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イフ  作者: 秋華(秋山 華道)
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鈴木の体からは、既にフェロモンのようなものが出ているとの事だった。

ただ、人々が従属するようになるのは、これから徐々にという話だ。

鈴木との話し合いでの結論としては、能力が上手く機能するならば、世界の変革ではなく、一つずつ改革していこうという事で決着がついた。

駄目な法律を改正したり、金持ちが得をするようなシステムを変えたり、それはもう地味に。

だけど、ねじれ国会とかで決まらない話しあいをしているよりも、いくらもマシだ。

鈴木が、誰もが従う総理大臣になれば、そして世界の大統領になれば、世界は一つに、そして未来へ繋がる何かが残せるかもしれない。

そんな、全世界、全人類の事を考えている俺の目の前では、始まったばかりの月九ドラマが放送されている。

俺の出ているドラマだ。

最近忙しいので、リアルタイムではなく、録画だ。

一緒に、カエとメグミも観ている。

「凄いね!光一さん格好良い!」

「ねwそれにやっぱり、演技が大人っぽいのね。」

「そらそうだな。見た目は若くても、俺は爺さん一歩手前だからな。」

こんな会話をしている時も、俺は警戒している。

俺達の会話が誰かの能力によって聞かれたら、もしかしたら俺達も、保護と言う名で監禁される事になりかねない。

それでも、この三人でいる時間は幸せだ。

俺を施設から出してくれた山田にも、少しは感謝しなければならないのかもな。

吉沢さんはどうしているだろうか。

腐った世の中、腐った社会、その中にある暴力団。

そんな中にも、意外と良い人がいる事を知って、俺は何か考え方が変わった気がする。

山瀬さんは、相変わらず頑張っているのだろうか。

最近はもう連絡もとっていない。

山瀬さんには、嘆くだけではなくて、行動する事を教えてもらった。

大した事はできなかったけれど。

そして鈴木。

どんな暗闇でも、光はあるのだなぁ。

これだけで、俺の人生は、きっと幸せだったのかもしれない。

色々考えていたら、いつの間にかドラマは終わっていた。

二人の女子高生は、ソファーに座ったまま、眠っていた。

このドラマも、おそらくもう何度も見ていたのだろう。

時間も遅いし、寝てしまって当然か。

俺はタオルケットを二人にかけてやった。

「さて、俺も寝るか。」

俺は誰に言うともなく独り言をいって、再生し続けていたDVDのリモコンの、ストップボタンを押した。

再生が終わり、表示はテレビに戻り、画面にはニュースキャスターが映し出された。

最近は、報道規制なのかもしれないが、能力者のニュースは少なくなっていた。

「道路に倒れていた男性は、すぐに病院に運ばれましたが、意識不明の重体です。」

どうやら、何か事件があったようだ。

こんなニュースは、毎日どこかのチャンネルで放送されている。

珍しくもない話だ。

俺はテレビの電源を落とそうとした。

しかし、その後のキャスターの言葉と映像に、俺は呆然となった。

「被害者は、所持していた免許証から、鈴木豊さん54歳だという事です。」

ニュースキャスターが告げるその名前は、まさしく俺の親友の名前であり、映された免許証の写真は、確実に本人である事を告げていた。


気がついたら、俺は車を出して、夜の道を突っ走っていた。

チラッとだが、搬送された病院の名前がテレビに映されていた。

おそらくは、鈴木の自宅に一番近い病院だ。

法定速度も無視して、とにかく俺は病院へと車を走らせた。


遅かった。

間に合わなかった。

俺が病院についた時には、既に鈴木は死んでいた。

死んでさえいなければ、俺の力でなんとかできたかもしれない。

でも、流石に死んでしまっては、俺の力でも、どうする事もできなかった。

鈴木の家族だろうか。

病院の廊下で泣いていた。

俺も泣きたかったが、泣いている家族であろう人達を見ていると、泣くことができなかった。

俺は一人、ロビーの方まで歩いていった。

壁にある時計は、AM5時を回ったところだった。

今日も仕事があるのだけれど、もうどうでも良いと思った。

俺の唯一の親友、鈴木はもう、この世にはいないのだ。

俺は力なく、ロビーの椅子に腰かけた。

全ての力が抜けた。

そしたら、ようやく涙がでてきた。

「なんだよこれ・・・」

理不尽な世界は、無慈悲な神は、どれだけ俺の事が嫌いなのだろうか。

そんなにもこんな腐った世の中が好きなのか。

俺の意識はそこで潰えた。

そのまま椅子から落ちて、力なく床に倒れた。

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