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イフ  作者: 秋華(秋山 華道)
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変わる世界

鈴木と話をしたあの日以降、というか、あの能力者がテレビに出演したあの時から、世界各国で能力者が公の場に出てきていた。

蚊、アブ、ハンミョウ、セミ、カブトムシ、蟻など、あつかえる虫は色々だ。

ただ、虫の種類がかぶる事は無かった。

勝手な憶測だが、一度虫が主と決めたら、浮気はしないって事だろう。

となると、一度誰かが人間の頂点に立ったら、他の人が、ミジンコデビルのウィルスのような分泌液に感染しても、人はその人には従わないと考えられる。

この力を利用して、世界を変革できる人は一人で、チャンスは一回きりって事になるわけだ。

たとえば俺が死んだら、Gはもう誰にも従わない、今までどおりに戻る事になるのだろう。。

この永久凍土が溶けて起こっている事態は、長くて100年そこそこの、特別な時間なのかもしれない。

そんな時間を生きていて、俺は俳優なんてしていて良いのだろうか。

この能力を使って、変革するべきではないだろうか。

俺の気持ちは、ついこの前出した結論を捨て、再び元の俺へ戻る事を考えていた。


連日、テレビで能力者が紹介される。

もっとも能力者が多いのは、やはり寒い地域だ。

だけど、暑い地域に住む人々も多々いる。

寒いところに生息しない虫も多い。

鈴木と電話で話したが、これはきっと、ミジンコデビルが、寄生しなくても生きられるように耐性がついたか、又はその時間が長くなっている可能性があると考えられた。

小さな生き物ほど、進化するのは早い。

毎年違うインフルエンザウィルスが出てくるのはその為だ。

もしかしたらもう、ミジンコデビルに寄生された虫が、身の回りに沢山いるかもしれない。

ウィルスのような分泌物に感染した人が、すぐそばにいるのかもしれない。

そうなると、まず人には寄生しないとされるミジンコデビルが、奇跡のような確率の中で、人に寄生する事もあり得る。

結論を出す時間は、もうあまり無いように思えた。

そんな事を考えていたある日の事だった。

とうとう恐れていた事が起こった。

ヨーロッパのある国で、能力者と政府による武力抗争が勃発したのだ。

能力を得た人々が差別される事により、能力者が人権を主張したのが始まりだった。

すぐにそれはエスカレートし、能力者は権力者を脅迫したり、虫の力によって、なんとかしようと動き始める。

当然、能力を持たない権力者は、能力者を恐れた。

武力抗争が勃発してから数日で、能力者が射殺されたり、軍隊や警察に捕らえられ、すぐに死刑される国も出てきた。

日本でも、それは例外ではない。

死刑とまではいかないが、能力者を集めて管理下に置き、事実上拘束するようになっていた。

もちろん、名目上は、保護という事になってはいるが、本音はきっと違うだろう。

俺も自分の身を心配しなければならなくなってきた。

権力者の中に能力者がいて、他の能力者をなんとかしようと考えたとしたら。

俺がやったように、虫を使って盗聴したり、捜索したりするだろう。

下手に話したり、能力を使えば、俺が能力者だとばれてしまう可能性もある。

俺は使いたくなかったが、生命力を使って、常に周りにいる生物を監視して、毎日を過ごす事にした。

あの能力者がテレビで放送されて約1カ月、世界は収束不可能と思えるくらいの混乱の中にあった。

それでも、日本は比較的平穏だった。

民度が高いようで、人々はなんとか規律を守っていた。

政府も何とか機能を維持している。

だから俺も、一応普通の生活を送っていたし、7月からのドラマの撮影も、順調に行われていた。

そんな中、俺はあの日約束したとおり、再び鈴木と会っていた。

「大変な事になっているな。」

日本は比較的平穏だったからか、混乱を肌で感じる事はない。

だから普通に話す事ができた。

それに実は、重大決心を伝えるつもりで来ていたので、それが逆に俺を開き直らせていた。

「そうだな。もう一刻の猶予もないところまできているな。」

鈴木の言葉。

これは、今日結論を出さなければならないという事だ。

俺達が何かするのか、それとも能力は封印し、今までどおり生きるのか。

人にミジンコデビルが寄生しない事を祈って・・・

「俺、決めたよ。」

俺は鈴木に決心を告げるべく話しだした。

「このままだと、いずれミジンコデビルが人に寄生して、誰かが人の絶対的支配者となるだろう。だから、誰かが先になってしまう方が良いと思うんだ。」

「うん、俺もそう思う。」

俺の意見に、此処までは鈴木も同じ考えのようだ。

だけど、きっと此処から先は、違う考えになるはずだ。

「俺を、人の主にできないか?そして、俺が死ぬことで、今までどおりの世界が維持できるはずだ。」

そう、俺は結局、変革したかったこの世界を、今のままにしておくのが良いという考えに至ったのだ。

確かに、俺はこんな世界が良いとは思わない。

だけど、理想の世界を作ったとして、支配者が死んだ後はどうなるのだろうか。

全てがなくなり、人々が経験してきた事も捨て去り、また最初からの作り直しだ。

だが、今の世界を維持し、少しずつ改革する事で、人は学び、いつか人間の手で、本当に良い世界が作れるのではないだろうか。

今此処でリセットしてしまったら、今までの歴史が、全て無駄になるかもしれない。

俺の結論は、そういう事だった。

だが当然、鈴木はこんな提案には反対した。

「ばかな。悠二が死んだら意味がないだろう。二人で良い世界を作れば良いじゃないか。俺も前から思っていたんだ。あれだけ頑張っていた悠二が報われない世界なんて、良い奴ほど損をする世界なんて、間違っている、壊してしまいたいと。」

鈴木。

昔も今も、俺の事を考えていてくれるんだな。

俺が報われない世界だったから、壊してしまいたいと言うのか。

つくづく良い奴だなと思った。

だけど、コレを話せば、きっと賛成してくれるはずだ。

俺は再び、鈴木に話し始めた。

「俺の能力は、ゴキブリのコントロール以外に、生命力を使って、色々な事ができるんだ。傷を治したり、生き物の存在を感知したり、小さな生き物だったらコントロールもできる。」

「知ってるよ。そう前に言っていたじゃないか。」

鈴木はそう言ったが俺はそのまま話しを続けた。

「それは、その能力は、実は俺自信の命の力を使って、行える事だったんだよ。」

「どういう事だ?まさか能力を使うたびに、自分の命が削られるって事か?」

鈴木の言葉は、当たりだ。

でもそれだけじゃない。

「それで、もう俺の命は、それほど長くはない。」

「ちょっと待て。そんなに元気なのに、信じられないぞ。それに何故そんな事がわかるんだ?」

分かってしまうんよ。

命にかかわる事なら。

俺の中の生命力は、長くてももう1年ももたない事が。

俺は少し黙っていたが、どうやら鈴木も、俺の意思を分かってくれたようだった。

沈黙の中にも、お互いの気持ちは通じていた。

心地よい沈黙だった。

その沈黙を破ったのは、鈴木だった。

「だけど、残りが少ないからこそ、最後はお前に幸せになってもらいたいんだよ。」

気持ちは伝わっていたはずだが、意見はどうやら違っていた。

「いや、こんな力で変革して、本当の幸せはつかめないさ。」

俺はなんとか鈴木を説得しようとした。

しかし鈴木の次の言葉で、全てがもう既に動き始めている事を悟った。

「娘に、ミジンコデビルを寄生させた。そして俺の体の中には、既に・・・」

言葉が出なかった。

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