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神様蒐集帳  作者: 鈴神楽
7/13

引き裂かれた世界の宿屋のメイド

天道龍の回収だけの話

『ところでお前は、こんな所で何をしているのだ』

 白牙の質問に天道龍は、遠い目をして言う。

『深い事情があるのだ』

「そうみたいね」

 ヤオンは、二つの世界を繋ぐ橋と化している天道龍の上を知らずに通っていく人々を見る。

 白牙が不機嫌そうな顔をしてもう一度言う。

『もう一度だけ聞いてやろう、こんな所で何をしているんだ!』

 天道龍は、辛そうな声で答える。

『約束してしまったのだ』

 ヤオンは、溜息混じりに聞く。

「事情を聞きましょうか?」

 そして天道龍の説明が始まる。



 天道龍もまた八百刃を探して数多の世界をめぐっていた。

 そんな中、力の大半を失い、この世界の果てに落ちてしまった。

 そんな時、一人の少女と出会う。

「竜さんだ。初めてみたよ」

『そうか、しかし、私もそう長くは、無いな』

 この時、天道龍は、力がつきかけていた。

 少女が大きな天道龍の体を見て言う。

「竜さんだったら、あっちまで届くのかな?」

 少女は、何かしらの理由で裂けた世界の端から裂けた先を見る。

「いろんな人が向こう側に行こうと頑張ったんだけど、途中で駄目になるの」

 天道龍が答える。

『あの裂け目は、物理的だけでなく、時空的にも隔たれている。通常の方法では、向こう側につけないだろう』

「そうなんだ……」

 落ち込む少女を見て天道龍が言う。

『向こう側に家族でも居るのか?』

 少女は、首を横に振る。

「あたしは、この先の宿屋で働いてるの。でも、あの裂け目が出来てから、ここが終着点になっちゃったからお客様が激減したんだよ」

『成程な。それは、困った事になったな』

 天道龍が納得しようとした時、少女が続ける。

「そしてうちの宿に泊る人って皆、あの裂け目を見て悲しそうにするんだよ」

 他人の事を自分のことの様に悲しそうにする少女に天道龍が言う。

『向うと繋げたいと強く思えるか?』

 少女が頷く。

「うん。だって、悲しい顔をする人が居ないほうが良いもん!」

『その願いを強く持って、私に触れるんだ。そうすればもしかしたら、向うと繋がる橋になる事が可能かもしれない』

 天道龍の答えに笑顔になる少女。

「本当!」

『君の思い次第だ』

 天道龍が答えると少女は、強く念じながら天道龍に触れる。

「みんながもう一度出会えますように」

 その瞬間、天道龍の体に力が伝わり、天道龍が引き裂かれた世界の端と端を繋げる橋と化していた。

「凄い!」

 驚く少女。

『見事だ。私の上を通れば、別れた向う岸に到着出来るだろう』

 天道龍の言葉に少女が戸惑う。

「でも、そうすると竜さんは、ずっとこのままだよ。そんなの辛いよ!」

 その優しさに天道龍が諦めを篭めて言う。

『良いのだ。もう、あのお方と会える事は、無いだろうからな』

 今にも泣き出しそうな顔をして少女が言う。

「竜さんも誰かと離れ離れなんだね。だったら、あたしが探しに行ってあげる」

 それに対して天道龍が言う。

『違うのだ。あのお方は、人が探して見つかる場所には、居ない。しかし、もしかしたら蘇って迎えに来てくださるかもしれない』

 それを聞いて少女が言う。

「だったら、その日まであたしが竜さんの話し相手をしてあげる」

『それは、ありがたい』

「約束だよ」

 天道龍と少女の契約がなされた時であった。



『そして、今日、八百刃様が迎えに来てくださった』

 喜ばしい事の筈なのに天道龍の言葉には、戸惑いがあった。

「早く来すぎたって所だね」

 ヤオンの言葉に慌てる天道龍。

『その様な事は、ございません! 八百刃様の復活は、少しでも早いことこそ我等八百刃獣の望みです!』

『当たり前だ。事情は、説明した通り、お前にここで橋をやらせておける状況では、無い』

 白牙の言葉を天道龍が肯定する。

『そうです、紫縛鎖の暗躍に、世界の動乱。この世界の裂け目すら、その影響の筈です。それらを正すためには、私も全力を尽くす必要があります』

 ヤオンが言う。

「それでも、約束は、大切だよ。取り敢えず、その少女に会って来るよ」

『私事で八百刃様にお手数をおかけする訳には……』

 躊躇する天道龍にヤオンが告げる。

「八百刃獣の全てがあちきと共にある者。その約束は、あちきの約束でもあるの。行くよ」

 歩き始めるヤオン。

『お前は、離れる準備をしておけよ』

 そう言って、白牙もヤオンの後をついていくのであった。



 問題の少女が働く宿屋に到着するヤオン。

「いらっしゃい」

 問題の少女が出てくる。

「お客様は、お泊りですか? それとも休憩ですか?」

