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英雄になれと言われても?  作者: 織田寿一
第一部 英雄になれと言われても?
6/24

6 レドリック家、侵入

《これで事前準備は完了、だな》

「最悪の気分だ……」


 とある街外れの路地裏。そこでレイは手に入れた装備品を確認していた。

 近場では足がつく危険性が高かったため、わざわざ遠出して白い仮面を買い、それに適当な装飾(という名のいいかげんな塗装)を施し、それを着けて鎧その他を集めた。

 装備は揃ったものの、仮面の男ということで怪しまれたのは言うまでもない。


《落ち込んでいる暇はないぞ。レドリック家の大体の間取りと、警備状況を調べなければ。無策で飛び込むのは、さすがにリスクが高いからな》

「ようやくまともな意見を聞けたような気がするよ……」

《? 私はまともなことしか言っているつもりはないのだが……》


 本気か冗談かわからず、レイはそれ以上何も言わないでおくことにした。



 さすがに間取りを手に入れることは出来なかったが、遠目から屋敷を確認し、そこから大体の構造を推察することになった。

 首都郊外に大きな屋敷を構えているレドリック家。近所にはポツポツと大きめの屋敷が立っているが、その中でもレドリック家の屋敷はかなり大きめであると言えた。

 なんとなく下品に感じる屋敷を眺めつつ、ついでにこの下見で大体の警備状況を把握することになった。


《正門に二人、敷地内に四人か。……屋敷内に何人いるかだが、気配を消している者を除けば、それなりの実力者が五人といったところか》

「よくわかるな……」

《それなりの実力者なら気配を消すこともできるが、それ以外は漏れ出ている闘気や魔力でわかるからな。さすがに実力者が本気で気配を隠していたら、我にも察知は出来ん》


 実力者は、そういったことを感知する力があるというが、グレンも(ペンダントではあるが)そのひとり(?)のようだ。


「僕にはわからないや……」

《ちゃんと鍛え直せば、可能性はあるさ。というか、お前さんにはもっと強くなってもらわないとな》


 期待なのか、何なのか。……しかし、強くなれば誰か――クリスを守ることが出来る。強くなるというのは、レイ自身の願いでもあった。


「『鎧』に負けないように、鍛えないとね」

《その意気だ》



 レドリック家の、大まかな状況は確認できた。あとは、どのように、いつ決行するか、だ。


《決行は今夜、闇に紛れての奇襲といこう》

「物凄く悪役じみた奇襲になりそうだなぁ……」


 幼少の頃、英雄モノの本を読んでいたレイには少々、後ろめたい気持ちになる奇襲だ。


《絶対の正義を語るよりは、『悪を食らう悪』を気取った方が、マシだと思うがね。それとも、やはり『正義の仮面騎士』の方が良いのか?》

「やめてくれ」


 ため息をつき、諦める。

 決行は、今夜。これで全てが解決すれば良し。しなければ……その時は、どうするべきか?



