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イフ  作者: 秋華(秋山 華道)
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一応の決着

桜田邸に入り調べた日、結局得られたものはほとんど無かった。

得られたのは、桜田会長と、マフィアのボスであろう人とのつながりが強いという事実を、再確認できた事だけ。

3時間ほど車内で待ってから回収したボイスレコーダーにも、メグミが回収したものにも、特に証拠となりえるものは無かった。

むしろ桜田邸を調べた事で、流れは悪い方向へと進んでいた。

一つは、日本の財界トップが、他国のマフィアと繋がっている事が確実な事実として確認できた事に、ショックを受けた事で皆気分が沈んだままである事。

そしてもう一つは、マフィアから、我々万屋イフも、命を狙われる存在になってしまっているかもしれない事。

先日、桜田邸から帰る時、車で敷地を出た時にすれ違った車、その中に桜田会長と、用務員のおじさんをしていた俺を知る人物が、どうやら乗っていたようなのだ。

俺の車とすれ違った後、その男は車から出て、こちらの車を指差して、慌てて何かを言っているようだった。

よく考えれば、俺の車は、防弾ガラスとパンクしないタイヤにカスタマイズされた、特別チューニング車だった。

山瀬さんの娘さんを送り迎えしていた車である。

これで完全に、万屋イフが警察と繋がっている事がばれ、俺達も少なからずマークされる存在になってしまった事は事実。

正直、俺としては、メグミとカエを巻き込んでしまっている事が、一番つらい。

二人の正義感は強く、この仕事に対しての迷いは全くない。

だけどやはり女子高校生だ。

怖いという気持ちは、そこかしこに現れていた。

一応、山瀬さんにはマンションの周りを警戒してもらってはいるし、実家の方もそう。

だけど迂闊に学校にも行けないし、不用意に出かける事さえできない。

早く決着をつけなければと思った。

実際、山瀬さんに脅迫してきているのがマフィア幻術で、そのボスが桜田邸にいる事は分かっているので、監視は続けているし、いつでも踏み込める準備はしている。

ただ、それがマフィアのボスである証拠も無いし、迂闊には動けなかった。

何か少しでも証拠があれば。

俺がGを通して聞いた会話を録音できていれば、少しは違っていたのだろうが。


と言うわけで、実はボイスレコーダーを、桜田邸のリビングに残したままにしておいたのだ。

残しておいて、回収できるかどうかもわからないし、見つけられたらヤバイので、数は一つだけ。

こんな状況で回収に行くのも危険だが、流石にGに此処まで持ってこさせるのは不可能に近い。

ある程度近くまで行って回収する必要がある。

盗聴器ってのももちろん考えたが、あれは電波を飛ばすから、きっとすぐにばれるからやめていた。

今思えば、良かったと思う。

あんなふうに警察とつながりがある事がばれてしまって、盗聴器が隠されていないかは、おそらく調べられただろうから。

俺は桜田邸の近くまで来ていた。

二人を残して出かけるのもためらわれたが、山瀬さんに警備の強化も頼んだし、大丈夫だと自分に言い聞かせた。

なんとかボイスレコーダーを回収し、証拠となる物を手に入れ、早々にこの危険な仕事を終わらせたかった。

桜田邸の周りには、警察が何人かはっているようだった。

山瀬さんの話によると、マフィアのボスらしき人物が、この豪邸を出た様子はまだ無いとの事。

そうは言っても、みんな顔も知らないわけで、もう此処にはいないかもしれない。

回収は、Gに下水を通って桜田邸を出てもらい、道の端にある水路の所まで持ってきてもらう。

夏ならこれくらい楽勝だろうが、冬なので上手くいくかは微妙だ。

作戦としては、お湯を流した時など、比較的暖かい時に、Gのタイミングでお願いした。

なるべく早いタイミングが好ましいが、焦って失敗しては元も子もない。

車を止めて、此処でじっとしているのも落ち着かなかった。

警察が張っているし、まさか本拠地近くでドンパチとかあり得ないけれど、それでも犯罪集団のボスが近くにいるかもしれないのだ。

