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イフ  作者: 秋華(秋山 華道)
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変化

今日も相変わらず、害虫駆除の依頼を受けていた。

しかし今日のは、今までの仕事とは少し違った。

害虫駆除は害虫駆除でも、蜘蛛の駆除。

まあ蜘蛛程度なら、俺のコントロール能力で、頑張れば駆除する事も可能だろう。

でも、時間がかかるし、なにより生命力を使うのは疲れる。

だから俺は、メグミを呼び出していた。

俺とメグミは、まあ同士であるし、話すと結構気があって、すっかり仲良くなっていたから、呼び方もすぐに変わっていた。

学校が終わる時間に、自動車で迎えに行った後、少し郊外まで車を走らせる。

場所はとある温泉旅館。

なんでも、大切なお客が来るのだけれど、その人は蜘蛛が大嫌いで、絶対に蜘蛛がでないようにしたいらしい。

1時間以上車を走らせ、少し景色が赤く染まる頃、目的地についた。

早速俺とメグミで駆除にかかる。

「蜘蛛の場所はわかるよね?」

「うん。わかるよ。あれ?光一くんもわかるの?」

「えっ?うん。G以外もわかるよ。」

「私わからないよ?」

俺達は、メインで扱える虫が違う。

俺はGで、メグミは蜘蛛だ。

だから俺が意識を繋いで、視覚や聴覚をシンクロできるのはGで、メグミは蜘蛛。

最近はその能力をメグミに教えていたのだけれど、場所関知は俺しかできないのか?

