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中学生ユーリ~2年生~②


ユーリが目を覚ますと、そこは病院のベッドの上でした。


シュー、シュー、という音がするマスクが口元についています。



カーテンに仕切られたスペースに、無機質な壁と天井。窓からは綺麗な青空が見えます。



(すごく寒い・・・・・・ここ、どこだろう?)



「・・・だから、何故あの船で足が滑って落ちるんですか?落とされたとか、何かが当たったとか、そういうことではないんですか?」



「一緒に船に乗っていた子達は、咲野さんが1人で足を滑らせて落ちるのを見たと言っていますし・・・」



「ユーリは落ちた時船の外縁で頭を切ってます。足から落ちたならそんなとこ切りませんよね?頭から落ちたってことではないんですか?」



「さぁ、学校ではそれはなんとも・・・」





お父さんと、担任の先生の声が聞こえます。どうやら助かったみたいです。



(・・・生きてるんだ、あたし・・・)



つうっと、ユーリの頬を涙が伝いました。



苦しかった。辛かった。

もう死ぬんだと思った。

お父さんお母さんにはもう会えないと思った。



でも、それでもいいと、思った自分も、いた。




・・・死ななくてよかった。

・・・うまく死ねなかった。



・・・もう生きていたくない。

・・・まだまだ生きていたい。



・・・生きながらえてよかった。

・・・助からなければよかった。



思いがごちゃごちゃして、うまく頭がまわりません。



(なんで、泣いてるんだろう・・・?)




「お譲ちゃん起きたかい?」



カーテンの向こうで声がして、ユーリは慌てて涙をぬぐいました。



「お、起きたな。先生呼んできてやるよ、待ってな」



船長さんがカーテンの隙間からにゅっと顔を出すと、にこっと笑って出て行きました。




先生の診察の結果、翌日には退院して家に帰れることになりました。


水を大量に飲んでいて、肺炎を起こす一歩手前だったそうです。



ユーリは船から落ちてから、二日間眠り続けていました。



「大体のことは船長さんに聞いたよ、ユーリ。大変だったな、怖かったろ。船長さんがユーリを水から引き上げて、病院に運んでくれたんだよ」



「船長さん、ああああり、あり、がっ・・・とう、ございました・・・」



「いやいや、お譲ちゃんが元気で良かったよ」



「本当に、ありがとうございました。娘の命を救っていただいた上にずっと居ていただいて・・・。ユーリ、お母さんに電話してくるから、ちょっと待っててな」



お父さんが病室から出ていくと、船長さんが優しい目をして話しかけました。



「実はな、俺のところまで、イルカ達がお譲ちゃんを運んできてくれたんだよ。・・・お父さんには言ってないのかい?いじめられてること」



「・・・言って、ま、せん」



「言えんよなぁ・・・俺もそうだったもんな」



船長さんは、ベッドのそばのパイプ椅子に座りました。



「俺の家、ずっと貧しくてな。そのせいでよくいじめられたよ。お袋にも親父にも言えなかった。いつの時代にもあるもんだなぁ・・・譲ちゃんの周りで、このこと知ってる人はいるのかい?」



「・・・お姉ちゃん」



「あぁ、昨日の子か。カガリちゃんだっけ、えらく怒ってたけど、良い姉ちゃんだな。・・・お譲ちゃんが、俺の船から足を踏み外して落ちたんじゃないっていうのは、俺が知ってる。あの馬鹿デカいリュックの子にでも押されたんだろ」


「背中に、何かが当たって・・・でんぐり返しみたいになって」


「やっぱりなー。お譲ちゃんの学校はとにかく譲ちゃんが1人で落ちたことにしたいみたいだし、なんか気分悪くてな。お譲ちゃんが目ぇ覚めるの待ってたんだ。イルカ達も助けてほしそうだったし、しっかり話つけねぇとな」



「あ、あぁぁありが・・・・とう、ございます」



「出るとこ出るならいつでも言いな。いつでもどこでも行ってやる。・・・そうだお譲ちゃん、名前なんて言うんだい?」



「さ、さささささささ、さー・・・き、の、ユーリ」



「サ・キ・ノか?サ・サ・キ・ノか?」



「さ・・・・・・き・の」



船長さんの真似をして、一文字ずつゆっくり、ユーリは答えました。



(咲野って、言えた・・・)




いつも、ささささささささささ、となっちゃうから、ちょっと不思議な感じがします。



「よし、サキノユーリだな、覚えたぞ。俺は鵜森一平っていうんだ。ユーリちゃんなら、いつでもイルカに会いに来な。いつでも船乗せてやるよ・・・って言っても、ちょっと遠いかー。・・・あとな、ユーリちゃん。気ぃ悪くしたら申し訳ないんだが・・・ユーリちゃん、キツオンなのか?」



「キツオン?」



(なに?それ・・・)



ユーリはその言葉に聞き覚えがありませんでした。



「・・・や、いいや、すまん忘れてくれ。ユーリちゃんの喋り方がな、ちょっとうちの息子に似てるなーと思っただけなんだ」



そのまま、船長さんの話は息子の話になっていきました。


面倒見の良い優しい男の子だけど、国語の朗読や朝の挨拶、お礼を言ったり電話をするのがとても苦手で、学校に行く傍ら服屋でアルバイトをしていますがなかなか上手くいかず、とても苦労しているそうです。



船長さんの息子は自分にそっくりだと、ユーリも思いました。船長さんの息子は、“キツオン”なのだそうです。



(キツオンて何だろう・・・?元気になったら、お父さんに聞かなくっちゃ)



ユーリは心の中のメモ帳に、キツオン、という言葉を書き込みました。

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