終幕
同時に鳴り響いた、4つの銃声。
そのうち2つは、カエとメグミに命中した事が分かった。
油断した。
俺の後ろにも男がいたのを忘れていた。
俺は即座にGを放った。
これ以上の攻撃をさせない為だが、冷静にそう考えていたわけではない。
とにかく何かあれば、Gを放つと決めていただけだ。
俺は急いでメグミの元へ駆け寄った。
「吉沢さん、カエをこっちに!」
俺は無我夢中だった。
とにかく、俺の全ての生命力を使ってでも、この二人を救おうと思った。
二人とも撃たれた場所が悪かったようで、心臓が止まっていた。
それでも俺は必死に助けようとした。
山瀬さんと吉沢さんの声が、遠くに聞こえていた。
意識はハッキリしないが、俺は正気に戻ってきた。
状況を確認すると、俺は山瀬さんの運転する車に乗っていた。
無我夢中だった時の行動は、ぼんやりとは覚えているが、つい先ほどの事なのに、夢のような気がする。
俺は必死に、カエとメグミを助けようと力を使った。
とにかく助かる事を願っていた。
サイレンの音が聞こえた。
誰かが救急車を呼んだようだ。
サイレンの音は一つではなかった。
パトカーのサイレンの音もあった。
吉沢さんが、俺に何か言って、去って行った。
救急隊員が部屋に入ってきた。
山瀬さんが俺の体をつかんで、カエとメグミから離していた。
救急隊員が、カエとメグミをつれていった。
俺の力では完全には治せなかったが、再び心臓も動いていたし、体内に残されていた銃弾も取りだした。
後は医者が、きっと助けてくれるだろう。
力が抜けた。
山瀬さんが俺に、一緒にくるように言っていた。
俺は何も考えず、それに従った。
「山瀬さん。」
ハッキリしない意識の中で、俺は車を運転する山瀬さんに話かけた。
「なんですか?」
バックミラーに映る山瀬さんの目は、優しかった。
「二人は、カエとメグミは、大丈夫ですか?」
「ええ、凄い能力ですね。あなたのおかげで、問題なさそうですよ。」
山瀬さんの言葉に、安心した。
もう俺の命は、今にも燃え尽きようとしていた。
明日の太陽を拝む事はできないだろう。
いや、もういつ死んでもおかしくない。
俺の生命力は、もうほとんど残っていないのだから。
車は信号待ちをしていた。
外から、人の話し声が聞こえてきた。
「人生やり直せるなら、何時がいい?」
「やっぱ高校生かなぁ。気楽だし、青春だし・・・」
人生やり直したいか。
確かに、やり直す事ができたら、俺はやり直したいのかもしれない。
でも、俺は今、死にたくないと思っている。
死にたくないって事は、それは幸せな人生だったのではないだろうか。
「ホント、死にたくねぇなぁ~」
俺は涙がでてきた。
だけど、そう思える事が嬉しかった。
ふと、昨日病院で見た、記憶喪失の少年を思い出した。
あの少年は、既に死んでいる。
魂の抜けた、ただの器だ。
今目の前に、人生やり直したいと言っている男がいる。
できるかどうかわからないけれど、最後の力で、これくらいの気まぐれは、神様も許してくれるだろう。
若い体を持っているのに、死んでいる少年。
若い体になりたいと望んでいる、目の前の男。
俺は残る全ての生命力を使って願った。
この男の魂を、あの少年の体へと。
俺の掌から、男へ向けて、光が放たれた。
そして俺は、死んだ。
この地球上でおくる人生は、無限に続く命の中では、ほんの些細なちっぽけな時間だ。
そして、この地球上での些細な時間には、それぞれの人が、それぞれの世界を持っている。
同じ時間軸の中で、人の数だけ、それぞれの世界が存在する。
人はこれを、パラレルワールドと呼ぶのだろうか。
俺の世界では、俺を中心に全てが動いている。
そして、あなたの世界では、あなたを中心に世界が廻っている。
だから、俺が強く望めば、俺の世界で起こる事は俺の望みのままとなるのだ。
あなたが強く信じれば、あなたの世界はあなたにこたえてくれるだろう。
そうやって存在する無数の世界は、お互いに干渉しあっている。
