祐司やって来る
紗也香が図書館に出かけた午後、ふらりと入ってきたのが女子大学准教授の早川祐司だった。
「田沼さん、また入院ですって?」
「見りゃ解るだろう。その通りさ。だれから聞いた?これから連絡しようと思っていたのに」
「あの、紗耶香さんから・・・」
「ううむ、君たちのホットラインは強力だなー!」
「もう、事情は伝わっていると思うけど和田塚の駅の階段で転がって大腿骨を折ってしまったのだ」
「ええ事情なら聞いていますよ。大変ですね。それと、今度のテーマが全共闘の解明ってこともね」
「今から40年も前の事だから、君はまだ生まれてないなー」
「あれ、先生はそれがまずい事と思っているんですか」
「そうちょっと・・・」
「聞いたところによると、先生はあの時代全共闘にきわめて近いところにいたと聞いていますが、ある意味近すぎて良く実態が見えないというところがあるんじゃないんですか。ぼくにとっては、その頃のことは歴史そのものですから、かえって客観的に組み上げる事ができると思うのです」
「なるほどな君にとっては歴史そのものという事だね。そして僕にとっては想い出という事だね」
「それに僕は、一応大学の准教授ですから大学の内部事情に通じています。お役に立てると思いますよ」
「そうだね。これは教育界の事件なんだから、祐司君がぐうたらな教授であっても助かるね!」
その時、沙也香が帰ってきた。
「あら、早川さん来てたんですか」と、顔を赤くした。紗耶香は祐司にぺこりとお辞儀すると話を続けた。「鎌倉市の図書館には朝日新聞の縮刷版しかないということです。それで、ここにプリントしてきたのは、その分なんです。大体十項目ぐらいありました」
田沼はベッドの中から手を伸ばした。そうして言った。「どれどれ、ああいいね!ちょっと聞いてくれるかな。
朝日新聞 昭和43年(1968年)4月15日 月曜日 朝刊
日大、20億円の不明金 国税局の監査でわかる
東京国税局は国税庁の指揮で、さる2月から日本大学(本部≒東京都千代田区西神田1の6の16、古田重二良会頭)の経理について調査してきたが、38年から42年の5年間に約20億円にのぼる使途不明金があることが、14日までの調査で明らかになった。これらの使途不明金のかなりは幹部、教授への≪闇給与≫として支払われていたことがわかったので、その実態を調べたうえ、源泉徴収税を追徴する、と同国税局ではいっている。 」