高校生ユーリ~2年生~⑥
結局、告白作戦のメンバーは、蘭が機会を逃してしまったために、綾乃を抜いた5人でクリスマスを過ごしました。
マイも渡井君がいるのですが、彼はユーリの失恋を知り「俺は家族と過ごすのが恒例だから、咲野と楽しんできてくれ」と言ってくれました。
そして年が明け、いよいよ蘭が告白するチャンスを作りました。
学校で放課後。もちろんみんなで隠れて応援しに行きます。
「蘭、頑張っておいで!」
「私らがついてるぞ!」
「蘭ちゃん、がが、がっががんばって!」
「いってきます!」
笑いながらぴしっと敬礼をキメて、蘭は多賀君を呼びだした場所に駆けて行きました。
他の5人は、学校近所の公園のベンチに腰掛けました。
「・・・大丈夫かなぁ、蘭」
「多賀君なー人気者だもんなー。村田とは違う意味で」
爽やかイケメン系の村田君に対し、料理や裁縫が得意で何かと中性的な多賀君もまた、学年の人気者だった。
「笑いながら、か、か、か、か・・・・・・かっかかか帰ってほ、ほほほ来てほしい、な」」
「ほんとねー」
「マイはききききき今日、だ、だ、だ、だだだだ大丈夫なの?渡井君は?」
「んー、なんかサキ達と遊ぶって言ったら二つ返事で行け行けって」
どうやら渡井君は、ユーリの失恋をだいぶ気にかけてくれているようです。
なんやかんや世間話をしながら、ユーリ達は待ち続けました。
しかし、何分待っても蘭が帰ってきません。
「・・・どうしたんだろ?1時間経つけど・・・」
「ねえ、あれ多賀君じゃない?」
ふと、公園の向こうの道路を春海が指差しました。
そこには、どこか寂しげに歩いていく多賀君の姿がありました。
蘭の姿は、ありません。
「・・・ねぇ、ちょっと様子見に行かない?蘭」
マイの一言で、みんな学校に向かって走り出しました。
聞いていた場所だった裏庭には、見送った時の様子とは裏腹に、しゃがみこんで呆然とする蘭の姿がありました。
「蘭?」
「どうしたの・・・?」
「・・・多賀君と・・・何かあったの?何か言われたの?」
「だ、大丈夫・・・?」
5人は蘭に駆け寄り、目の前に回り込んだり肩や頬をぺちぺちと叩いたりしました。
「・・・・・・ねぇみんな、どうしよう」
やっと顔を上げたと思ったら、蘭は笑いながらぼろぼろ泣きだしました。
みんな、びっくりして固まっています。
「・・・私・・・・・・絶対に叶わない人、好きになっちゃってたんだ・・・」
「ゆー姉?大丈夫?」
「・・・へっ!?」
「へ、じゃねーよ。何味がいい?」
「・・・・・・キャラメルと・・・っち、ち、ち・・・いずけーき」
「おっけ。そこで座って待ってて」
蘭から衝撃の事実を伝えられ、作戦メンバー達と別れた後、ユーリはふらふらと大型ショッピングモールに立ち寄りました。
そこで偶然、まだ登下校中の寄り道が許されていないはずの咲野家の末っ子に出会い、親への口止め料としてアイスクリームを奢ってもらえることになりました。
フードコートの椅子に座ると、ユーリは先ほど蘭から聞いた話を頭の中で思い出しました。
『多賀君・・・・・・見た目、男の子、なんだけど・・・心・・・女の子、なんだって。そのせいかわからないけど・・・男が、好きなんだって。だから・・・女の子の、私を・・・好きになる可能性、一生・・・無い、って』
多賀君は、性同一性障害だったのです。
女の子になりたくてなりたくて・・・美容に気を使い、料理や裁縫も手がけ・・・しかし見た目は男であるため、可愛いグッズや服、少女マンガは買えず、店にも入れず、女子トークにも混ざれない。
男子更衣室で着替えたり、男子トイレに入ることにも違和感しか感じない。
元々の中性的なルックスも手伝い、女の子からの人気が出てよく告白されるようになったが、自分が好きなのはいつも男の子。
自宅の部屋は男特有のにおいしかせず、鏡に映るのは男の自分。髭も伸びるし、声もどんどん低くなっていく。
仕方がないこととはわかっている。
でも男でしかない自分が、誰がどう見ても男であることが、本当に嫌だった。
『・・・って、言われて。女を好きになったことはないし、これからもあり得ない、って』
まさかの展開に呆然として蘭が座りこんでしまうと、多賀君は、「・・・そういう訳だから。好きになってもらえたのは嬉しいけど、ごめん」と言って、去ってしまったのです。
ちょっと1人でいたいから・・・と、蘭はふらふらと帰って行き、そのまま残りも解散となったのです。
(多賀君、心の中は女の子だったんだ・・・私なんかより、ずっとずっと苦しかっただろうな・・・)
(私は、自分がどういう状態なのかも最近までわかってなかったけど、多賀君はずっと、自分が周りと違うってことを、突き付けられてきてたんだよね)
(・・・どういう気持ちなんだろう、男子の体で女子の心って)
頬杖をついてぼうっと考えていると、座っている隣でカシャンと音がしました。
横を見ると、たくさんの小さな星とHの文字のついたキーホルダーが落ちていました。
どうやら、先ほど通り過ぎた女の子が落としたようです。
「あ、あ、あ、あ、あ・・・・・あ!!の!!」
勇気を振り絞り声をかけますが、女の子は気付かず歩いていきます。
(・・・えーい、行くしかない!!)
