第二話~王太子となる&The 縁談~
1765年
王太子ルイ・フェルディナンが病死?した。
その長男ブルゴーニュ公は結核により病死、次男アキテーヌ公も夭逝していた。
そのため、三男ルイ・オーギュストが王太子となった。
王太子はこのような政策を実行した。
まずは王太子の名でサロンを開き有用な知識人を囲い込む。
これにより知識を深め合い、知識人の処刑も防ぐ。
そしてルイ・オーギュストは王太子であり、ベリー公でもあった。
すなわちベリー公領を統治する権利を所有しているのである。
…形式上は。
実態は王領で、代官が支配していた。
ルイは祖父をなんとか『説得』して、ベリー公領の統治権を手に入れた。
そして、ベリー公領内でジャガイモの量産を始めた。
民衆には不人気なジャガイモだが寒冷地に強く単位収穫量も多いため、来る寒冷化の対策としては欠かせない。
普及についても王太子には腹案があった。
ジャガイモ畑に昼間だけ衛兵をつけて厳重に警備し、夜はわざと誰も見張りをつけなかった。
そこまで厳重に守らせるからにはさぞ美味なのだろうと考えた民は、夜中に畑にジャガイモを盗みに入るだろう。
そうなればジャガイモは自然に広まるであろう。
「殿下、プラズラン公がお見えになられました」
「丁重に通してくれ、カルノー」
そして、年の近い侍従として召しだされた少年の名はラザール・カルノー。
後にフランス軍の軍制改革を主導し、「勝利の組織者」と呼ばれた人物だ。
彼はブルゴーニュの富裕な弁護士の息子で、王太子からの直々の召しだしに応じて、ここに来たのだ。
若くして知的で、素質も十分。
「これは外務大臣殿、わざわざのお運び痛み入ります」
「いやいや殿下のお望みとあらばいつなりと」
フランス王国外務大臣プラズラン公は警戒していた。
言ってしまえば王太子とは王の予備であり、王の存命中は何ら実権のないお飾りにすぎない。
それがベリー公という少し前までは名誉職だった地位を使い、「大地のりんご」を植えさせる等色々と変な事をやっているのだ。
しかし彼は現在その王太子のことでまさにある国と交渉を重ねている真っ最中でもあった。
「外務大臣殿をお招きしたのはほかでもございません。貴方が来月訪問されるオーストリアのことでございます」
「はい?」
「今はオーストリアとの同盟こそが肝要な時、大臣殿にはどうかカロリーヌ殿下とのご縁をまとめていただきたい」
実のところオーストリアとの縁談は以前から水面下では進められていた。
その最大の障害となっていたのが前王太子ルイ・フェルディナンドである。
彼は異常なほどオーストリアを嫌っていた。
しかし最大の障害が取り除かれた今、オーストリア皇女を迎え入れることは半ば決定していた。
そして1765年当時、ルイ=オーギュストの結婚相手として候補にあげられていたのはマリア・カロリーナ(フランス語名 マリー・カロリーヌ)皇女であったのである。
「………婚姻を決められるのは陛下の判断にございますぞ」
「………大臣殿、ハプスブルグの血を欲するのはフランスばかりではありません。私としては聡明を知られるカロリーヌ殿下こそフランスにお招きしたいのですが…」
太子の言うことは事実であった。
子宝に恵まれた女帝マリア・テレジアだが今や残された未婚の娘はわずかに四人、その内一人は現国王ルイ15世との縁談が進んでおり、一人はナポリ王との結婚が決まっているので除外。
そうなると残るはマリア・カロリーナ姫とマリア・アントーニア姫の二人のみ。
カロリーナ姫は聡明という評判が高く、アントーニア姫はその美貌が知れ渡っていた。
とはいえそれは外交官であるプラズランだからこそ知ることが出来る類のものだった。
どこからその情報を手に入れたのか。
プラズランは内心動揺していた。
「………そのためにも、この手紙をカロリーヌ殿下にお届けしたいのですが…」
プラズランは動揺を表に見せず王太子の手紙を受け取った。
「………このプラズラン、殿下の手腕に深く公感服いたしました。必ずや吉報をお届けいたしましょうぞ」
「………公のお力添えに感謝いたします」
プラズランは太子の手腕に脱帽していた。
婚約者候補同士が手紙のやりとりをしているということが公に知れれば、もはや交渉を反故にすることは難しい。
「殿下におかれては何卒末永くおつきあいくださいますよう………」
プラズラン公は王太子に恩を売ることの重要さを認識した。
ここまで優秀、かつ狡猾な人間が即位した暁には、古い重臣たちはほぼ間違いなく失脚するであろう。
さらに、自分は今失脚しそうなのだ。
政権運営に参加し続けるためにも、老後を安全に暮らすためにも、王太子とのパイプを作っておかなければならない。
「うまくいくかねぇ…」