戦乱の世界のハーレムに住む少女
後宮、ハーレムに居る八百刃の分身とは?
『再び御尊顔を拝見でき、これ以上の喜びは、ございません』
八百刃獣の一刃、影を走る鬼、影走鬼がヤオンの前で感涙する。
「はいはい。それより、あちきの分身の探索だけど、お願いね」
影走鬼がコレ以上無い真剣な顔で答える。
『この身が擦り減り無くなろうとも、一瞬でも早く、全ての分身を探し出してみせます! それでは、失礼致します』
影に消えていく影走鬼。
『相変わらず、熱い奴だな』
子猫の姿の白牙が呆れた様子で言うとヤオンが苦笑する。
『何か言いたいのか?』
「自分の存在が消えかける寸前まで、あちきを探していた白牙も熱さじゃ負けてないと思っただけ」
ヤオンの言葉に爪を伸ばして言う。
『余計な事を考えるな! それより、あそこから感じるのは、間違いなくお前の気配だな』
白牙が話を誤魔化すようにヤオン達が居る丘から見える後宮を指差す。
ヤオンは、頷く。
「そうだね、それにしてもこんな戦乱の世界の大国のハーレムに居るってどういうことだと思う?」
白牙も首を横に振る。
『解らない。お前の性格から考えて、そんな所で大人しく愛人をやっていられるとは、思えないな』
ヤオンも首を傾げる。
「だよね。とにかく潜入して調査しますか。大体の位置が解っても近づくと薄すぎてハッキリしないからね」
それに対して白牙が質問する。
『いっその事、強引に押し込んで、全員をチェックする訳には、行かないのか?』
ヤオンが眉を顰めて言う。
「あのね、八百刃覚醒には、あちきがそれなりの八百刃の力を流しこまないと駄目なの。そんなのを常人にしたら消滅するでしょうが」
『神々の安定の為の仕方ない犠牲と切り捨てるつもりは、ないか?』
白牙が駄目もとの質問を当然ヤオンが断って、潜入する事になった。
『しかし、ハーレムに潜入するのに、下女に成るか?』
掃除をするヤオンの足元で白牙が愚痴る。
「あちきとしては、変な男とエッチするより、掃除して居たほうが、何倍もましだよ」
そんな事を話している間にも何人ものハーレムの美女が通り過ぎて行く。
『あいつらは、違うな』
白牙の言葉にヤオンが首を傾げる。
「何を根拠に言っているの?」
白牙が美女達の胸を指して言う。
『八百刃が巨乳って事は、ありえないからだ』
沈黙したままヤオンは、白牙の尻尾を持つと振り上げた。
「その冗談は、笑えないよ」
白牙が慌てて弁明する。
『存在単語帳は、お前も知っているだろう!』
ヤオンが、怖い笑顔のまま答える。
「当然でしょ。全ての存在は、複数の単語を持ってその存在を立証している。それは、本人でなく、周囲の判断により優先順位が決まり、その存在の重要な特徴となる。例えば白牙の場合、毛の色を白以外にすると力が大幅に減少するよね」
『お前の存在単語帳の上位に貧乳って在るんだ!』
白牙の答えにヤオンの顔が引き攣る。
「冗談だよね?」
目の前で吊るされる白牙が首を横に振ってから言う。
『何故か、貧乏と貧乳とドジッコ属性は、上位に存在する』
眉を顰めてヤオンが言う。
「何か金海波の邪な思念を感じる」
『とにかく、貧乳でない八百刃は、存在するのが難しいのは、確かだ』
白牙の言葉に脱力し、壁に手を当ててヤオンが言う。
「何度か巨乳の分身作ったけど、何故か安定しなかったのは、そういう理由だったのか」
そんな時、下女の先輩が声をかけてきた。
「ヤオンさん、何をサボっているんですか!」
慌てて頭を下げるヤオン。
「すいません、オーバ先輩」
小さく溜息を吐く眼鏡をかけた地味なお姉さん、この後宮で生まれ育ったオーバ。
「あのね、ここは、王がその重圧から解き放たれる唯一の場所なの。私達は、王が少しでも気を休められる様にするのが仕事なのです」
『随分と熱いキャラだな』
