小学生ユーリ~3年生~
クラス替えがあり、新しいクラスメイトにユーリもちょっぴり緊張。
でも、持ち前の優しさと笑顔で、すぐに友達が増えました。
授業も、小数がでてきたり理科が始まったり、難しくなってきました。
「・・・はい、佐伯さん座って。じゃあ次の段落から、咲野さん」
国語の時間、朗読が出席番号順に回ってきます。
(うー、緊張するなぁ・・・)
新しい担任の先生が、ユーリを当てました。ユーリは心臓ばくばくで立ち上がります。
「お、お、お女の子は、どんどん歩いていきます。野を越え山を越え。・・・っ・・・っ・・・っ・・・・・・途中で、かかか、か、か」
おやおや?
「咲野さん落ち着いて。カメよ、か・め」
(読める・・・カタカナだもん、読めるよ、カメ・・・)
「か、かかかかかか・・・・・・カメがひ、ひひひ昼寝をしているところを、・・・・・・・・・」
「・・・咲野さん?」
先生が怪訝そうな顔で見てきます。クラスメイトもみんなユーリの方を見ています。
ユーリは顔を真っ赤にして、一生懸命読もうとします。
(通りかかる、とおる、の!)
でもなんででしょう、声が口から出てきません。
「咲野さん、音読苦手なのかな?いいよ、もう座って。じゃあ次、櫻木君。亀のところから」
「はぁい!・・・“カメが、昼寝をしているところを通りかかりました。女の子は亀に話しかけます。もしもし、こんなところでどうしたの?亀は眠りながら答えます。お日様が、気持ちいいんだ”」
ユーリは、顔を真っ赤にしたまま、かたんと着席しました。
前の席の男の子が、そんなユーリに小声で言いました。
「こんなのも読めねーの?カタカナじゃん」
「・・・・・・」
「なんか言えよー。ささささきのユーリ」
3年生初めの自己紹介でも、ユーリは“咲野”が上手く言えませんでした。
「・・・ち、がう、もん」
「お前ほんっと喋るの変だな。何歳だよ?かかかかかかかめさんとか言ってさ」
自分の話し方を真似されることが、悔しくて。悲しくて。
(・・・また言えなかった。なんで?なんで?)
(みんなみたいに本読みしたい、悔しいよ、言い返したいよ、でも言えないよ・・・)
とうとう、ユーリは泣いてしまいました。
「あーせんせー、こうた君がユーリちゃん泣かしてるー!」
「いーけないんだーいけないんだー」
授業ののち、先生に後押しされてこうた君は「ごめん」と言ってくれました。
さらに放課後、先生が空き教室で音読の練習をしようと誘ってくれました。
「女の子は、ど、どんどん歩いていきます。野を越え山を越え。途中で、カメがお昼寝をしているところをとと通りかかりました」
先生は、不思議に思いました。授業中は声を出すのも苦しそうだったのに、今はところどころどもるだけです。
「ユーリちゃん、よく読めてるよ。今日はちょっと緊張してたのかな?明日からはリラックスして読んでいいからね」
ユーリは、先生が褒めてくれてとても嬉しく思いました。授業中に必死だったこと、先生にわかってもらえた気がして、明日からも頑張ろうと思いました。
でもその日から少しずつ、ユーリの喋り方を真似する子が増えていきました。