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英雄になれと言われても?  作者: 織田寿一
第一部 英雄になれと言われても?
5/24

5 相棒

「――?」


 気がつけば、そこは洞窟の中。――そうだ、ギルバートに言われてやってきたのだ。


「今のは、幻……?」


 長い、とても長い夢でも見ていたような……そんな感覚だった。しかし、それにしても『生々しい』夢だったような気がする。


《どうした少年、『愚かな男の人生』でも垣間見たか?》


 その声は、胸元から聞こえた。レイが自らの胸元をみると、そこにはペンダント――『グレン』があった。


《正直なところ、君自身から感じる『力』は、そう強いものではない。だが……その心と、将来性に私は賭けてみたいと思う。よろしく頼むぞ、『相棒』よ》

「そんな簡単で良いのかよ……」


 あのギルバートですら選ばれなかったと、グレン自身がそう言っていた。なのに、たったあれだけの会話で、グレンはレイを選ぶという。


(化かされているのか……?)


 そんなことを思わず考えてしまう。


《あらためて、自己紹介しよう。私はグレン。『王者の鎧』と共に在る、亡霊とでも言っておこう》


 なんとなく、笑っているような雰囲気がある。……今のは冗談だったのか?


「レイ・ガーラント。冒険者をやっている」

《レイ……ふむ、なかなか良い響きの名前だ。よろしく頼むぞ、レイ》


 気楽な感じで言われる。

 色々気になることはあるが、まずは最大の疑問をぶつけてみる。


「ところで、『王者の鎧』って言っていたけど、どこにあるんだ?」

《まずはそこが気になるか。……まぁ、仕方ないといえば、しかたないのか?》


 そう言ってグレンは『笑った』。


《ペンダントに念じよ。『我が鎧よ、その姿を現せ』とな》


 このペンダントが魔道具、ということなのだろうか。魔道具の中にはアクセサリーのような姿をしていて、使用すると武具へと姿を変えるものがあると、聞いたことがある。


(えーと、『我が鎧よ、その姿を現せ』)


 ペンダントから、光が溢れる。次の瞬間、レイは身体に重さを感じた。

 レイの身体を、白く輝く鎧が包んでいた。


「これが……『王者の鎧』?」


 重い。鋼の重さとは異なる、何と言えば良いのか……『何かを抱えてしまった』重みをレイは感じていた。


《まだ『鎧』に振り回されているか……なに、すぐに慣れるさ》


 鎧の胸元、輝く宝玉からグレンの『声』は聞こえるようだった。


「こんな状態では、戦いたくはないな」


 正直な感想だ。『王者の鎧』は様々な加護を受けていると聞いたことがあるが、それらがまともに機能したところで、これでは棒立ちに近い状態になり、加護の恩恵を帳消しにしかねない。


《『王者の鎧』は普通の鎧ではない。明確な意志と力が無ければ、ただの重い鎧だ。この鎧を使いこなせたら、お前さんも英雄の仲間入りが出来るだろうさ》

「使いこなせたら、ね……」


 使いこなせなければならない。それも、短時間で。


《鎧は普段、宝玉の中に封印されている。元に戻したければ、『我が鎧よ、戻れ』と念じれば、再度封印される。鎧には自己修復機能があるが、封印中の方が自己修復は早いからな、忘れないでおいてくれ》


 言われて、とりあえず『我が鎧よ、戻れ』と念じる。再び輝きに包まれた後、鎧は姿を消していた。


「なんだか、変な感じだ」

《まぁ、『王者の鎧』のような鎧は珍しいからな。慣れるしかない》

「そんなものかね……」


 伝説として語り継がれる鎧を、こんなあっさりと手にしてしまったことで、どうにも現実感が薄かった。


《レイ、君が善き英雄になることを願うよ》


 そう言って、グレンは笑ったようだった。



☆ ☆ ☆



 洞窟を出て、貸しボートに苦戦しながら上がり、岸に着いてボートを返す。ボートを借りた土産物屋は「あれまあ、落ちちゃったんですか?」と心配してくれたが、大丈夫だと言い張ってその場を去る。

 濡れた服が気持ち悪いので、とりあえず上着だけでも絞って乾かそうと、グレン湖を眺めながら風に当たる。


《景色はあまり変わらないな……土産物屋はなかったとは思うが》


 ここの土産物屋が立ったのは、たしか六十年くらい前か。百年以上前の人間であれば、知らないのは当然かもしれない。……もっとも、グレンが『覇王』グレン・ラザフォード本人であれば、という話ではあるが。


「観光地になったのは六十年くらい前だからなぁ。ここも、元々はグレン湖ではなくて別の名前だったというし」


《グレン湖……今は、そう呼ばれているのか……》


 何かありそうな雰囲気の喋り方だったが、グレンはそれ以上何も語らなかった。


(まぁ、グレン・ラザフォード最後の瞬間がここ、グレン湖だという話だし、何かあるんだろうな)