白牙が呑気に呟く中、ヤオンは、オーバの指導の下、清掃作業に従事するのであった。
その夜、この後宮の主、若き王、ブロード王が、やって来た。
「ブロード王、今夜こそ、お情けを下さい」
美女達がブロード王にしなだれかかる中、一人の貧乳系の美少女が現れる。
「ブロード王、お願いがあります」
酒をあおり、ブロード王が楽しそうに言う。
「何だ、我が第二夫人、ヤオーハよ」
その美少女、ヤオーハは、真剣な顔で言う。
「もうこれ以上の侵攻は、お止め下さい。この国は、度重なる進軍に疲労しております。今は、国力を高める時なのです」
「女が政に口をだすな」
杯を床に叩きつけるブロード王に怯まないヤオーハ。
「しかし……」
「しかしもかかしもあるか! 不愉快だ!」
酒席を立つ、ブロード王。
その一部始終を見ていた白牙が言う。
『あれじゃないのか? 国王に意見出来る胆力を考えたら、お前の可能性が高いぞ』
ヤオンは、腕を組んで言う。
「でもな、そうすると、現状が納得できないんだよな。とにかく、詳しく話を聞きますか」
ヤオンは、オーバに声をかけた。
「あの第二夫人って何者なんですか?」
オーバが溜息混じりに答えてくれた。
「侵略した国のお姫様なのだけど、王のお子を出産しているのから、第一夫人より発言力は、あるの。だけど、あの性格でしょ、なにかと問題も多いのよ」
顔を見合すヤオンと白牙。
怒って居なくなったブロード王を探すって名目で仕事場を離れて、屋根の上にあがる。
「どう思う?」
ヤオンの質問に白牙が難しそうな顔をする。
『八百刃だったら確かに、権力あるなしに関係なく忠告をする。自分の国を滅ぼした者でも包み込める大きさも八百刃の様な気がする』
それに対してヤオンは、寂しげに言う。
「でも、多分違うと思う。だってあちきは、子供を産めないから」
白牙が驚く。
『どういう事だ?』
ヤオンは、頬をかきながら言う。
「あちきが神名者、神の候補者になった時にまだ生理が、子供を作る準備が出来てなかったからね。さっき話にでもでた存在単語帳には、あちきが出産出来るってページは、無い筈だよ」
白牙にも心当たりがあったのか沈黙してしまう。
そんな時、上から声を掛けられる。
「お前、猫と話せるのか?」
ヤオンが上を見るとそこには、皆が探している筈のブロード王が居た。
「王様、どうしてこんな所に?」
ブロード王が苦笑する。
「本気で独りになりたかったらこんな所しか無くってな。それも今回でお終いの様だ」
どこで調達したのかわからない酒瓶から酒をあおるブロード王。
ヤオンは、その隣に行って言う。
「どうして、無理だと解っている侵攻を続けるのですか?」
驚いた顔をするブロード王にヤオンが続ける。
「ヤオーハ夫人の意見が正しいと解っているから、あんなにも反発したんですよね?」
舌打ちするブロード王。
「そうだ、この国には、戦争を続けるだけの国力がもうない。それは、解っている。だが、国力を回復させるには、時間がかかる。一度戦いを止めれば、俺の時代に侵攻を再開する事は、出来ない」
その顔にヤオンは、気付く。
「誰にも文句を言わせないだけの実績が欲しいって事ですね?」
小さく溜息を吐いてブロード王が言う。
「何でもお見通しだな。そうだ、王と言っても好き勝手には、出来ない。特に妻に関しては、多くのしがらみがある。さっきの第二夫人もそうだが、俺の妃になる物には、それ相当の地位が要求される。俺が本当に妻にしたい女は、全く違うって言うのにな」
「それで、無理にでも侵攻を続けて居たのですね?」
ヤオンの言葉に酒をあおりながらブロード王が答える。
「そうだ、周りの奴等に俺のやる事に文句を言わせないだけの実績を見せたかったんだよ」
悲しそうな顔をするブロード王。
そんな時、オーバがやって来た。
「王、そんな所に居られては、危険です。お戻り下さい」
