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イフ  作者: 秋華(秋山 華道)
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思わぬ出会い

桜田会長が、マフィア幻術の密輸に協力していた事が公になった日から数日、あの山田から電話があった。

一言で言うと、あまり目立つ事はするなって事だった。

どうやら捕まったマフィアのメンバーが、万屋イフの事を少し話したようで、裏では俺のところにも事情聴取にくるとかって話になっていたらしい。

その辺りは、山瀬さんがなんとかしてくれると思っていたが、どうやら国家権力も動いていたようだ。

そんなわけで、しばらくは目立った仕事はできそうになかった。

というか、金が欲しいならこちらで用意するから、今後ずっと目立つなと言われたわけだけど。

ただ、俺としては、せっかくの力だ。

金はともかく、やはり何か良い事に使いたいと思っていた。

さて、今日も特に何をするでもなし、何もする事がないので、俺は久しぶりにのんびり街をうろうろしてみる事にした。

天気は曇りで、時々雨もぱらついたが、特に傘をさすほどでもなかった。

訪れたのは、若かった頃、よく遊びに来ていた、新宿。

昔からある店も残ってはいたが、ずいぶんと風景が違っているように見えた。

南口の方へ歩くと、更に懐かしい建物と、全く感慨の無い建物が目に入った。

俺はその、懐かしく感じる建物へと近づいた。

ウインズ、場外馬券売り場だ。

そう言えば今日は日曜日で、競馬開催の日だった。

近くで売られている新聞には、弥生賞の文字がでかでかと書かれていた。

弥生。

俺の妻だった人の名前だ。

妻を思い出すと、今の自分が本当に申し訳なく思う。

何故俺は、のこのこと生き残ってしまったのだろう。

何故後を追いかけていけなかったのだろう。

もし、今彼女と出会えていたら。

もし、此処に俺と同じように、30年前の姿であらわれてくれたら。

「もし、か・・・」

俺はまた、あり得ないイフに、気持ちを持っていかれていたようだ。

自分の女々しさに苦笑いした。

俺はなんとなくウインズに入って、少しの馬券を買って、退屈なレースを何レースか見ていた。

若い頃は競馬に熱狂していた。

何故あれほど熱狂できたのだろう。

馬の名前、血統、調教師や騎手、色々な情報が、俺の頭の中にあったように思う。

でも今では、そのほとんどはどこかに消えてなくなっているようだ。

走っている馬の血統を聞いても、ほとんどわからない名前だ。

いつの間にか終わっていたメインレース、弥生賞の勝ち馬は、ヴィクトワールピサ。

全く聞いた事もない馬だった。

メインレースが終わって、一部の人達はウインズを出て行く。

俺もなんとなく、その波の一部になっていた。

最近忘れていたが、晩年の俺は、いつもこんな感じだったように思う。

覇気もなく、ただ流れに流される、そんな毎日。

ただ違っているのは、財布の中身だ。

何故か出かける前よりも、所持金が増えていた。

金の無かった頃は、どんだけ頑張っても、どれだけ努力しても、簡単には増えなかったお金。

しかし今はどうだろうか。

欲がないからなのか、金に困る事がないからだろうか、簡単に増えていきやがる。

こんな世の中、本当に腐っていると思った。

ウインズから出ると、少し雨が降っていた。

今のスッキリしない気分の俺には、丁度いい雨だ。

儲かったお金で遊びにでも行こうかと、少しくらいは考えられてもいいものだが、貧乏性な俺には、そんな風には思えなかった。

ヴィクトワールピサか。

なんとなく、弥生賞の勝ち馬の名前を思い出した。

そして本当になんとなくだが、この馬は大きな事をやってくれる、そう思った。

少し雨に濡れながら、俺は駅へと向かった。

もうなんだか、街を歩く気持ちにもなれなかった。

気分がすぐれない。

病院で目を覚ましたあの日、あの日は凄く体調が良かったように思う。

しかしあの日以降、ずっと右肩下がりな気がする。

実際、今動いてみれば、結構動けるだろう。

そんなはずはないとも思える。

それでも、生命力を使ってきた自分は、確実に死へと向かっていると感じる。

いや、全ての人が、日々死へと向かって歩いているのだ。

そう思うのも当然か。

もう何を考えているのかも、分からなくなってきていた。

そんな時だった。

突然後ろから、肩を叩かれた。

俺は無気力に振り返る。

しかし、目の前に立つ人を見て、俺は一気に意識が現実へと戻ってきた。

ハッキリ言って驚いた。

そこに立つ人物、それは、俺がこの世で最も信用し、信頼してきた人物の一人だった。

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