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イフ  作者: 秋華(秋山 華道)
22/38

桜田邸侵入

昨日、その後もしばらく話を聞こうとしたけれど、送り込むGはことごとくナイフでやられた。

「今日は虫が多いな。」

「ちゃんと駆除しているはずなんだが・・・駆除業者を入れるか。」

そこまで聞けたところで、最後のGがやられた。

だからその日はそこまでにして帰ったわけだけど、あの男はマフィア幻術のボスで間違いないだろうし、調べて証拠をつかむ必要がある。

証拠とは、脅迫文を送ってきた証拠でも、それ以外なんでもかまわない。

捕らえる口実になるものだ。

何もないのに、桜田の大豪邸に踏み込むわけにはいかないから。

だから今日も桜田の豪邸を調べようと思っていたわけだけど、万屋イフに思わぬ仕事の依頼が入ってきていた。

桜田から、豪邸内の害虫駆除の仕事。

これはラッキーだ。

堂々と桜田の豪邸内に入れる。

駆除は今日一日かけて、その間に豪邸内を徹底的に調べる。

もちろん山瀬さんには連絡をいれてある。

駆除中に豪邸内にいるのもどうかと思うし、マフィアのボスが外出する可能性があるから、周りをさりげなく張ってもらう。

外出すれば、職務質問なんかで何かしら捕らえる事が可能かもしれない。

そして今日は、メグミもつれていた。

カエの蜂は、冬場には特殊な例を除いて、活動しているものがいない。

それに今日はテストがあるとか。

「ごめんください。万屋イフの高橋です。害虫駆除に伺いました。」

インターフォン越しに話すと、「どうぞ。」という声と同時に、大きな門が開いた。

中にいた警備員らしき人に一声かけると、俺は前に止めていた車に乗り込み、車を豪邸の敷地内へと進めた。

車の中には、害虫駆除用の機材など一式そろえてある。

流石に手ぶらで入って、この大豪邸の害虫駆除ができたとなったら、不自然だからだ。

今までは鞄など、Gをつれて歩ける分だけでも、そう不思議に思われる事は少なかったが。

それに物々しい機材を持ち込んだ方が、長くこの豪邸内にいられそうだ。

後は、念には念を入れて、監視用隠しカメラなども警戒している。

Gや蜘蛛に命令している姿を何処かからみられていたら、流石に怪しく思うだろう。

あとひとつ、化粧で顔も少し細工した。

中学校での用務員の姿、もしかしたらなにかしら伝わっている可能性がある。

山瀬さんの娘さんの殺害を支持したのが、もしこのボスだったら、邪魔をした私やメグミの顔を知っているかもしれない。

最悪の事も考えて、身を守る為の準備も怠りない。

車から降りると、荷物を持ってメグミと玄関に向かう。

ふたりともめがねをかけて、マスクを付けていた。

マスクをつけても不自然じゃないのはありがたい。

お手伝いさんらしき人が、俺達を迎えてくれる。

まあ害虫駆除の業者を、わざわざ桜田会長が迎えてくれるとは思っていなかったが、少し安心だ。

おそらく我々に依頼したのも、会長本人ではないだろう。

マフィアとのつながりを持つ会長が、俺の顔を知っていても不思議ではないし、知っていて万屋イフに依頼したのなら、俺達は誘われた事になる。

とりあえず、はいってはいけない部屋をいくつか指定されて、後は自由に動いて良いと言われた。

ただ、指定した部屋に入った時は、命の保証はしないとの事。

冗談めかして笑っていたが、ようはかなり強い意思で入るなという事が伝わってきた。

「わかりました。でもひとつよろしいでしょうか?」

そう、今回の散策で、重要な事を伝えておかなければならない。

「なんでしょうか?」

「ゴキブリに毒を食べさせて、それを巣に持ち帰り一網打尽にする方法も試したいので、ゴキブリを見ても殺さないようにお願いします。」

散策しているGを殺されてはつらい。

「了解いたしました。」

特に怪しまれる事なく、お手伝いさんは了承してくれた。

まあ、Gを動かせる事を知っていなければ、疑問も何もないだろうけど。

放置しておくのは少し辛いようで、顔をゆがめてはいたが。

それにそういった方法は、テレビのCMなんかでも紹介されているし。

さて、これからはいよいよ駆除に見せかけた散策開始だ。

メグミには、もともと屋敷にいた蜘蛛に、テレパシーのようなもので、散策を命令してもらう。

俺達の間で下手な会話はできない。

何か有れば、前もって決めていたいくつかのサインで伝える。

軽い荷物はメグミに持たせ、まずは共に部屋の状況を調べる。

「奇麗な部屋だ。コレでゴキブリが出るなら、外部からの進入か、何処かに巣があるかだな。」

「そうですね。床下とかも調べますか?」

「巣が見つからなければそうするか。」

ちなみに「巣」は、俺達の間での別の意味で、マフィアである証拠資料の事も差している。

とりあえずマフィア幻術のボスであると確信が持てれば、脅迫罪で踏み込む事も可能だけれど、証拠が無ければ、部下が勝手にやった事だとしらばっくれる事もできるし、できれば証拠が欲しい。

「このタンスの裏に少し薬剤をまいておくか。」

「はい。」

俺はタンスの後ろに、機材からのびるノズルの先を差し込む。

その時、服の袖からGを数匹放つ。

監視カメラなんて、そうそう無いとは思うけど、注意してダメな事はない。

「害虫はいたか?」

「少しはいそうだけど、見かけないわね。」

これは、蜘蛛がいたかどうかを確認する意味も含まれていて、少しいた事を意味している。

そして退治すべきGは、見かけていないって事。

「だったら、入れない部屋に巣があるのかな?」

「うん。可能性はあるけど、他をまずは探しましょう。」

入れない部屋は、蜘蛛にとりあえず任せる。

Gでは他の部屋を探し、俺達はゆっくりと害虫駆除の仕事をしているフリを続けた。

3時間がたった。

回れる部屋は全てまわった。

トイレなども調べるフリをした。

その間、蜘蛛とGで何か証拠になりそうなものを探したけれど、見つかっていない。

それに、桜田会長も、あのボスらしき人物にもまだあえていない。

昨日は偶々いただけなのだろうか。

ココを拠点にしているのでなければ、それはあり得る。

そもそもココを拠点にするのに、わざわざこのあたりを全て縄張りにする必要があるのだろうか。

「私には巣を探せない場所もありそうですね。」

えっ?!

