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22 成長と、不安

 放たれた光熱波はゴーレムを破壊すること無く、通路内で乱反射した。


「は、反射したぞ?!」

《対魔術士用のゴーレムだったみたいだな》


 ゴーレムの表面は、どうやら対魔術用のコーティングが施されているようだった。これでは魔術をぶつけても、ダメージを与えるどころかこちらが窮地に追い込まれる可能性が出てくる。


 しかも、狭い通路だ。乱反射した魔術が通路を破壊し、生き埋めにでもなったら……。


(嫌だね、まったく……)


 辛うじて自らの魔術でダメージを負うことはなかったが、これで攻撃手段が限られてしまった。


「接近戦で仕留めるしかないってことか……」

《ゴーレムは見た目通りの怪力だ、捕まれば無事ではすまないぞ》

「厄介な相手だよ、まったく!」


 なりふり構わず、『鎧』を身に纏い、構える。

 ゴーレムの動きは、素早くはない。ならば、速さで圧倒して手数で攻めるのみ。


 素早く懐に入り、一閃。レイの剣はゴーレムの胴体に一筋の亀裂を作った。

 そのまま追撃を入れず、距離をとる。短期決戦といきたいところだが、未知の相手にリスクを犯すのは悪手に思えた。


「攻撃が通じない訳じゃない。……が、硬いな」

《ゴーレムだからなあ……》


 何とも言えない、といった感じのグレン。


「地道に削るしかない、か」

《それが一番単純明快な手だろう》


 ひとつ、ため息。


 気を取り直し、先程と同じく間合いを詰めて斬りつけ、反撃を避け、また斬りつける、を繰り返す。ひとつひとつは小さな傷だが、集中させれば大きな傷になっていく。


 同じ場所を狙い続けるレイに、ゴーレムも傷をかばうように動くが……速さに差がありすぎた。


「でりゃあっ!」


 放たれた一撃が、ゴーレムの『核』――光り輝く魔石を露出させる。


《あれが奴の心臓部だ。あれを砕け》

「了解!」


 振りかぶられるゴーレムの両腕による攻撃を避け、懐に入り込んだレイ。


「これで……終わりだっ!」


 魔石に突き刺さる剣。魔石は輝きを失い、ゴーレムはその動きを止め、重々しい音を立てて倒れ込んだ。


 危うく下敷きになるところだったが、仰向けに倒れてくれて助かった。


《なかなかやるじゃないか》

「ヴァリスに鍛えられているからね」


 苦笑しながらそう言ったレイだったが、響いてくる振動に顔を歪ませた。

 その振動は、徐々に近付いてくる。


「……一体だけじゃ、ないってか」

《……まあ、そういうこともあるだろう》


 レイの目の前には、先ほど倒したゴーレムと同じ型のゴーレムが三体、姿を表した。


「どうしようか?」

《逃げるのも手だぞ?》

「これを地上に近付けるってのは、ちょっとマズイんじゃないかな……」


 敵わない訳ではない。だったら、ここで食い止めるのが良いだろう――そう判断したレイは、もう一度剣を構える。


「狭い通路でデカイ図体並べて……ちょっとは頭使えよな!」


 通路はゴーレムが並んで立てるほどの広さは、ギリギリない。それを瞬時に理解し、レイは手前に立つゴーレムから一体ずつ、相手をすることにした。


「身軽な方が都合が良いってね!」

《身軽さと大きさは違うと思うが……》


 よく分からないグレンの呟きを無視し、レイはゴーレムに突っ込んだ。



☆ ☆ ☆



 結果から言えば、レイは攻撃を受けること無く、ゴーレム三体を倒した。

 時間はそれなりにかかったが、相手の攻撃手段が肉弾戦だけで、それでいてこちらの方が速いとわかっていれば、苦戦するのが難しかった。


《成長が垣間見えた戦いだったな、レイ》


 何やら満足げなグレン。


「時間はかかったけど、一方的過ぎてどうだかね……」

《このゴーレムは、それなりのゴーレムだ。これを無傷で倒せれば、それなりに力がついたと思って良いだろう》

「そんなもんかね……」


 イマイチ実感がないレイだったが、とりあえずそういうことなのだと思うことにした。

 グレンが言うのだから、そうなのだろう――その程度の考えではあったが。



「ご無事で何よりです」


 地上に戻ると、リゼ達がレイを待っていた。


「もう少し遅ければ、騎士団あたりに駆け込むところでしたが……」


 そう言ったリゼの顔は、ホッとしているように見えた。


「少々予想外のことはありましたが、あまり強くないゴーレムで助かりました」

「まあ……あのゴーレムは、それなりのゴーレムに見えましたが……やはり、お強いのですね」


 微笑みながらそう言うリゼの言葉に少々照れ臭くなるレイ。……褒められ慣れていないのだ。


「探索はどうします?」


 レイの問いに「そうですね……」と考え込むリゼ。


「今日は、やめておきましょうか。ゴーレムが待ち構えている可能性がある、それを踏まえた上での準備をし、再度臨む方が良いでしょう」

「手柄を焦って大怪我をするより、良いでしょうね」


 レイがそう言うと「そうですね」とリゼは苦笑した。


「命あってこそ、ですね。今回は助かりました。次の機会も、もう一度貴方に依頼させていただきますね」