 そう思いつつ、レイは自分がグレンをグレン・ラザフォードと認めるような思考になっていたことに苦笑した。


《? どうかしたのか?》

「いや……何でもないさ」


 今日は比較的暖かい。乾かしていた上着も、どうにか着られる程度には乾いていた。


「それじゃあ、とりあえず部屋に戻るか。落ち着いて、これからのことを考えたい」

《『急いて馬車に乗り、荷を忘れる』と言うからな。落ち着いて物事を考えるのは大事なことだ》


 グレンの了承(?)も得られたので、レイは下宿へと足を向けた。



☆ ☆ ☆



「さて、とりあえず状況を再確認しようか」


 下宿に戻り、着替えたレイはテーブルの上に置いたグレンを相手に、『会議』を始めた。


《レイ、君の『惚れた女』を守るために、力が必要だと言っていたな?》

「あらためて言われると、ものすごく恥ずかしいな……。まぁ、その通りだよ」


 レイはあらためて『相棒』、グレンに今の状況を説明した。


「――という訳で、奴らの企みを暴くか、力により止めるか、という状況な訳だ」

《心地良い話ではないな……。とりあえず、そのレドリックという男の企みを阻止し、クリスティーナ嬢を守ることが、君の最優先事項ということか》

「そうなるね」

《面倒な状況ではあるが、わかりやすい結論ではある》


 グレンはそう言って『笑う』。


《企みを暴く、というのは時間が足りないだろう。そうであれば、力で押し切り、レドリックに自爆してもらうのが一番だろう》

「自爆……? どうやって?」


 グレンは《ふふん》と笑う。


《小細工に頼る者というのは、その小細工が通用しない者を恐れるものだ。追いつめて、自らボロを出させる。それで決着だろう》

「そんなに簡単にいくものかね……」

《そうやっていくつもの戦に勝ってきたのだ。信用してもらいたいものだ》


 そうは言うものの、ペンダントになっている『誰か』を信用するのは、簡単なことではないだろう。


「まぁ、今はアンタしか頼れないしな……『海で丸太にしがみつく』つもりで頑張るよ」

《何気に失敬なことを言うな、君は》


 そうは言いつつも、グレンはさほど気にしている様子はなかった。


《まずは、正体を隠してレドリック家を襲撃、脅しをかけるところからだな》

「偉そうに言ったわりに、随分と大胆で酷い作戦だな!」

《大胆さと繊細さ、そのふたつが重要なのだよ》

「繊細さの欠片もない提案に思えるけどね……」


 しかし、ここまできたら、ある程度の『大胆さ』は必要なのかもしれない。


《君につながらないように、装備を準備する必要があるな。仮面などもあると良い。大胆不敵にいこうではないか》

「他人事だと思って、楽しんでないか?」

《まさか》


 何となくグレンは真剣に考えつつも、状況を楽しんでいるような気がする。と言うよりも、レイで遊ぼうとしているような……そんな気がしてくる。


「買ったまま、まだ使っていない服と……皮鎧は処分品を探すか」

《まずは仮面だな。既製品を購入し、適当にアレンジすれば良いだろう。それを着けて買い出しをすれば、正体は不明だ》

「怪しい奴がいるって、騒ぎにはなるだろうな……」


 それを考えると、少々頭が痛い。正体は隠せるかもしれないが、目立ち過ぎる。


《正義の仮面騎士、とでも洒落込もうではないか》

「絶対、楽しんでるだろアンタ」


 しかし、短期間で何もかも準備するには、この手しかないように思える。不本意ではあるが。


(ギルド経由で手配すれば記録が残るし、こっそり手配できるような伝手は無い……グレンの案でやるしかないか)


 どうにも納得したくない案ではあるが、今はこだわっている場合ではない。


「わかった、それじゃあ、その案でいこうか」

《仮面騎士になるのか?》

「そうじゃないことぐらい、わかるだろうが!」


 疲れる。

 今になって、レイはとんでもないものを掴んでしまったのかもしれないと、ちょっぴり後悔し始めていた。


《冗談だよ、冗談。はっはっは》

「これからが不安だよ……」


 頭を抱える。しかし、今頼れるのはグレンだけだ。


「もう、僕にはアンタしか頼れる存在はない。頼むよ、『相棒』」


 気持ちを切り替えてそう言うと、グレンは《ふむ……》と少し、雰囲気を変えた……ような気がした。


《こちらこそよろしく頼むよ、我が初めての『相棒』よ》


 こうして、レイはグレンという『相棒』を得ることになった。

2015/08/20 02:20修正

自己修復は早いからから

→自己修復は早いから


六十年くらい前だからなぁ、ここも、元々は~

→六十年くらい前だからなぁ。ここも、元々は~


グレンは「ふふん」と笑う。

→グレンは《ふふん》と笑う。


グレンは「ふむ……」と少し、雰囲気を変えた……

→グレンは《ふむ……》と少し、雰囲気を変えた……


筆者:ちょっとチェックが雑でした。

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