もうネタギレだぜと自嘲するしかない第三話:魔王様、魔法でケーキをお取り寄せする!
「何じゃ、この傘は?」
魔王城の玉座の間に、番傘が所狭しと並べられていた。
「魔王様の言いつけを守り、傘貼りの内職を始めたのでございますよ」
「わらわはアルバイトと言うたが?」
「我ら十二人とも人相が悪いとかで、どこのコンビニでも不採用になりました」
「ふむ。それは仕方ないのう」
「いやいや、そこであっさりと納得されないでくださいませ」
「まあ、この傘の一つ一つがケーキになると思えば、くるしゅうないぞ」
「ははっ! って、いやいや。この傘の売り上げは、魔王様の堕天馬の購入資金に充てまする」
「え~、じゃあ、ケーキは~?」
「我慢してくださいませ。我らも飯を一食抜いて頑張っておるのですぞ」
「その壁に貼っておる『打倒! 中年太り!』という張り紙は何じゃ?」
「こ、これは、節約と健康を同時に達成するための呪文書でございます」
「ふ~ん。まあ、皆が頑張っておるのじゃから、わらわ一人がわがままを言うてはいかんのう」
「さすが魔王様です! このベルフェゴール! 魔王様のその優しきお心に感服いたしました!」
「ベルフェゴールよ。わらわは、いつも皆のことを考えておるのじゃ」
「ははっ!」
「これからは、オージーコーナーのケーキは諦めて、ミセズドーナッツのポンデリングにするぞ」
「……せめて、セブンオヤブンの百円シリーズ芋ケンピになさいませ」
「それはそれで美味しいが、お洒落ではないではないか! 魔王のおやつとしてふさわしくないのじゃ」
「おやつと言う時点で、ふさわしくありませんが」
「それに芋ケンピは髪に付いたりするのじゃぞ」
「使い古された少女漫画ネタはお止めくださいませ」
「とにかく、最低でもポンデリングじゃ! これは絶対に譲れないのじゃ!」
「仕方ありませんなあ。では、一個だけですぞ」
「そ、それでは芋ケンピと変わらぬではないか! せめて三個じゃ」
「駄目でございます」
「ベルフェゴールの渋ちん!」
「何とでも言いなさいませ。こちら側としても譲れないことでございます」
「そうじゃ! 魔法じゃ! なぜ、今まで気づかなかったのじゃろ。魔法でケーキを出せば良いではないか」
「そんな魔法は聞いたことがございませんが?」
「わらわは魔王じゃぞ。わらわのIMEには『不可能』という単語は登録されておらぬのじゃ」
「無駄にコンピュータ用語と関連付けようとしても空振りに終わっているようでございます」
「うるさいのじゃ! では、いくぞ」
魔王リーシェが両手を高く上げた。
「リアップ・ラパパッ! ケーキよ、出でよ!」
爆音とともに煙が立ち上った。
煙が消えた跡には、メーターのようなものが落ちていた。
「何じゃ、これは?」
「計器……でございましょう」
「こんな駄洒落が受けるとでも思っておるのか、作者は?」
「さ、さあ」
「とりあえず、もう一回するのじゃ! リアップ・ラパパッ! ケーキよ、出でよ!」
再び、爆音とともに立ち上った煙が消えた跡には、結婚式で使用されるような高くそびえるケーキが出ていた。
「おお! さすがは魔王様!」
「ふふん。わらわがちょっと本気を出せばこんなものじゃ」
「しかし、魔王様。これ、張りぼてでございますよ」
ベルフェゴールがくるりとケーキを裏返すと、裏半分は無く、中は空洞であった。
「……どこかの式場から飛んできたのかの?」
「どうやら」
「ならば、オージーコーナーのショーケースから飛ばせてくるのじゃ! リアップ・ラパパッ! ケーキよ、出でよ!」
みたび、爆音とともに立ち上った煙が消えると、そこにはオージーコーナーのケーキを入れる紙箱が現れていた。
リーシェが紙箱を開けると、中には美味しそうなケーキが四個入っていた。
「おお! 今度こそ本物のケーキが!」
「ふふふ、これから毎日、この魔法を使うのじゃ」
「しかし、魔王様。これでは、万引きと一緒ではないですか?」
「万引きではない。ちゃんとお金を支払っておるわ。これでの」
リーシェが一枚のカードを取り出した。
「この魔法はの、まずは、ベルフェゴールの財布から、この『お気楽天カード』を抜き取り、その電子マネー機能を使って、ちゃんと代金を支払った上で、ケーキを呼び寄せるという、清く正しく美しい魔法なのじゃ」
「止めてください。まだ、家のローンが残っているのですからあ」