「それは光栄ですね。是非」


 その後は依頼についての再確認をし、ギルドに戻る。依頼の達成報告のためだ。


 受付で依頼についての報告をし、リゼから事情説明をしてもらう。探索は途中で打ち切られた形だが、一応の目的は果たした、ということで報酬は満額貰えることになった。


「それでは、またお願いいたしますね」

「本日はありがとうございました」


 礼を言い去っていく二人を見送り、レイも帰路に着く。


《なかなか面白い人物だったな》

「……そうかい?」


 グレンがリゼを気に入ったようだったが、レイとしてはこれでお得意さんになってくれれば良いなと、その程度だった。


 とにかく、これで今日も無事に稼ぐことが出来た。



☆ ☆ ☆



「おっちゃん、手入れを頼むよ」


 ゴーレム相手に剣を振るったため、念のために顔馴染みの鍛冶屋に顔を出す。

 自分で確認した限りでは大きな傷みは無いようにみえるが、専門家に任せた方が安心だ。自分の命を任せると言っても過言ではない剣だ、素人判断は避けるべきだろう。


「おう、随分と間隔が短いじゃないか。……無茶、してねえだろうな?」


 気の良い職人、といった感じの鍛冶屋が、そう言ってレイを心配する。


「ゴーレムを斬ったもんでね、流石に不安だからさ」

「ゴーレムを斬っただとぉ? おいおい、無茶するなあ……」


 心配を通り越して呆れている風な鍛冶屋に剣を渡すと、即座にチェックし始める。


「――う~ん、見た目には問題なさそうだな。やっぱりコイツは良い出来の剣だよ」


 そう言って鍛冶屋は感心している。


「知り合いから譲ってもらったんだけど、おっちゃんからみても良いものなの?」

「ここまでのやつは、なかなかお目にかかれないんじゃないか? 所謂名剣、とまではいかないかもしれないが、普通の店先に置かれるようなもんでもないと思うぞ」

「へー」


 他人からそう評価されると、使い手としては何だか誇らしい。使っていて業物であるというのはよく分かるのだが、それを第三者に保証されるというのは、また別の話である。


「お前さんの知り合いってのは、余程の金持ちか?」

「ん~……まあ、富豪ではないけど、資産はあるほう……かな?」


 ヴァリスを思い浮かべる。豪華な住まい、という訳ではないが、例の騒ぎで世話になった宝石等を考えると、資産としては持っているということになるのだろう。


「買うにしても作らせるにしても、お前さんみたいな駈け出しに毛が生えたような冒険者が簡単に手に入れられるようなもんじゃないのは確かだ。大事にしろよ」

「だからおっちゃんに、こうしてお願いしているんじゃないか」


 そう言うと「まあ、そうだがよ」と苦笑した。


「急ぎじゃなければ、明日の午後に来い。ちょいと依頼が多いんでな」


 そう言って、作業場の隅を指す。そこには、いくつかの刀剣類が己の番を待っていた。

 この鍛冶屋は店主が一人でやっている小さなものだが、腕は確かだということで人気があるらしい。レイはギルバートに勧められて以来、利用している。ギルバートが勧めるなら、確かなのだろう、と。


「急がないから、それで良いよ。おっちゃんの所が繁盛しているなら、何よりだ」

「偉そうに。じゃ、コイツは預かる」

「よろしく」


 店を出ると、日も暮れて星が見え始めている。


《さすがにあの剣でも、無茶をしてゴーレムを斬ろうとすれば、刀身にダメージがあるのだがな。やはり、成長しているようだ》

「今日はよく褒められる日だな。明日が心配になってくる」


 苦笑すると、《こういう時は素直に「そんなもんか」と思っておけば良い》と言われる。


《慢心はいかんが、自分に自信を持つのは良いことだ。お前さんも、そろそろ自分がそれなりの力を持っていることを自覚することだ》

「自覚、ねえ……」


 強くなったな、とは思う。それでも、圧倒的な力の差を感じさせられたあの夜を思い返すと、まだまだ自分に自信を持つことは出来なかった。


「アイツに勝てないと、なかなか、ね……」

《ふむ……》


 この前の襲撃以来、周囲に異変はない。それでも、狙われているということは確かなのだ。いつやってくるか分からない『敵』に備え、レイは強くならなければならない。


「『後悔しないように』――それを考えると、やっぱりまだ不十分だと思うんだ」

《アイツに負けないように、か》

「それだけじゃないさ」


 いつか、また別の『敵』が現れたとしたら――その時、自分は大切な人々を守ることが出来るのか? それが出来なければ、その『強さ』に意味はない。


「悩んでいたって、仕方ないんだけどさ」


 悩むより、行動するしかない。そのためにヴァリスに稽古をつけてもらっているし、自分自身でもやれることはやっている。


 それでも、不安は拭い去ることが出来ない。これで良いのか、と――。


(勝てなければ、ずっとこの不安に苦しめられるんだ……)


 レイは、己の内にある『弱さ』とも、戦わなければならなかった。


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