僕と先輩の日常風景。
「七海先輩」
「なんだいゆーちゃん」
「どうして七海先輩を先輩と呼ばなければいけないんですか」
「私の方が年上だからじゃないかな」
「どうして先輩に敬語を使わなければいけないんですか」
「先輩は後輩よりも年上だからじゃないかな」
「ねぇ先輩。敬語って敬う言葉って書くんですよ? 国語の授業で学びませんでしたか?」
「要するにゆーちゃんは何が言いたいのかな?」
「先輩は敬うに値しないので、年上だからって敬語も使いたくないですし先輩とも呼びたくないです」
「ちょっと表に出ようかゆーちゃん。七海先輩が説教をしてあげようじゃないか」
「断固拒否します」
僕と七海先輩はいつもこんな調子だ。別に同じ部活に所属しているわけではない。今の会話や互いの呼び方の違いから分かる通り学年も違うし、同じ学校ということ以外には接点はかなり少ないと思う。だけどなぜか、時間ができると僕らはいつも行動を共にしている。ほんとうになんでだろう。
念のため言っておくと、別に僕らは特別仲が良いというわけではない。友達ではあっても親友ではないし、むしろなんで一緒にいるのだろうとたまに疑問に思ってしまう程の、曖昧な関係だ。
しいていうなら、ただ中学からの腐れ縁というだけ。
先輩のことを好きかと聞かれれば迷わず嫌いと答えるだろうし、じゃあ嫌いなのかと聞かれれば、これまた迷わず好きと答えるだろう。
僕と先輩はそういう関係で、その曖昧さがとても心地よかったりする。
まぁ、ここまで語っておいてなんだが、実は僕と先輩にとって僕らの関係というのはどうでもいいこと。そもそもこれ、誰に語ってるんだろう。なんとなく語ってはみたけれど、聞いてる人もいないんだからとても無意味な行為だった。
閑話休題。
とりあえず僕と先輩にとっては互いの関係とかはどうでもいいことで、気にする必要も考える必要も語る必要もないことなのだ。
ただそこに二人で一緒に居て、曖昧で心地のいい時間が楽しめればいい。
それだけで十分で、それだけが望み。
「……あれ? 今僕すごい良いこと言いませんでした?」
「へぇ。仮にも先輩の私を罵倒しておいて謝罪さえなく、むしろ良いことを言ったなと自画自賛かぁ。あまりのクズっぷりに思わず感嘆しかけたよ」
「あ、いや、さっきの悪意のない悪口のことじゃなくてですね。心の声です。思考。小説でいえば地の文です」
「悪意がなかったかは別として、要するになんのこと?」
「先輩とはまったく関係がないし、気にする必要もない超絶どうでもいいことですよ」
正確に言えば一応関係はある。でもだからって、今言うことでも、気にすることでもない。
だから平然と嘘をついてこの場では流す。
「そう。どうでもいいことか」
「そうです。そんなどうでもいいことはどうでもいいので、楽しく愉快にお話ししましょう」
「いや、その前に説教だな。別に表に出なくてもいいから正座しなさい。先輩らしく優しい怒り方をしてあげるよ」
「先輩らしく、とか偉ぶるのはやめてください。七海先輩はしょせん僕より一年産まれるのが早かっただけなんですから」
「よし決めた。やっぱり優しく怒るとかぬるすぎるよね。殴ろう」
「暴力反対です」
「言葉の暴力って知ってる?」
「物理的な暴力の方が痛いので釣り合いません」
こんな感じで、僕と先輩は今日も愉しく会話を交わして過ごしていた。