ユーリは女の子に駆け寄り、ぽんぽんと肩を叩きました。
「あ、あの。こっこっこっこっこれ、おおおおおおとしましたよ」
女の子は、ユーリが持っているキーホルダーを見ると、ぱっと携帯電話を確認し、とても嬉しそうに受け取りました。
「あ、ありがとー、ござ、いまう」
(・・・え?この子・・・)
「あれ?咲野じゃん。そっか、咲野んちこっち寄りなんだっけ?」
聞き覚えのある声に振り向くと、村田君でした。
(む、むむ村田君・・・!!え、じゃあもしかしてこの子・・・)
「こないだ言った、俺の彼女。星村環奈って言うんだ。読唇できるから、ゆっくり話せば理解できるよ。環奈、こいつは俺の同級生。咲野ユーリっていうんだ。ゆ・う・り」
「ゆー、り」
「そう、ユーリ」
手話を交えながら環奈と村田君は会話していきます。
「ごめん環奈、この階のトイレ混んでる。だから、急いで、下の階、行ってくる。言ってた店で、待ってて。じゃーな咲野、また学校で」
そう言うと、村田君は走って行きました。
(えー・・・どうしよう。環奈ちゃん、可愛いっていうより、かっこいいなぁ・・・)
「・・・なにか、変でうか?」
環奈は、ゆっくりゆっくりと、言葉を紡いでいきます。
「い、いいえ!ごご、ごめんなさい・・・」
「ふふ。・・・ユーリさん、春のこと、しゅき、でした?」
思わず観察してしまっていたところを不意に話しかけられ、ユーリはどきっとしました。
(・・・環奈ちゃん、すが言いにくいのかな・・・て、え。ええええええ!?なんで!?なんで!!)
「なんで、って、顔してま、しゅ、ね。さっき春が来た時、なんか、逃げたそうでした」
(・・・それだけでわかっちゃうの・・・!?え、しかも彼女に問い詰められて・・・!!)
「・・・ごめんなさい。す、す、す、す・・・き、でした」
「よかった、でしゅ」
環奈は、にっこりと笑いました。
「春のこと、しゅきでいてくれたら、私、嬉しい。私、ずっと、自分に、自信なかった。だから、春が私のこと、しゅきって言うの、ほんとかなって、思って、ました。ユーリさんのこと、春から、聞いて、しゅごいなぁって、とっても、良い子なんだろうなぁって、思ってました。そんな子が、しゅきになってくれる春の言うことなら、私、信じる。春がしゅきって言ってくれる私、自信持てましゅ」
「え・・・」
(・・・村田君は環奈ちゃんに何言ったんだろう・・・)
「そんな、ユーリさん、と、私、友達に、なりたいでしゅ。・・・だめ、でしゅか?」
おずおずと、環奈はキーホルダーの切れたままの携帯電話を差し出しました。
「私・・・む、む、む村田君のこと、すーーー・・・・・・き、だけど、いいんですか?」
(・・・失恋、したけど)
「・・・私、変なこと、言ってるかも、しれません。春は、どうでもいい、置いておいて。私は、ユーリさんと、仲良くなりたいんでしゅ」
(え、彼氏置いてけぼり!?いいの環奈ちゃん!?)
環奈の必死な様子に心をうたれ、ユーリはそのまま環奈と連絡先の交換をしました。
そしてそのまま、今の学校や、実は同じ趣味だった音楽の話をしました。
(・・・なんだろう、仲良くなれる、かも)
なんとなく、そんな気がしました。
「おいゆー姉、移動するなら言えよー探したじゃんかー」
「あれ、環奈まだここにいたの?」
お互いの連れが来たのも、ほぼ同時。
「・・・ユーリちゃん、これ、記念。あげましゅ」
別れ際に環奈は、星のキーホルダーを1つ取って、ユーリに手渡しました。
「あ、あああ、ああ・・・り、がとう。かっかっかかかかか環奈、ちゃん」
今度こそ、ばいばいと手を振ると、環奈と村田君は歩いて行きました。
「環奈、咲野と、何の話、してたんだ?」
「女の子だけの、話。男は、口出しゅの、ダメ」
(・・・い、意外とはっきり言うんだな環奈ちゃん)
「ゆー姉の友達?」
「・・・うん。ととと、友達」
人と人との繋がりが、まだ知らない人との新しい繋がりを作っていく。
(世の中、いろんな人がいるんだなぁ・・・)
渡された星のキーホルダーを見ながら、ユーリはそれを感じていました。




