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イフ  作者: 秋華(秋山 華道)
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幸せの日々

親友と出会った事を、マンションに戻ってからカエとメグミに話したら、二人は何故か怒っていた。

「なんで!!」

「それはちゃんと話すべきだと思うよ。」

俺が、自分の事を話さなかった事が、それほど駄目な事なのだろうか。

人の信用と信頼を得るには、約束は絶対に守るべきものだと思う。

だけど二人は、それは絶対ではないと言う。

そんなどうでもいい人との約束よりも、今目の前の親友の悲しみを取り去る事の方が大切だと言う。

確かに、言われてみればそうかもしれない。

「だが、俺が約束を破った事で、鈴木は俺を信用できないと思わないだろうか?」

「それこそ信用してないよ。」

「そうですよ。光一さんが鈴木さんを信用してません。」

メグミもカエも、完全に同じ考えのようだ。

たかだか17年しか生きていない小娘の言う事だ。

バカな考えだと聞き流す事もできるはずなのに、俺はどうやら、二人の意見の方が正しいと思ってしまっているようだ。

いや、そうだと思いたいのかもしれない。

鈴木なら、俺がたとえ悪人になっても、俺の味方であってくれる。

そう思いたいのだ。

「次、会ったら、その時は、考えるよ。」

俺のスッキリしない返事に、二人は納得できないって表情だったが、どうやらギリギリ納得してくれたようだった。


それからはしばらく、二人はテスト勉強の日々、そして気がつけば、季節は春へと移り変わっていた。

山瀬さんとは時々会ってはいたが、特に大きな事件に巻き込まれる事もなかった。

どうやらマフィア幻術の事で、警察とは関係ない俺を巻き込んだ事に、罪悪感を持っているようだった。

俺は全く気にしていないと言ってはいるが、山瀬さんは良い人だ。

おそらく、本当に困った時以外は、俺に話をもちかけてくる事は、もうないだろう。

浜崎組の吉沢さんも、マフィア幻術の事が片付いた直後に連絡をくれて以来、連絡はとっていない。

最近はと言えば、もっぱら二人の可愛い女子高生と、カラオケに行ったり、遊園地に行ったりと、遊んでばかりだ。

幸せとは、こういう事なのだろうなと思った。

春休みも終わり、二人の女子高生は、再び高校に通う毎日に変わった。

なんとなく夢の世界から、現実に戻ってきたような感覚だったが、かといって幸せが無くなったわけではない。

一緒に暮らしているわけだし、結局は毎日顔を合わすのだから。

夢の続きか、そんな事を思うある日の事だった。

携帯電話に、よく知る番号から電話がかかってきた。

相手は鈴木である。

俺は出るのをためらったが、意を決して電話に出た。

「はい、万屋イフです。」

意を決した割には普通だなと、自分で思ってなんだかおかしかった。

「あ、あ、あの、先日、ウインズで・・・」

俺よりも、鈴木の方が緊張しているようだ。

不思議と鈴木の緊張が、俺を落ち着かせた。

「鈴木さんですね。電話ありがとうございます。」

「あ、いえ、仕事の依頼じゃないんですが。」

そうか、仕事の話って事もあったのか。

俺は鈴木に言われるまで、仕事の依頼の電話である可能性は、完全に頭になかった。

これが、友達なんだなと、改めて思った。

「では、どういったご用件で?」

「あ、その、今週末の皐月賞、中山競馬場に観にいきませんか?」

まさかの誘いだった。

しかし、当然と言えば当然の誘いであるようにも感じた。

「良いですね。」

俺は迷わず了解していた。

それがもっとも自然な流れで、もっとも俺らしいと思ったが、同時に信じられない感覚だった。


その日の夜、俺はメグミとカエに、週末に鈴木と、競馬場に行く事を話した。

すると二人は、「つれてって」と、声をそろえて言ってきた。

親友と水入らずなのに、なんて思わなくもなかったが、二人にしてみれば、俺が鈴木に本当の事を話すかどうか気になるのだろうか。

それともただ単に、競馬場に行ってみたいだけなのか。

とにかく、早速鈴木に電話をかけて、二人をつれていっても良いかどうかを確認した。

すると問題無いって事だったので、二人を連れていく事になってしまった。

照れて無理だと言ってくる事も予想したが、むしろ女子高生二人が来ると聞いて、少し嬉しそうな声になっていた気がした。

4月18日皐月賞。

俺は楽しみでしかたがなくなっていた。

弥生賞を勝ったヴィクトワールピサ、当然出走してくるのだろうな。

俺はなんとなく、この馬が勝ったら全てを話しても良いような気がした。

そんな思いの中、あっという間に、日曜日になっていた。

俺達三人は、それぞれの期待を胸に、朝も早い時間に眠い目をこすりながら、マンションを出るのだった。

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