「えっと、生命力をね。広げて・・・」

「生命力って?」

「んー。どう説明したらいいのだろう。」

そこまで話して気がついた。

もしかしたら、操れる虫が違うのだから、能力にも違いがあるのではないかと。

「ちょっと聞いて良いかな?」

メグミが頷くのを見て、そのまま続けて話す。

「メグミは、蜘蛛の操作やシンクロ以外に、何かできるようになった事はあるか?」

するとメグミは、バックからソーイングセットを取り出した。

俺は自分のシャツを見てみたが、特に取れかけているボタンもない。

そうこうしてる間に、メグミはソーイングセットから、ハリと糸をとりだし、俺の目の前に突き出してきた。

「えっと・・・」

俺が、なんの事か分からないという顔をしていると、メグミは一言「見てて」と言った。

どうやらハリの穴に、糸を通そうとしているようだ。

ゆっくりと、ハリを持った手と、糸を持った手が近づいてゆく。

と思った次の瞬間、糸が自らの意思をもって動いているかの如く、ハリの穴へと入っていった。

「なんだ?どうなったんだ?」

一瞬俺は、何が起こったのかとビックリしたが、次の瞬間には理解していた。

その気持ちを察してか、メグミが代弁してくれた。

「どうやら私が得た能力は、糸に関係があるみたい。この前とれたボタンを縫いつけようと思ったら、こんな事になっちゃって、ビックリしちゃったw」

そう言いながら、今度は自分の服の袖についているボタンを一つ、ハサミで切り取った。

ハサミを置き、再び糸を手にする。

すると糸そのものが、ハリの役割もはたしているようで、切り取ったボタンを袖に縫い付けていった。

その光景は、なんとも不思議で面白かった。

「蜘蛛と言えば、糸って事か。」

「うん、そうみたい。」

するとさしずめ、Gと言えば生命力って事になるのかな。

そう考えると、蜘蛛の存在が分かる事も、生命力で何かをコントロールする事も説明がつく。

「で、俺が生命力に関する能力って事か。」

「だね。」

俺達は納得したところで、仕事に取り掛かる事にした。

とりあえず、メグミがつれてきた蜘蛛に命令をして放す。

蜘蛛を持ち歩く事は、俺が勧めておいた。

何かあった時に役立つ事があるかもしれないから。

つれてきた蜘蛛が、他の蜘蛛に命令を伝えている間、俺とメグミは旅館の一室でくつろぐ。

「糸を使って、他に何ができるの?」

俺達は、再び能力の話をしていた。

「んー、まだあんまり試してないけど、ネットをとばして何かを捕まえたりもできるかも。」

「へぇ。そんな事もできるんだ。」

糸が使える事がわかったところで、この短期間に、それほど能力を理解する事はできないか。

「光一くんは、生命力って、何ができるの?」

「そうだな。さっきも言ったけど、生物を感知したり、小さい生物なら動かす事もできるかな。」

「じゃあ、蜘蛛も?」

「まあね。でも命令して、勝手に動くわけじゃなくて、ラジコンで動かす感じ?それに疲れるから、長くは無理だよ。」

その他にも、俺は色々と使える能力をみつけていた。

更には、俺が若返ったのも、死にかけていた命が助かったのも、おそらくはこの生命力の力である事は、間違いないだろう。

でもこのあたりは話せない。

「ほんと不思議だよねぇ。こんな事ができるようになるなんて。」

この話は、もう何度もしている。

それでもやはり不思議だから、つい話してしまうのだ。

「ああ、もしかしたら温暖化への、神からの警告なのかもしれないな。」

「だよね。永久凍土が溶けなかったら、こんな事は起こらなかっただろうし。」

俺達の考えはこうだ。

二人が行った場所が、永久凍土の溶けている地であった事。

俺が未知のウィルスに感染していた事。

同じように神の夢を見た事。

これらを考えるに、未知のウィルスと言うか、未知の生物が永久凍土の中に閉じ込められていたのだが、それが最近の温暖化で解放された。

そしてそれに俺達は感染したのではないか。

感染と言う言葉が正しいかどうかはわからないけれど、その作用で同じような夢を見て、このような能力を得たのではないか。

これはメグミには話していないが、むしろ未知の生物が、俺達の体を乗っ取り、同種の生物の頂点に立っているのではないかとも思っている。

これだけ忠実に命令に従う虫たち、蜂や蟻の世界に存在する習性に似ている、そんな事も俺は考えていた。

それにしてもこんな能力、本来あって良い能力では無いように感じる。

もしこんな能力を持つ者が大量にいたら・・・

「俺達以外にも、この能力を持つ者がいるかな?」

「原因を考えればいるかもしれないけど。」

するとどこからか、誰かの意思が流れ込む。

俺の連れてきたGからだった。

そのGが「仕えるのはあなただけです。」と言っている気がした。

「Gは俺だけだってさ・・・」

「うん。蜘蛛も私だけだって・・・」

俺達の状況から希望的観測をすれば、他に能力を持つ者がいる可能性は、少ないと判断できた。

映画や小説の世界だと、虫それぞれに主がいたりする場合も否定できないけれど、条件としては厳し過ぎるから。

「あっ!終わったみたい。」

メグミの側に、家からつれてきた家蜘蛛が戻ってきていた。

メグミは腰に付けたポーチを開けて、蜘蛛を入れる。

ふと思った。

蜘蛛だから女の子でも触れるけれど、これがGだったらどうなっていたのだろう。

俺だって、前まではGが好きではなかった。

ただ、あの南極で眠る瞬間は、Gも可愛く見えたんだよな。

あんなところで必至に生きる小さな命。

暖かかった。

「メグミは、蜘蛛は怖くないんだね。」

「んー、好きって事はなかったけど、ダニとか食べてくれる益虫だしね。ただ多いと最初は少し怖かった。」

神は言っていた。

「一寸の虫にも五分の魂、助けられたものは、必ずその恩に報いる。」と。

助けるって事は、その虫に少なからず好意をもっている人って事か。

そしてそういう人が、この能力を得るのではないか。

俺はGが好きではなかったけれど、元々殺すのはいやだった。

俺の場合は、相手が何であっても、むやみに殺生したくなかっただけなんだけどね。

「じゃあ、オーナーと話してくるから。」

「私も行くよ。」

俺達は共に部屋を出た。

オーナーと話して、今日の仕事は終了。

料金はすぐに支払う約束だったが、大切なお客様を、無事もてなす事ができればって事で、後日となった。

実際、俺達が何かしている姿を、オーナーが見る事はできないし、信用できないって事かもしれないと、なんとなく思った。

俺達は自動車に乗り込む。

シートベルトをした。

助手席では、メグミがシートベルトをしていた。

「そうそう、今日の報酬は、全部メグミの物だ。」

俺は財布から3万円を取り出し、メグミに差し出した。

「ええ!いいよ。私自身、何もしてなかったし。」

「そんな事言ったら、俺も何もしてないよ。」

「それに、私の相談を聞いてもらったお金も払ってないし。」

「いや、気持ちが楽になったのはお互い様だし。」

・・・

「ぷっ、ははは。」

「はは、へへへ。」

なんだか、お金の事で譲り合っていた自分が、昔の自分からは想像できずに、笑ってしまった。

なんせ、その日生きるのも辛いくらい、貧乏していたからな。

「じゃあ、半分はメグミので。これ以上は譲れないよ。」

「わかった。」

「てか、メグミもこれから一緒に仕事しないか?二人でやれば、何かもっと面白い事できるかもしれないし。」

「うん。いいよ。」

あっさりと了解された。

「でも、高校生だから、その、空いた時間でできる範囲でいいからな。」

「わかってるよ。」

俺は車を走らせた。

既に辺りは真っ暗だった。

愛須家についたのは、夜の9時頃だったが、特に問題はなさそうだった。

最近の女子高生って、9時に帰っても何も言われないのか?

少し不安になった。

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