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何となく始まった第一話:魔王様、おネムではらぺこだったりする。

 時折、稲妻が照らし出す夜空は漆黒の闇。

 その夜空にそびえ立つ、いかにも怪しい宮殿。

 人呼んで「魔王城」。

 その地下室に、「十二魔将」と呼ばれる、十二人の魔族が集結していた。

 祭壇に向けて、一心不乱に祈りを捧げる十二人のうち、もっとも祭壇に近い場所にいる、真っ黒な鎧をまとった巨漢が振り向き、あとの十一人に向けて親指を立てた。

「皆の者! 喜べ! 魔王リーシェ様が復活される兆候を感じたぞ!」

「おお!」

「まことか、ベルフェゴール!」

「紛れもない!」

「どれだけ、この時を待ったことか!」

「人族に鉄槌を下す時が、ついにやって来たぞ!」

「さあ! 拙者とともに祈るのだ!」

 ベルフェゴールと呼ばれた黒鎧の巨漢は、再び、祭壇に向き、再び、祈りを捧げた。

 地下室が大きく揺れた。

 さすがの十二魔将どもも立っていられないほどであった。

 そして、訪れた静寂。

「見ろ!」

 魔将の一人が指差す先の祭壇には、半袖ワンピースのような白いチュニックにベルトを締めて、素足にグラディエーターサンダルを履いた一人の小さな女の子がうつぶせに横たわっていた。

「魔王様! ……だよな?」

「背が縮んでいるような気がするが……」

「い、いや、あの紫色の長い髪は魔王様の証!」

「魔王様!」

「魔王様! お目覚めください!」

 魔将どもが呼び掛ける声が聞こえたのか、「うう~ん」とうめいた幼女は寝返りを打って、仰向けになった。

 しかし、まだ、眠りから覚めなかった。

「ベルフェゴール! 本当にあれは魔王様なのか?」

「魔王様は、八頭身で胸がボーンと出ていて、ウェストがキュッと締まっていて、ヒップは撫で回したいくらいセクシーだったではないか? しかし、あれは、どう見ても、上から下に引っ掛かる所がない体型だぞ」

「……とにかく、お目覚めになってもらおう」

 ベルフェゴールは、ゆっくりと祭壇に歩み寄り、祭壇の上で眠りこける幼女の体を揺さぶった。

「魔王様! どうぞ、お目覚めください! 魔王様!」

「も~、うるさいのじゃ!」

 幼女が目も開けずにそう言うと、ベルフェゴールの巨体が地下室の後ろの壁まで吹っ飛んでいった。

 壁にめり込んだベルフェゴールは、「この強力な魔力! 間違いない! 魔王様だ!」と壁から抜け出しながら、魔将どもを見渡した。

「皆の者! みんなで魔王様を起こすのだ!」

 ベルフェゴールの音頭で、魔将どもは祭壇に近寄り、魔王様を取り囲むようにして、口々に「魔王様! お目覚めください!」と呼び掛けた。

 幼女は、ぱちりと目を開けると、顔をしかめながら、上半身を起こし、魔将どもを睨みつけた。

「うるさいと言っておろうが!」

 次の瞬間、十二魔将全員が吹っ飛ばされ、地下室の四方の壁に激突した。

 幼女は、また、自分の腕を枕にして横になると、あっという間に寝息をかきだした。

「ベ、ベルフェゴール。お目覚めにならないぞ」

「そ、そうだな。まだ、眠いのだろう。しばらく、このままで待っていよう」



「ベルフェゴール!」

「何だ?」

「もう丸一日になるのに、まったく起きる気配がないぞ」

「そ、そうだな。そろそろ、お腹が空かれる頃だと思うのだが」

「そうだ、ベルフェゴール! ご馳走を用意して、魔王様の鼻先に置けばいかがであろう?」

「おお! なるほど! その匂いにつられて、『お腹がすいたぁ~』などと言いながら、目覚めさせるという作戦だな」

「そういうことだ!」

「良き考えだ! 皆の者! すぐにご馳走を用意するのだ!」

 幼女が横たわっている祭壇の周りに、宅配ピザ、宅配寿司、そしてコンビニの総菜が所狭しと置かれた。

 幼女の鼻がピクピクと動くと、目をぱちりと開けた。

「おお! やったぞ!」

「お目覚めでございますか、魔王様?」

「何じゃ、ベルフェゴールか」

 上半身を起こして、祭壇の上にちょこんと座り直した幼女が、ベルフェゴールを見て、素っ気なく言った。

「いかにも、ベルフェゴールでございます! 憶えていただき光栄でございます! 十二魔将一同、魔王リーシェ様のお目覚めを今か今かとお持ち申し上げておりました!」

「ベルフェゴールよ」

「ははあっ!」

 十二魔将が一斉に跪き、頭を垂れた。

「ケーキはないのか?」

「はあ?」

「わらわはケーキを食べたいぞ」

「ケ、ケーキでございますか?」

「そうじゃ! ここにある料理をすべてケーキに変えよ! チェンジじゃ、チェンジ!」

「しょ、少々、お待ちくださいませ! 皆の者! 至急、ケーキを用意するのだ!」

「し、しかし、このご馳走を用意するのに資金をかなり使いましたぞ! ケーキを買うための資金が乏しくなっております!」

「ふふふ、心配するな」

 ベルフェゴールが懐から、クーポン券を出した。

「こんなこともあろうかと、貯めておいたのだ」

「おお! さすが、ベルフェゴールだ!」

「さあ、ケーキを揃えて来るのだ!」

 ベルフェゴール以外の魔将どもは、マイバッグを持って、ケーキを買いに出掛けた。

「魔王様、今しばらくのお待ちを」

「うむ。くるしゅうないぞ。では、ベルフェゴール!」

「ははあ!」

 ベルフェゴールは、条件反射的にひざまずいた。

「わらわは、また、眠るでな。ケーキが来たら起こしてたもれ」

「……」


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