☆ ☆ ☆



《警備は昼間とあまり変わらんな。入れ替わりがあるものの、実力的にはほとんど同じだろう》

「勝てると思うかい?」


 抱いている不安をぶつけると、グレンは《勝つ必要はないさ》と『苦笑して』いた。


《目的は、カイル・レドリックに対し、エヴァンス家から手を引くように『説得』することだ。無用な戦闘は、むしろ割けるべきだ》

「そりゃ、そうだけど……」


 そうじゃない、と思いながら口にすると、グレンは《まぁ、お前さんから感じる力が真に発揮されれば、ここの警備程度は何とかなると思うがな》と言われる。


《足りない部分も多々あるとは思うが、それでもそれなりの力はあるんじゃないか? そうでなければ、我の見る目が無いということになる。それだけだ》


 どことなく『苦笑』しながら言われたような気がするが、追求はやめておく。


「まぁ、その話はもういいや。……どうやって攻める?」

《正面突破はさすがに手間が掛かり過ぎる。警備の薄いところから侵入し、屋内へと踏み込もう》

「それじゃあ、察知するのは任せたよ、『相棒』」

《任せろ》


 グレンの指示で屋敷側面の塀から侵入し、一気に屋敷の壁まで走る。警備は気がついていない。


「ここからどうする?」

《そこの窓から入れないか?》


 小声でやりとりをし、近くにあった窓に手をかけると、スムーズに開いたので一気に侵入。屋敷内に入ることが出来た。


「スムーズ過ぎて、逆に不安だな……」

《警戒はするさ。とりあえず、メイドあたりを捕まえて、カイルの居場所を聞き出したいな。そこの角をもうすぐ通過するだろう気配がひとつあるから、それを捕まえてみよう》

「大丈夫かなぁ……」

《我を信じろ》


 疑っていても仕方ない。言われた通り、角で待ち伏せをして、現れたメイド(メイドで助かった)の口をふさぎ、「声を出すな」と、少々低い声で『脅し』た。

 まだ若い(十三、四?)焦げ茶髪のメイドは、涙目になりながらレイに従った。


 グレンの誘導で空き部屋(?)に入り、「手荒な真似をしてすまない」と一言詫びた。


「俺は、カイル・レドリックの悪事を止めるためにやってきた者だ。カイル・レドリックはどこにいる?」


 仮面だけでは何か不安だったので、声音と口調を変えてみる。安易な気もしたが。


「こ、殺さないで……」

「誰も殺しはしないさ。ちょっと、話を聞いてもらうだけだ。……で、奴はどこにいる?」


 顎を掴んで顔を上げさせると、「ひっ……!」と怯えられる。……そうするようにしているのだが、実際怯えられると何か心が痛い。


「ご、御当主様はお部屋でお休み中です……」

「部屋は?」

「二階の、東の突き当りです……」


 涙目でそう教えてくれたメイドに「怖がらせて悪かったな」と詫び、「君は何も見なかった。良いね?」と告げると、メイドは慌てたように首を縦に振った。


 メイドを残して部屋を出ると、すぐに二階への階段を探す。警備の人間と鉢合わせしそうになると、グレンの誘導で隠れたりして、どうにか二階へ上がることが出来た。


《東というと、向こうか》

「だろうね」


 通路の角、物陰から伺うと、そこには警備に守られた部屋があった。


「これは……正面突破?」

《それは避けたいところだな……仕方ない、空き部屋から外に出て、窓から侵入しよう》

「うへぇ……」


 警備を避けながら最短ルートで出られそうな空き部屋を探し、その部屋の窓から外に出る。風が強くないのが幸いだが、下手をすると落下、警備に見つかるなどのリスクは高い。


「バルコニー伝いで行くしかないか……ちょっと離れているけれど」

《あまり大きな音を立てると見つかるからな》

「わかってるよ」


 手すりに登り、ジャンプ。少し音を立ててしまったが、見つかった気配は無い。

 同じことを繰り返し、四つ離れた部屋へたどり着く。位置的には東の最奥の部屋だ。

 中を伺うと、趣味の悪い天蓋付きベッドに誰かが眠っていた。


「それじゃ、侵入しますかね……」


 扉を開け、部屋へと侵入する。気がついた気配はない。

 ゆっくりと近付き、剣(特価、処分品)を抜く。ベッドの側に来ると、剣を首のあたりに近付けた。

 ベッド際の蝋燭に照らされ、顔が見える。パッと見は美男子の優男が、そこにいた。


「カイル・レドリック」


 声をかけると、眠りが浅かったのか目を開ける。声を上げそうになったので口をふさぎ、剣を首筋に当てる。


「騒げば殺す」


 そう告げると、カイルは黙った。


「今日来たのは、何もお前を殺すためではない。ちょっとした忠告だ」


 レイ(仮面の怪しい男)の言葉に、カイルは怯えながら「何のことだ?」という顔でレイを見ていた。


「アンタ、エヴァンス家に余計なことをしたよな? あれで困ったことになった人がいてね……すぐにやめてもらえると、俺も依頼主も……そしてアンタも幸せになれるんだが?」


 カイルは、最初キョトンとしていたが、話を飲み込んだのか、怯えつつもレイを睨み、首を縦に振ろうとはしなかった。


「それは、拒否の意思表示と受け取って良いのかな?」


 カイルは、睨んだままだった。


「そうか……じゃあ、アンタには死んでもらうしかないか」


 首筋に当てた剣を、ゆっくりと引く。ツーっと血が溢れ、カイルからは「ひっ……!」という怯えた声が漏れる。


「コイツは安物でな……切れ味が悪いから、一瞬で死ぬなんてことは出来無さそうだ。残念だったな」


 ゆっくり、ゆっくりと剣を引く。

 明かりに照らされたカイルの表情が、徐々に青ざめていく。


「む、む~っ!」


 口をふさがれ、くぐもった声になるが、カイルが何かを叫んでいる。


「命乞いは聞けないな。アンタが生き残る道はただひとつ、エヴァンス家への手出しをやめること。それだけだ」

「むむった! もむももむもも!」


 やめてくれ、と言ったような気がするので、剣を止める。カイルは涙目になっていた。


「わかってくれたのかな?」


 カイルは首を縦にブンブンと振った。


「アンタが賢くて良かったよ。これでアンタを殺さなくて済む。ただ……」


 首筋から離した剣を、両手で持って枕元、カイルの左頬そばに突き立てる。


「約束を破ったら、殺すよ?」


 カイルは「はひぃ……!」と声を漏らすと、白目をむいてしまった。


《気絶したようだな》

「だな」


 剣を鞘にしまうと、レイは再びバルコニーに出る。


「足が折れませんように!」


 背後で扉が開く音を聞きつつ、レイはバルコニーから階下へと飛び降りる。それなりの高さがあったが、どうにか着地して走りだす。


《頑丈で良かったな》

「それだけが取り柄みたいなところがあるからな!」


 そんなことを言いつつ、レイは全力で屋敷から逃げ出した。


 追っ手はしつこかったが、明け方にはどうにか逃げ切ることが出来た。


「こんなのは、もう懲り懲りだ!」

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