」

「そうでございますね。五千円までなら何とか」

「……そんなエアコンがあるのか?」

「おお! 魔王様! こちらをご覧くださいませ!」

「な、なんと!」

 ベルフェゴールが指差す先には、「大特価! 心まで冷やします! 冷房用DVD!」とポップが書かれたDVDケースがあった。

「う~む、何となく中身は想像できるが、念のため、確認してみるか?」

「ははあ! あいや待たれよ!」

 ベルフェゴールが、ちょうど通り掛かった店員を呼び止めた。

「この商品を、ちょっとだけ見せてくれ」

「み、見るんですか?」

「視聴してみなければ分からぬではないか」

「じゃ、じゃあ、ちょっとだけですよ」

 店員がDVDケースからDVDを取り出して、再生用プレイヤーに入れた。

「後悔しないでくださいよ」

 再生ボタンに手を掛けた店員が念を押した。

「既にしかかっておるが、かまわぬ。再生してみよ」

 店員が再生ボタンを押した。

 座布団に座った噺家らしき男性が映し出されると、無表情で語り始めた。

「隣の家に囲いができたんだってね。へ~」

「……」

「ふとんがふっとんだ~」

「……」

「ガチョウが驚いた! がちょ~ん」

「……」

「この梅、うめえ~」

「……もう良い。これ以上、聞いていると、むしろ、熱くなってきそうじゃわい。のう、ベルフェゴール?」

 リーシェがベルフェゴールを見ると、体を震わせながら、笑いを我慢しているようであったが、ついに我慢できずに大笑いし始めた。

「わはははは! これは傑作だ! 面白すぎるぞ! よく、こんなのを考えつきますなあ! 腹が痛いですぞ」

「……」

「魔王様! これで二千五百円とはお買い得でございますなあ! 一つ購入いたしましょうぞ」

「……わらわはそなたのセンスに寒くなったわ」

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