俺は、少し怖いのだろうか。

死のうとしていた自分が、今になって死ぬのが怖いのか。

なんだか少し笑えてきた。

しばらく車の中でボーっとしていたら、Gが一匹やってきた。

どうやら動き始めたらしい。

もうすぐ来るか、それともどこかで動けなくなるか。

しばらく待っていると、再びGが一匹やってきた。

どうやら此処まで、ボイスレコーダーを持ってくる事が出来なかったようだ。

できたのは、敷地外の道沿いの溝の所まで持ってくる事。

こちらから向かう以外にない。

俺は迷わず車のエンジンをかけると、更に桜田邸に近づいて行った。

数日前に来た場所だが、何故か懐かしく感じた。

俺は素早く道沿いに車を止めると、車に乗ったままドアを開け、溝の蓋というか、石のカバーを外した。

すると丁度そこに、ボイスレコーダーがあった。

すばやくそれを取ると、元あったとおり石のカバーをつける。

後はこの場からおさらばだ。

だが、せっかく此処まで桜田邸に近づいたのだから、俺は確認しておきたくなった。

あのマフィアのボスが、此処にいるのかどうか。

先日、害虫駆除の名目で豪邸内に入った時には使わなかったが、俺は生命力から、どんな生き物が何処にいるのか、ある程度近い範囲なら分かる。

ただ、生命力を使う能力は、使うととても疲れるのだ。

特にひどかったのが、山瀬さんの娘、麻里ちゃんの傷を治した時だ。

なんとなくだが、俺は悟っていた。

この生命力を使った能力は、自分の生命力を削っている事を。

だから無意識に、なるべく使わないようにして、Gを使った能力だけで仕事をしていたのだ。

だが、今回は確認しておくべきだろう。

俺は桜田邸内の生命力を確認した。

豪邸全ての生命反応を確認したが、あのマフィアのボスの存在は感じられなかった。


桜田邸から離れたらすぐ、山瀬さんに電話を入れた。

マフィアのボスは、もう桜田邸にはいないと。

帰ってすぐに、ボイスレコーダーの録音を確認したかったが、排水溝を通ったりしていたので水で濡れており、すぐには聞けなかった。

こういったものは、濡れた状態で使うと、完全に壊れてしまう恐れがある。

たとえば携帯電話も、水にぬれても、電源さえ入れていなければ、乾くのを待って使えば、案外使えたりする。

それを、使えるかどうかすぐに確認しようと電源を入れるから、そこで壊れる事が多いのだ。

でも、水に落とす時に、電源が入っていないなんて事もそうそうないだろうけれど。

ドライヤーの力もかりて、ようやく乾いたようなので、俺は電源を入れた。

無事動くようだ。

俺は早速内容を確認した。

全部で100時間近くの録音がある。

全て聞いていたら、まる4日かかるので、俺はデータをPCに移してから、波形表示して、喋り声が入っている部分だけを聞いた。

すると、すぐに証拠となりえる録音が見つかった。

これは、あの桜田邸に入ったその日の夜の会話だった。

より多く録音したかったので、4日待ってしまったが、どうやら失敗だったようだ。

録音内容を簡単に言うと、山瀬刑事への脅迫の事、そして俺達万屋をどうするかって話、あのナイフの男がマフィアのボスであろう事。

桜田達吉とマフィアの親密な関係を表すものがあり、マフィアのボスが一旦国に帰ると言う話だった。

録音された話によれば、あのマフィアのボスは、3日前に日本を発っているようだ。

顔を知っているのは俺だけだし、車のトランクにでも入ってでかけられていたら、もう動きを追う事も、出国するのを止める事も不可能だった。

ただ、どうやら幹部の一部は、引き続きロバートと陳を救出する為に、日本に残るって話だった。

桜田邸に踏み込むには、十分だった。


その日夜に、山瀬さん達が桜田邸に踏み込み、一応の決着はついた。

次の日には、桜田会長とマフィアの関係がテレビより全国に発信され、日本中を驚かせた。

日本を、世界を良くする俺達の活動は、少しは前に進んだのだろうか。

おそらくまだまだだろう。

ほんの氷山の一角を崩したに過ぎない、そう思った。

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