小学生ユーリ~1年生~
ユーリはお姉ちゃんと同じ小学校に入学しました。幼稚園のお友達は、ほとんど同じ学校に進みました。
オレンジ色のランドセルを背負い、ユーリは毎日教室に通います。
授業、休み時間、給食。運動会や学芸会、遠足も楽しみです。
入学して初めての家庭訪問では、
「ユーリちゃんは大人しいんですが静かすぎでもなく、とっても周りをよく見ている子ですね。1人でいる子とも積極的に仲良くしようとしています。飼育係さんとしても、とっても頑張っていますよ」
と、担任の先生が褒めてくれました。
幼稚園の時に見られていたどもりは、なくなったのでしょうか。
さて、ユーリは国語の授業中です。
あいうえおで始まる物の名前、何があるかな?という質問が出され、ユーリもみんなと一緒に元気に手を挙げています。
「“こ”で始まるもの、何があるかな?」
(こんにゃく、こおり・・・あと何があるんだろう?)
「はい、山下さん」
あら。ユーリは当たらなかったね、残念。
「“こおり”!」
「氷!いいね、先生よくがりがり食べちゃうんだー。はい、じゃあ“た”で始まるものは?」
(た・・・そうだ!動物園で見た、あれだ!)
はい!と、元気にユーリが手を挙げました。
「はい、咲野さん」
ぴょこん!と立ち上がると、ユーリは大きく息を吸い込みました。
大声で、言えるかな?
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
あれ?
(たぬき!たぬき!なんで?“た”が言えない)
ユーリは口を小さく開けたり閉じたりを繰り返しています。でも声は出ておらず、呼吸もできていないのでしょうか、だんだん顔が赤くなっていきます。
(“た”だよ、“た”。たぬきって言うの。たぬき、たぬき、たぬき!)
教室中は静まり返ってしまいました。
(顔が熱いよ。息が苦しいよ。心臓が、ばくばくして、爆発しそうだよ・・・)
「咲野さん、どうしたのかな?忘れちゃった?」
「・・・・・・わ、すれ、ま・・・した」
ゆっくりと小さい声で、ユーリは答えました。
手を挙げた時の元気はどこへやら、うつむきぎみで着席します。
「そっかー。また思い出したら教えてね。他に、“た”がつくもの、何かあるかな?・・・お、野駒くん!」
「“たんぼ”!ばあちゃんの家にあるんだ!」
授業はどんどん進みます。
ユーリの隣の席だった、幼稚園からのお友達とわちゃんは、ユーリが何かをずっとつぶやいていることに気付きました。
「・・・たぬき、たぬき、たぬき・・・」
(たぬき、今なら言えるよ。でもまた当てられて、声が出なかったら、どうしよう。恥ずかしいよ、怖いよ・・・)
この後、ユーリは何個も何個も、先生の質問に対する答えを考えつきました。
でも、手を挙げることはありませんでした。
“たぬき”って、答えたかったんだよね。
でも“た”が言えなくて。なのに野駒君は言えて。
恥ずかしかったね。怖かったね。苦しかったね。
よく頑張ったね、ユーリ。