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小学生ユーリ~5年生~

いよいよ高学年になりました。


運動会や学芸会などの行事は、みんなを引っ張る側にまわります。

委員会にも加わります。


同級生の間では中学受験の話が出始めました。



でも5年生の一番のイベントは・・・なんといっても臨海学校です。

海、山、キャンプ、みんなでお泊り。



海や山に行く機会が少なかったユーリは、とても楽しみでした。



でも、1つだけ嫌なことがありました。



それは・・・・・・




「じゃあ班のみんなで練習してきてね。できるだけ他の班の子には内緒だよー?」



「はーい!」



キャンプファイヤーの時、班ごとに出し物をしなければならないのです。


ユーリの班は教科書を元にした朗読劇をやることになってしまったのです。



このころには一部の男の子を除けばユーリをからかう子はいなかったのですが、国語の音読が苦手なユーリは、決まった時から本当にできるのかどうか、どきどきしていました。



「咲野!みんなで練習しようぜ―」



同じ班の男の子が声をかけてくれました。



失敗しないかな。


笑われないかな。


からかわれないかな。





・・・劇、やだな。





「セリフどこ言うか決めようよ」



「俺主役がいいな!」



「私、役とか恥ずかしいからナレーターがいい!」



みんなぽんぽんと意見を出していきます。

ユーリは石の役でもやりたい気分でしたが、朗読劇なのでそんな役はありません。



「ユーリ、何かやりたい役ある?」



「え・・・うーん・・・」



(ヒロイン、やってみたいなぁ・・・でもセリフ多いし、やれる役・・・無いよ・・・石とか月とかないのかな・・・)



「どーお?ユーリ。何が良い?」



「うーん・・・・・・」



再度聞かれて、ユーリは覚悟を決めました。



「ヒ、ヒロイン!」



自信ない、できないって・・・言えませんよね。



それに何か役を演じなきゃいけないなら、楽しくなくっちゃね!




「おー!これでみんな希望通りいけたんじゃない?決まり?決まり?」



「決まりだね!じゃあこれから2週間頑張って練習してこ!」



ユーリのどきどきは止まりません。


2週間で、セリフを言えるようにならなければ・・・。




2週間後。臨海学校の出発日です。


ユーリは夜の朗読劇にどきどきしすぎて、一睡もできませんでした。


セリフは全て覚えたのですが、2週間の練習の中で一度もセリフを上手く言えなかったのです。顔を真っ赤にして口をぱくぱくさせ、急かされると手も動くようになってしまいました。



班のメンバーも困っているのがわかったのでよっぽど休もうかと思ったのですが、ユーリの母が許してくれませんでした。


心配したとわちゃんとあいちゃんが朝、家まで迎えに来てくれました。



嬉しかったけど、同じ学年のみんなの前で恥をかくことが怖くて怖くて、ユーリは夜まで落ち着けませんでした。



海水浴やバーベキューは何事もなく過ぎ、いよいよキャンプファイヤー。


1つ、2つと出し物が過ぎていきます。



「行こ、ユーリ!」



ユーリの班の番が来ました。

ユーリは心臓が破裂しそうなくらいどきどきしていました。



「“さぁ、これは僕たちの物語。血の繋がりが分けた2人の運命は、どうなってしまうのでしょう”」



「“私たちふふふたりの、きっ・・・ききき記憶と、おおおおお思いのカケラを、皆さんにお届けします”」





劇はどんどん進んでいきます。ヒロインの一番の出番は最後、主人公の決意を受けてともに旅に出ることを決めるシーンです。



「“ああ、何故僕は今まで悩んでいたのだろう。君はとっくに覚悟を決めていたというのに”」


次だよ、ユーリ。


「“やっと、言ってくれたのね。・・・・・・あ・・・・・・あああ・・・”」


“ありがとう”という言葉が、出てきません。“あ”だけが喉から出てきます。



(あんなに、あんなに練習したのに!言えたのに!!ありがとう、ありがとうって言わないと!!)



聞いているみんなはきょとんとしています。

ユーリは恥ずかしくて涙が出そうになりました。



・・・と、その時。ゆったりとした音楽が流れてきました。小さくドラムの音が聞こえます。



(・・・え。なんだろう、この音楽・・・あ、でもドラムの音、いい感じかも)



「“あ・・・あああ、あり、がとう。きき決めたのは、決して遅くはないでしょう。こー・・・れから、始めれば良いのよ。あ、あなたが行くというのなら、私も、一緒に行くわ。2人なら、ななにもここここ怖いことはありません。あなたが向かうところまで、私も行きましょう。”」



だんだん早くなる曲に合わせて、苦手な文字から始まる言葉を合わせて文を紡いでいきます。



「“ありがとう、我が友よ。一緒に行こう、あの虹の向こうへ”」



「“ええ、行きましょう。あ・・・あな、あなたと一緒ならど、ど、どこまでも行ける気がする”」



背景の音楽が鳴らす派手なシンバルに合わせてナレーターが締めくくり、無事に終わりました。



次の班と入れ替わりながら、ユーリは終わった安心感で涙が出てきました。


「ユーリー。上手にできてたよ、泣かないでよー」



「今までで一番よかったよ。音楽いれたの正解だったな!」



そう。

ダンスクラブで一緒の友達が、心配して、ユーリが音楽が流れる中なら話しやすそうなことを班の子たちに伝えてくれていたのです。



メンバーはみんな、苦しそうに練習に参加するユーリを見ていたので、BGMになりそうな音楽をみんなで選んだのでした。



ユーリは嬉しくて嬉しくて、みんなに何度もありがとうを言いました。


と同時に、何故上手く言えないのだろうと少し悲しくなりました。


ありがとうが言えなくて、“あ”が続いてしまった時のみんなの不思議そうな顔、雰囲気。

練習していた時のメンバーの視線。



上手く言葉を紡ぐことができない恐怖が、まだ残っているように感じました。


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