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滲む境界線

「おい! 優一!」

 声をかけられ、現実にひき戻される。横を見ると、訝しげな顔をした和馬が横に立っていた。あわてて笑みを作る。

「どうしたの? 教科書?」

「いや……なんでもないけどさ。ちょっと通りかかったから……」

 その言葉に、首をかしげる。通りかかったからといって、僕に声をかける必要はない。何か言いにくい用事でもあるのだろうか。

「何か用事? 昼飯はやらないよ」

「そうじゃなくってさ……」

 教室の中、視線を泳がせる。和馬が言い出すのを、僕は辛抱強く待った。すると、おずおずと口を開く。

「あのさ……おまえさ、なんかあった?」

「は?」

 一瞬、脳裏を死体がかすめてぞくりとする。でも、知ってるはずがないと思い直し、いつもの笑顔を顔に張り付けた。

「なかったけど。なんで?」

 そう言うと、和馬の顔がホッとしたように緩んだ。僕と違って、この表情は計算されていないのだろう。それが羨ましくも、妬ましい。

「あ、なかったらいいんだけどな。おまえ、今日ちょっと変だったから」

「変って?」

「なんかさ、朝からボーッとしたりして。声掛けたのに気付かなかったりな。目の焦点もなんか合ってないし」

「え、マジ?」

 軽く返答しながらも、背中には汗が伝っていた。頭の中を言い訳がぐるぐると回る。その中の一つを選び、口に出した。

「朝からっちょっと具合が悪くってさ。それでちょっとボーッとしたりしたのかも」

「あー、なるほど。最近風邪が流行ってるから気をつけろよ」

「うん。帰ってさっさと寝ることにするよ」

 それで納得してくれたらしく、うんうんうなずいている。それから頭をかきながら笑う。

「いやー、何か悩みでもあるのかと思ったんだけどなあ。それを相談してくれないのかと思って、ショック受けたんだぜ?」

 そう言ってから、照れたように「じゃ、また」と言ってクラスを出て行った。僕はその姿が消えるまで和馬を目で追っていた。

 いいやつだ。僕にはもったいないほど。

 けど、鈍感。

 僕が何を考えていたか、知らないで。

 僕は、お前の脳がどんな色をしているか、考えていたんだよ。


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