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イフ  作者: 秋華(秋山 華道)
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夢再び

気がつくと、俺は病院のベッドの上で寝ていた。

腕には点滴用の管が繋がれていた。

鈴木の死は夢だったと思いたかったが、寝ていた病院が、鈴木の搬送された病院だった事から、夢では無かったのだと悟った。

医者に、もう少し寝て行くように言われたが、俺は断って病室から出た。

病院で寝ている場合ではない。

鈴木は誰かに殺されたのだ。

拳銃で撃たれたと言っていた。

俺はこの犯人を見つけ出し・・・

どうするつもりだ?

仇を撃つに決まっている。

俺は早足で、病院の廊下を歩いた。

すると俺が寝ていた二つとなりの病室から、大きな声が聞こえてきた。

ドアが開いていたので、俺はなんとなく覗いてみた。

ベッドの上では、高校生くらいの男の子が暴れていた。

「大丈夫よ!記憶が無くても、お母さんがちゃんといるから。」

母親らしき人が、息子であろうベッドの上の少年に、必死に訴えかけていた。

どうやら、あの少年は記憶喪失のようだ。

なんとなく、俺は生命力を使って、彼を治せないか調べてみた。

駄目だな。

体の生命力は失われていないが、何故か心が完全に閉じている。

生きていても、生きる気力がないようだ。

なんだよ。

せっかく生きているのに、魂は生を拒むのか。

だったらその体、鈴木に・・・

そこまで思って涙がでそうになったが、自分も死のうとした人間だった事を思い出した。

「そっか。この少年も俺と同じか。」

他人の事は言えない、俺は失笑した。


車に戻ると、俺はとりあえず自宅マンションに向かった。

とりあえず全てのGを総動員して、犯人を探す為だ。

山瀬さんや、吉沢さんにも協力してもらおう。

絶対に見つけてやる。

だが、気合とは裏腹に、少しめまいがする。

医者に寝て行けと言われたくらいだし、さっきまで点滴を受けていた身だ。

やはりかなり疲れているようだ。

そこで思いだした。

先日鈴木と会った時、「疲れたらこれを打つと楽になるよ。単なる栄養剤みたなものだけどね。」なんて言って、鈴木が車の中に置いていったペン型の注射器の存在を。

鈴木の会社は、健康食品、サプリメント、グッズを製造販売している会社だ。

だからこれが会社の製品であるならば、この疲れを癒す助けになるはずだ。

「鈴木は死んでも俺を助けてくれるのか。」

俺は信号待ちをしている間に、左腕に注射を打った。

それから1時間ほど運転していただろうか。

俺は意識がもうろうとしてきた。

鈴木から貰ったペン型注射器を打っても、疲れは一向にとれる気配は無かった。

もう運転もできないと思った俺は、車を止めて少し眠る事にした。

俺は適当なところに車を止めた。

すると、すぐに意識は無くなっていった。


夢を見ていた。

何処からか声が聞こえる。

「力になるよ。」

ありがとう。

「なんでも言ってね。」

でもどうして?

「それはね・・・」

ハッと目が覚めた。

なんだろうか、今の夢。

以前見た、あの時の夢に感覚が似ている。

南極に行った後、病院で目覚めた時に見た、あの夢だ。

あの時とは言葉も違うし、神もいなかったが・・・

俺は再びハッとした。

辺りは既に暗くなっていた。

ずいぶんと眠っていたらしい。

運転席の前のところに置いてあった携帯が、チカチカと着信アリを主張している。

携帯の着歴を見ると、銀座興業やらテレビ局やら、沢山の着信が入っていた。

何も言わず、全ての仕事をばっくれてしまった。

一応話しておくべきか。

俺は銀座興業マネージャーの携帯に電話を入れた。

マネージャーは怒っていたが、倒れて病院で寝ていたと言ったら、今度は逆に気遣ってくれた。

体調が悪いので、しばらく休めないかと言ったら、調整してみるとの事で、一旦電話を切った。

とりあえず、まずは自宅マンションに戻ろう。

着信に、メグミの名前もあったので、二人も心配しているに違いない。

ニュースで鈴木が死んだ事も、もしかしたら知ったかもしれない。

俺は早く戻らないといけないと思った。

体調はずいぶんと良くなっていた。

鈴木のあの薬が効いてきたのだろう。

この分なら、後30分もあれば、自宅につくはずだ。

俺はアクセルを踏みこんだ。


ようやく自宅に帰ってきた。

実に24時間ぶりの帰宅だ。

二人には心配をかけてしまった。

きっと、俺に気を使って、元気づけようとしてくれるのだろう。

いや、もしかしたら、一緒に悲しんでくれるのかもしれない。

最高の親友を無くして、俺は一瞬我を忘れそうになったが、二人の存在が、まだ俺を、正常な俺に繋ぎとめてくれているのかもしれない。

早くふたりの顔が見たくなった。

俺はエレベーターを降りると、ドアの前まで走っていった。

いや、走っている途中で気がついた。

俺の部屋のドアが、開け放たれたままだった。

俺はそのままの勢いで部屋に飛び込んだ。

中を見た俺は唖然とした。

部屋は争った後のように荒れていて、二人の姿はそこには無かった。

テーブルには、一枚の紙が置いてあった。

俺は慌ててそれを手に取った。

紙には、「戻ってくるように。山田。」それだけが書かれていた。

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