 それに対してヤオンが答える。

「泊りにしておいて。それと、貴女に話があるから、暇が出来たら声を掛けてね」

「あたしにですか?」

 首を傾げる少女。



 夕食の後片付けも終わり、一段落がついた頃、少女、ヤドリがヤオンの部屋に来た。

「お客様、あたしに話って何ですか?」

 ヤオンは、天道龍の居るほうを指差して言う。

「あそこで橋になっている竜、天道龍の事よ」

「お客さんも竜さんと話せるんですか? 他の人は、誰も話せなかったのに……」

 驚くヤドリに頷くヤオン。

「ついでに言うと、天道龍を迎えに来たのよ」

 するとヤドリは、少し寂しそうな顔をした後、笑顔をつくり言う。

「竜さんにも迎えが来たんだね。良かった」

 それを聞いてヤオンが言う。

「その件だけど、天道龍は、あそこで橋になっているって約束したんでしょ? 一度約束したことを破るのは、いけないなって思ってるんだけど、貴女は、どう思ってるのかなって?」

 ヤドリが笑顔で言う。

「あたしは、最初から迎えの人が来るまでって思ってたから」

 そんなヤドリを見て、ヤオンも笑顔になる。

「良い子だね」

 首を横に振るヤドリ。

「そんな事無い。だって竜さんは、我侭につきあってくれてただけだもん」

 するとヤオンが言う。

「明日、お別れを言いに来て。それまでに天道龍の上を通行止めにしておきますから」



 翌日、ヤドリは、橋の所に来ると人だかりが出来ていた。

「どうしたんですか?」

「どうしたもクソもあるかよ! 橋が通れないんだよ!」

 男の人が怒り気味に怒る。

「どうなってるんだ!」

 嘆く人々が居る中、ヤドリは、進んでいくと誰も入れない所に、ヤドリだけが進めた。

 周りの人間が驚く中、ヤドリが言う。

「竜さん、迎えの人が来たんだよね。あの人と一緒に頑張ってね」

 その言葉に天道龍が言う。

『すまない。きみとの約束は、ずっと守るつもりだったのだが』

 今まで聞こえなかった天道龍の声が、周りの人々にも聞こえた。

 ヤドリが、笑顔で言う。

「長い間ありがとうね。竜さんのことは、ずっと忘れないよ」

 そして、天道龍が体を震わせ、堆積物を振り落とすと顔を上げる。

 周りの人々が逃げ出す中、天道龍が言う。

『私もだ』

 そして天道龍が天に昇ろうとした時、それが起こった。

 天道龍が岸から離れ、必要が無くなったので結界が消えたので接近できた男が、ヤドリを捕まえてその首筋に刃物を当てる。

「待て! 事情は、よく解らないが、この娘が殺されたくなかったら戻れ!」

『貴様!』

 天道龍の怒気は、天を震わせる。

 それでも男は、恐怖に震えながら言う。

「あっちに妻と子供を残しているんだ!」

 すると他に人間も口々に要求し始める。

「親が残っているんだ!」

「あっちには、故郷があるんだ!」

 そんな男達に天道龍が言う。

『どんな事情があるかは、解った。しかし、お前等は、その娘を人質にとるという卑劣な行為を行った。私は、それを許さない!』

 力が振り落とされようとした時、ヤドリが叫ぶ。

「止めて! ヤドリは、気にしないから。この人達の気持ちも解るもん」

 真摯な目をするヤドリは、そのまま回りの大人達に言う。

「おじさん達も解ってあげて。竜さんは、ずっと探して人がようやく迎えに来てくれたの。離れ離れになる苦しさは、おじさん達だって解るよね」

 黙ってしまう男達。

 そこにヤオンが現れる。

「はいはい、そこまで。天道龍は、あちきの使徒だから、このまま橋にしておくわけには、いかない。でも一つだけ方法があるよ」

『本当ですか?』

 天道龍の質問にヤオンは、ヤドリに手を差し出して言う。

「貴女が溜めた、再び大切な人に会いたいって人々の気持ちを力にする。その為には、貴女は、ここに居られなくなるけどどうする?」

 するとヤドリが周りの人々を見て言う。

「悲しむ人が居なくなるんだったら、あたしは、やります!」

 伸ばされたヤオンの手を掴む。

 そして、ヤドリがヤオンに吸収される。

『ヤドリもまたお前の分身の一つだったのか』

 白牙の言葉にヤオンが苦笑する。

「力は、随分と小さく、その力の大半を天道龍に注ぎ込んでいたから気付かなかった。でもさっき、天道龍の力を止めた。それは、八百刃の力だから解った」

 ヤオンは、天の天道龍に手を向ける。

『八百刃の名の下に、天道龍よ、世界の裂け目を戻せ!』

 そして天道龍がその力を発動して、避けた時空を再生させていく。

 完全に世界の裂け目が無くなった時、ヤオンと天道龍の姿が消えていた。

 その後、元の道に戻った道には、一人の少女と竜の銅像が建てられることになるのであった。

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