たとえば俺の世界で、あなたが死ぬ事が必要だとしたら、あなたの世界でも、誰かの世界でも、あなたが死ぬという力が働く。
でも、誰かの世界で、それが都合の悪い出来事となるなら、あなたが死なないという力が働く。
きっと鈴木が、俺は死んでいないと思ってくれていたのだろう。
俺が死ぬと、鈴木の世界では、何かまずい事があったのだろう。
だから俺は、生かされたのだ。
もしかしたら、鈴木の世界では、「自分は大きな発見をするが、世に出る事なく死ぬ」という、シナリオがあったのかもしれない。
その為に、俺はこんな能力を持って、死の淵から帰ってきたのかもしれない。
この地球での人生は、人の思いで作られているのだ。
俺が腐った世界、腐った人々と思っていたから、俺の世界ではそうあらなければならなかったのだ。
俺の人生がこんな結末を迎えたのは、全て俺が思いこんだ事で、俺の責任だったのだ。
俺がもし、この世の中は最高だと思っていたら。
俺がもし、人々は全て優しいと思っていたら。
俺がもし、必ず俳優として成功すると、心のそこから思えていたら。
きっと、そうなっていたのだろう。
ただ、今更気がついても遅いという事か。
人生は、俺の命の中では、ほんの些細な時間。
この先、別の星で、別の人生を歩むのか、それともまた、この地球で人生を歩むのか。
それはわからない。
ただ、今回の俺の人生は終わった。
次の人生を始める時は、きっとまた、全てを忘れたところから、始める事になるのだろう。
だから今、俺は言っておく。
今あなたが送っている人生、あなたの生きている世界は、あなたを中心に動いている。
あなたが本気で信じれば、それは必ずそうなる。
自分の存在する世界は、実はじぶんが勝手に決めつた世界で、実は思いどおりに動くはずなのだ。
だけど固定観念、概念があるから、思いどおりにはいかない。
常識で考えては駄目だ。
固定観念を打ち破った時こそ、世界はきっとあなたにこたえてくれるだろう。
俺からあなたに伝えらる事は、これで終わりかな。
おっとそうそう、一応説明しておきたい事があった。
ゴキブリが思いのまま動いた事については、一応の説明がついていたが、生命力についての力については、何故そんな力が使えたのか最後まで分からなかった。
でも今なら説明がつく。
俺の世界は、全てが俺の希望によってつくられているわけで。
ゴキブリが思いのままになるなら、こんな力が使えてもおかしくないと、俺がどこかで思っていたから、こんな力が使えるようになったわけだ。
理屈ではない。
俺の生きる世界は、俺の世界である、ただそれだけだったのだ。
それでは、俺はそろそろ次のステージに向かう事にする。
「もし」また何処かで会う事があったら、俺にこの事を伝えてほしい。
今度は楽しい事ばかりの人生をおくりたいから。
「君の世界は、君を中心に動いているのだから、願いは必ず叶えられる。前向きに生きろ!」とね。
「もし」じゃない。「きっと」・・・
最後まで読んでくださって、ありがとうございました。
3年前に書いてたものの続きを、最近一気に書き上げたものですが、その割には上手くまとまったと勝手に思っています。
最初は、「能力の使える冴えないシティーハンター」みたいなのをイメージして書き始めました。
だから、色々な話をずっと続けるつもりだったのですが、期間があいてしまった事と、書いていて飽きてきた事から、しめる事にしました。
テーマはもちろん「イフ」。
「もしも」って事、考えますよね。
これには二つの意味があります。
後ろ向きな「もし」と、前向きな「もし」です。
私も含めて、過去を振り返って、もしもって思う人は多いと思います。
だけど、やっぱり前向きが良いよねってのが、一応のテーマかな。
もしも歌手になれたら、もしもプロ野球選手になれたら。
夢をかなえる為の力となる「もし」ですね。
でもその中で、やっぱり風刺も書いているんですけどね。(笑)
後は、嫌われ者の虫も、命があるって事とかw
それでは、また次回も、読んでいただけると幸いです。