作者はどうせどこにも行きませんよ!の第四話:魔王様、配下のゴールデンウィークの過ごし方を気にされる。
「ベルフェゴールよ」
「ははあ!」
「この水晶玉テレビで言っておる『ゴールデンウィーク』とは何のことじゃ?」
玉座の間に置かれた水晶玉に、受信料も払っていないのに某国営放送のニュースが映っていた。
「人族の世界で、休暇が連続してある週間のことでございます」
「そういえば、わらわの休暇はいつなのじゃ? 復活以来、休暇など取ったことないぞ」
「拙者には毎日が休暇のように見えますが?」
「何を言っておるのじゃ。わらわが忙しく動き回っておれば、そなたらに余計な心配を掛けてしまうじゃろうと、あえて! あえて、悠然と構えておるのじゃ」
「はいはい、そうですか」
「何じゃ? その疑いの眼差しは?」
「そ、そんなことはございません! ところで、魔王様」
「何じゃ?」
「人族には、このゴールデンウィーク中に、旅行をする風習があるようでございますよ」
「旅行? せっかくの休みなのに、旅をするのか?」
「外国とか、泊まりがけでないと行けないテーマパークとかに行ったり、また、都会に住んでいる者などは田舎に帰ったりしているようでございます」
「テーマパークは行ってみたいのう」
「しかし、魔王様、これをご覧ください」
ベルフェゴールが指し示した水晶玉テレビの画面が切り替わり、ものすごい人の行列が映った。
「これは昨年の記録映像でございます。ゴールデンウィークでは、有名なテーマパークはどこもこういう状態のようでございますよ。魔王様は、魔王城でのんびりなさってくださいませ」
「……旅行の話を振っておいて、わららにはのんびりせよとな? ベルフェゴール! そなた、わらわを置いて、旅行に行く気じゃな?」
「ま、まあ、そうでございますが、拙者一人で行くのではございません! 女房に脅迫されて仕方なく! 仕方なく、家族で熱海に行くことにしておるのです」
「家族で居酒屋に行くのか?」
「それはワタミでございますよ。熱海とは温泉で有名な所でございますよ」
「温泉とな? すると温泉饅頭とかもあるのか?」
「はい。もちろん、お土産として、魔王様に買ってまいります」
「ベルフェゴール! まさに十二魔将筆頭! 見上げた忠心じゃ!」
「ははあ!」
「四十八個入りを五箱じゃぞ! 忘れるでないぞ!」
「……た、たぶん、人気の温泉饅頭ですから、六個入りが一箱しか買えないと思いまする」
「今からそんな弱気でどうするのじゃ! 熱海に着き次第、温泉饅頭を買い占めて、宅配便でわらわまで送るのじゃ! 良いな?」
「け、検討いたします。ということで、ゴールデンウィーク中、拙者は留守にさせていただきます」
「うむ、分かったのじゃ。ゆっくりしてくるが良い」
「ははあ! そのありがたきお言葉に対しまして、魔王城で引き籠もられる魔王様が退屈されないように準備をいたしておるものがございます」
「何じゃ?」
「普段、拙者が遊んでいるゲーム機をお貸しいたしましょう」
「まことか?」
「ははあ! これをどうぞ」と言いながら、ベルフェゴールが懐から携帯ゲーム機を取り出した。
リーシェが携帯ゲーム機を受け取ると、早速にスイッチを入れた。
「おお! ゲーム機が立ち上がったぞ! なになに……、『ガールフレンド(熟女)』? 何じゃ、このゲームは?」
「し、失礼いたしました! それは、さっきまで拙者が遊んでいたゲームで、魔王様にはふさわしくございませんでした!」
ベルフェゴールは、懐からゲームソフトを取り出すと、カセットを入れ替えた。
「魔王様のために、とっておきのゲームを用意いたしました」
「それは、楽しみじゃ! おっ、始まったぞ!」
ちゃらっちゃっちゃちゃっちゃ!
「このBGMは聞いたことがあるぞ! これは、けっこう有名なゲームなのではないのか?」
「はい。人族の間で流行っているものを知ることも、戦略上、重要でございますから」
「確かに! タイトルは、……『スーパーマリモ! 阿寒湖を救え!』じゃと? ローカルすぎるじゃろ!」
「自然を守ることも大切なことでございます」
「それはそうじゃが。あまり、面白そうじゃないのじゃ。別のものはないか?」
「えり好みしすぎですぞ。仕方ありませんなあ。では、これなどはいかがですか?」
ベルフェゴールは、また、懐からゲームカセットを取り出し、リーシェに差し出した。
「……『ドラゴンゼネスト! 労使交渉の彼方』? ベルフェゴール! そなたの趣味には、わらわはついて行けぬわ」
「そ、そうでございますか?」
「しかし、ベルフェゴールの心遣い、感謝するぞ」
「ははあ! しかし、魔王様。ゲームもされないとなると、連休中はどうやって過ごされるおつもりですか?」
「心配するでない。普段できないことを、わらわもやろうかと思っておる」
「良い心掛けでございますなあ。具体的には何を?」
「今、考えておるが、近回りの寺社仏閣巡りなど、いかがであろうの?」
「それ自体は素晴らしいことですが、魔王様の余暇の過ごし方としては、いかがなものかと」
「何でじゃ? 拝殿の前で手を合わせると、心が洗われるではないか」
「魔王様が神様や仏様に何をお願いするのですか?」
「とりあえず、この前に、ベルフェゴールの財布から抜いたお金で買った宝くじが当たるようにじゃな」
「だから、勝手に人の財布からお金を抜き取らないでくださいませ」
「宝くじが当たれば何倍にもなって返ってくるのじゃぞ! 出資者として、そなたにも出資金相当額は返ってくるのじゃぞ!」
「いやいや、出資者なら、利息くらいは付けて返してくださいませ」
「仕方ないのう。では、宝くじが当たったら、そなたにも当選金の半額を渡そうぞ!」
「本当でございますか? って、もともと、拙者の金ではないですか!」
「まあまあ、細かいことは言うでない」
「言いますよ! 我が家の家族旅行も、食費を切り詰めて、この鎧の修理費用も後回しにして、やっと予算が確保できたのですからな」
「そういえば、今まで突っ込まなかったが、十二魔将どもの給料は、どこからひねり出しておるのじゃ?」
「魔王様が五百年前まで、この世界を支配していた時の備蓄を取り崩しておるのですよ」
「そ、そんな金があるなど初耳じゃぞ! その金でオージーコーナーのケーキが山のように買えるのではないか?」
「そういう訳にはまいりません! その金は、我らが、再び、天下を奪い返した際の国家予算となる金でございます。拙者がキチンと管理をしておりますゆえ、魔王様であっても自由に使わせる訳にまいりません」
「家族旅行に行くなど、もしかして、そなた、横領しておるのではないじゃろうな?」
「とんでもございません! もし、横領しているのなら、一泊二食付き七千八百円という格安バスツアーではなく、新幹線を使いますぞ!」
ベルフェゴール一家のあまりに貧相な旅行プランに、さすがのリーシェもベルフェゴールを疑ったことを悔いたようだ、
「ベルフェゴールよ」
「ははあ!」
「わらわが悪かった。疑ってすまなかったの」
「ははあ! その優しきお言葉、嬉しゅうございます!」
「うむ! それでは、温泉饅頭四十八個入り五箱は無理じゃな。四箱で良いぞ!」
「……」