これが書きたかっただけの第二話:魔王様、いろいろと危険な発言をする。
「美味いのう! やっぱり、ケーキはオージーコーナーに限るのう」
魔将どもが買って来たケーキを頬張りながら、上機嫌のリーシェだった。
「魔王様、あまり具体的な店名を想像させるような発言はお慎みください」
「何でじゃ?」
「い、いや、せっかく始まったこの連載が中止に追い込まれる恐れがございますゆえ」
「何のことを言っておるのか、分からぬのじゃ」
「今のは、作者の独り言でございます。それよりも魔王様、もう、お目覚めでございますか?」
「うむ。ばっちりとじゃ!」
「それは上々でございます。それでは、早速に出陣いたしましょうぞ!」
「出陣? どこへじゃ?」
「五百年前に我らが帝国を滅ぼした、憎き人族の帝国の首都に向けてでございますよ」
「そういえば、そんなこともあったのう」
「魔王様の力を見せつけてやりましょうぞ」
「目覚めたばかりなのに、もう行くのか? 少し休みたいぞ」
「今まで、ずっとお休みされていたではありませぬか」
「また、疲れたのじゃ~」
「ケーキを食べることしかされておりませぬが?」
「ケーキを食べるのも、それなりにエネルギーを消費するのじゃぞ!」
「……人族の帝国の首都には、オージーコーナーだけではなく、多くのケーキ屋さんがあると聞いておりますぞ」
「本当か?」
「もちろんでございますとも。食べきれないほどケーキがあるはずでございますよ」
「すぐに行くのじゃ!」
「ははあっ!」
魔王城から外に出た十二魔将は、蝙蝠の羽が生えた堕天馬に跨がり、魔王様を待っていた。
そこにリーシェが徒歩で出て来た。
「魔王様! 魔王様専用の堕天馬はどうされたのです?」
「おお、そうであったな。すっかり忘れておったわ」
「ははは、魔王様、すっかり忘れやすくなられて、どわぁー!」
堕天馬ともども地面にめり込んだベルフェゴールの頭を踏みつけながら魔王リーシェが魔将どもの前に進み出ると、両手を天に向けて突き上げた。
「リアップ、ラパパッ! 堕天馬よ、出でよ!」
爆音が響き、立ち上った煙が消えると、そこには堕天馬が!
と思うと、ロバがいた。
「ま、魔王様、こ、これは?」
「わらわの堕天馬じゃ」
「いや、どこからどう見てもロバですが……、しかも羽はテープで貼り付けておりますぞ。堕天馬はどうされたのです?」
「そういえば、遙か昔のことなので忘れておったが、あまりにお腹が空いた時に、馬刺しにして食べてしまったのじゃ」
「……それはそれとして、先ほどの呪文は?」
「何か問題でも?」
「毎週日曜日の朝に、よく耳にする呪文と似ている気がするのですが?」
「むしろ、すだれ髪のおじさんの洗面台に、必ず、ありそうな薬品の名前そのもののような気もします」
「そなた達、何を言っておるのじゃ。わらわは、千年前から、この呪文を唱えているのじゃぞ。商標登録もしておるのじゃ!」
「まことでございますか?」
「うむ。千年前にの」
「……既に期限切れでは?」
「あー、うるさいうるさい! そんなに文句があるのなら、わらわはもう帰る」
「ま、魔王様! 我々が悪うございました! と、とにかく、進撃しましょうぞ! ケーキが待っておりますぞ!」
「そうじゃったな。よし! 進撃じゃ!」
ぽこっぽこっぽこっぽこっぽこっぽこっ……。
「ま、魔王様、そのロバでずっと行かれるおつもりですか?」
「だって、これしかおらぬのじゃ」
「これでは、人族の帝国の首都まで一年以上掛かりますぞ。拙者の堕天馬に一緒にお跨がりくださいませ」
そう言ったベルフェゴールを、リーシェは疑いの眼差しで見上げた。
「そなたの? 嫌らしいことをしそうな目で、わらわを見ておるし」
「拙者はロリコンではありませんぞ! むしろ、熟女の方が……。こほん、では、こうしましょう。拙者が飛行船を召還いたします! 皆でそれに乗りこみましょう!」
「そんなのがあるのか? ベルフェゴール! 早く申せ」
「前回、使ったのも七百年前でしたので、拙者も忘れておりました。では」
ベルフェゴールは、空に向けて、祈りのポーズを取った。
「テクマクマザコン・テクマクロリコン! 飛行船よ、出でよ!」
帆船の形をした飛行船が空に現れた。
「おお! さすがは十二魔将筆頭!」
感激する十二魔将達をよそに、リーシェが醒めた目でベルフェゴールを見つめた。
「て、言うか。ベルフェゴールよ。そなたの呪文もいろいろと問題がありそうな気がするのじゃが?」
「拙者の呪文の問題点が分かる者がいるとすれば、そやつは年齢詐称をしている奴に間違いございません!」
「永遠の十七歳などとほざいている奴とかか?」
「拙者の口からは何とも。それよりも、この飛行船に乗って、人族の帝国の首都まで、一気に攻め入りましょうぞ!」
「ベルフェゴールよ」
「は、ははっ!」
「何じゃ、この船は?」
「め、面目次第もございません」
飛行船は、「やってらんねえよ」とか「だぁりぃんだよ」とか文句を言っては、動こうとしなかった。
「これでは、『非行』船ではないか?」
「おお! 魔王様、さすがでございます!」
「馬鹿にしておるのか!」
また、地面にめり込んだベルフェゴールであった。
「もう少しお金を貯めて、新しい堕天馬を買うのじゃ。進撃はそれからにしようぞ」
「それがようございますね」
「うむ。では魔王城に帰ろうぞ」
「ははっ」
「途中でコンビニに寄って、ケーキを買うのじゃ」
「ま、魔王様、先ほど、新しい堕天馬を買うとおっしゃられましたぞ。魔王様専用の堕天馬はかなりの高額。我々も貧乏ゆえ、ここは我慢なさいませ」
「嫌じゃ! ケーキを買うのじゃ!」
「そう言われましても」
「ベルフェゴール!」
「ははっ!」
「万引きでもしてくるのじゃ」
「それはできませぬ! 我らは清く正しく美しい魔族なのですぞ! 魔王様もそこはわきまえてくださいませ!」
「仕方ないのう。では、そなたらがアルバイトでもして買ってきてたもれ」
「……」