肩を竦めて屋根から下りていくブロード王。
「俺を見つけるのは、何時もあいつだった。母親を亡くし、この後宮で育てられた俺の唯一の幼馴染のな」
そんなブロード王を見て白牙が言う。
『あれが好きな女は、解ったが、報われると思うか?』
ヤオンは、首を横に振る。
「無理。さっき本人が言ったとおり、王の妃には、地位がなければいけない。無理をしてもお互いに不幸になるだけ。それを防ぐには、それこそ、統一を達成させる必要があるね」
『夢物語だな』
白牙の答えに頷くヤオンであった。
数日後、ブロード王は、また出兵した。
不在の間も、オーバは、ブロード王の帰りを待ち、ひたすら後宮を磨いていた。
そんな中、ヤオンがオーバを物見台に呼び出す。
「何のようですか?」
オーバの言葉にヤオンがブロード王の出撃した方角を指差す。
「この後の戦いでブロード王は、大怪我を負う事になる」
「冗談は、止めて下さい!」
本気で怒るオーバを見ずヤオンが続ける。
「命には、助かる。でも二度と戦えなくなる。その結果、後継者争いが起きて、この国は、大きく乱れよ」
「どうしてそんな事が解るんですか!」
睨むオーバの方を向いてヤオンが言う。
「それでも、オーバさんは、ブロード王と死ぬまで一緒に居られる。戦えなくなった王には、誰も興味を持たないみたいだよ」
戸惑うオーバ。
「貴女は、何を言いたいのですか?」
ヤオンは、その問いに答えず、前の質問に答える。
「あちきは、神様の欠片。だから解る。そして、内乱は、望んでない。でも、あちきの今の力じゃ止める事は、難しい」
振り返りオーバを見つめるヤオン。
その瞳の意味をオーバは、理解してしまった。
「そういう事なんですか?」
ヤオンは、頷き告げる。
「白牙もオーバがどちらを選択しても待つって言ってくれた」
その言葉通り、白牙は、この場に居なかった。
長い沈黙の後、手を出すオーバ。
「この思いは、残りますよね?」
ヤオンは、頷き、手を合わせた。
『やはり、オーバもお前と同じ道を選んだのか』
オーバの八百刃としての覚醒を感知し、やって来た白牙の言葉に、既にヤオンをベースに一つになったオーバが答える。
「私が望むのは、王、ブロードが立派な王になる事だから」
涙を拭いヤオンが言う。
「行くよ」
そして、ヤオンは、戦場に向かった。
戦いは、ブロード王側が不利の状態に成っていた。
連戦に次ぐ連戦に兵士が十分な力を発揮できなかったのだ。
「このままでは、敗北する」
そんな中、ブロード王に暗殺者の毒矢が迫る。
護衛の兵士達が庇うがその一本がブロード王に当たろうとしていた。
しかし、ブロード王の目前で矢が止まる。
ヤオンがその矢を掴んでいたのだ。
「お前、どうしてここに?」
戸惑うブロード王。
ヤオンは、右手に持った白牙で見えざる縁を切り裂いた。
そして、ヤオンが告げる。
「今の状況は、理解してるよね? 貴方がすべき事も解るね?」
ブロード王が頷く。
「当然だ。これ以上の侵攻は、無意味。撤退して国力の回復を図る。俺の代では、不可能かもしれんが、俺の息子達がきっと俺が出来なった統一の夢を達成してくれる筈だ。今は、その為に堪える時だ」
そう宣言し、全軍に撤退の指示を出す。
「それでは、お別れです」
そういい残し、ヤオンは、去っていく。
「ブロード王!」
側近がやってきて驚く。
ブロード王が涙を流していたからだ。
「どうなされましたか?」
ブロード王は、涙を拭い言う。
「解らん。だが、大切な存在を失った気がする」
「解ります。しかし、ここで勇退することこそ我が国の覇道の一歩です」
敗北の悔し涙と勘違いする側近達であった。
ヤオンいやオーバは、ブロード王を信じて微笑む。
「ブロードの進む道に栄光がある事を願います」
そして、次の八百刃の分身を求めてこの世界をあとにするヤオンと白牙であった。