これは、蜘蛛では入れない部屋があるって意味だ。

予想や憶測は、我々の目的では断定の意味だ。

「まあ、女性が無理な場所は、俺が探すから。」

問題は、どこの部屋が探せないのだろうかという事だ。

入ってはいけないと言われた部屋は、全部で7つ。

それ以外の部屋は、既に全部見て回っている。

床下や天井裏も残っているが、ココは俺達の目的からすれば、探しても意味がなさそうな場所だ。

こうなったら床下から大量のGを放って、一気にいくしかない。

「では、床下には俺が入るから、メグミは車に戻って待っててくれ。」

「はい。」

俺はメグミの持っていた荷物を受け取った。

この中には、Gが大量に入っている。

これを巧く床下から放って、入ってはいけない7つの部屋の散策を一気に行う。

木造の建物だから、何処かに隙間があるはずだ。

俺はGに視界をリンクしつつ、床下で作業しているフリを続けた。

こんなところまで監視されてるとは思えないけどね。

7つの部屋のうち、6つは入る事ができたが、1つだけどうしても入れない部屋があった。

ちなみに入れた6つの部屋は、大切な絵画が保管してある部屋だったり、仕事の重要書類などある部屋だったり、マフィアとの関連を思わせる物は見つからなかった。

そしてどうしても入れない部屋、木造の建物なのに、全く隙間がない。

この部屋だけ、何故か鉄筋で囲まれているようだった。

メグミが探せなかった部屋は、ココか。

だったら、ココに入る事に全力を出した方が、良いような気がする。

もし、この部屋にマフィアのボスが、今日ずっとこもっているとするなら、水回りも存在するはずだ。

ずっとこもるのに、トイレも無いなんて事は考えられない。

下水からの進入路探しに切り替えた。

あっさりと進入路を見つけた。

まあ当然だな。

さてどうするか。

ココは一か八か、一気にやってみるか。

俺は全てのGに、この部屋に進入して探すように支持をだした。

先頭のGに視覚をリンクする。

わりと最近に作られたのか、排水口内は比較的奇麗だ。

すぐに出口までたどり着く。

ついた先は、どうやら風呂場の排水口のようだ。

風呂があるって事は、やはりこの鉄筋で作られた区画は、それだけで生活もできるように作られていると言って良いだろう。

なら此処に、マフィアのボスがいることも十分にあり得る。

風呂場に出ると、とりあえずまずは1匹だけで、風呂場の外をうかがう。

脱衣所であり洗面所である場所にでた。

ドアが2つ見えるが、ひとつはおそらくトイレか。

もう一方は別の部屋へのドアのよう。

排水口内で待機していたGを数匹、トイレのドアらしき方の散策にあたらせる。

トイレらしきドアに入るのを確認して、視界リンクを切り替えた。

やはりトイレだ。

特に変わったところも無く、すぐにもとのGにリンクを戻す。

もし、もう一方のドアを出たところに、昨日のボスがいたなら、すぐにGがやられてしまう可能性もある。

それに1匹がやられたら、その後も警戒されるだろう。

此処はとにかく慎重を期した。

ドアの外が、俺の感覚に視覚として伝わってくる。

どうやら廊下のようだ。

入れないエリアはだいたい感覚でわかってはいたけれど、思っていたより広そうだ。

左にドア、右にドアが2つ。

コレがマンションなら、左はこの区画から出る為のドア。

右側は両方とも部屋だろう。

人がいない事を確認してから、待機しているGを排水口から出して、左のドアを調べさせた。

何処にも隙間が無く、Gでも通り抜ける事は不可能なドアだ。

この区画内が全てこんな感じで密閉されていたらお手上げだけれど、排水や換気を考えると、それはあり得ない。

とりあえず数匹のGを、部屋へのドアであろうふたつのドアの前に進める。

ヤマトGでは流石にドアの向こうには行けそうに無い。

とりあえず聴覚リンクを試してみたら、ドアの向こう側の声が、僅かに聞こえる。

聞き取る事は無理そうだが、声が来るなら隙間があるかもしれない。

そして、誰かがこのドアの向こうにいる。

おそらくは・・・

小さいGで隙間を探して、通り抜けを試みる。

ドアは無理そうだ。

とは言っても、換気する為の通気口は、必ずあるはずだ。

Gの視覚で探すのは、自分が自ら探すのより少し難しい。

それでも、壁の模様のようなのが、通気口になっている事に気がついた。

進入を試みる。

此処ならヤマトGでも通る事ができた。

視界が開けた。

今までの部屋は、非常灯のような薄い光の照明しかついていなかったが、この部屋は明るかった。

そしてその部屋には、あのボスらしき人が、ソファに座ってテレビを見ていた。

人の話し声らしき音は、どうやらテレビの音だったようだ。

他に人はいない。

テレビに集中しているし、まだ完全に通気口から出ていないから、Gには気がついていない様子。

俺はこの隙に、慎重にGの進入を試みた。

しかし、次の瞬間進入を試みたGが、ナイフの餌食になっていた。

「こんなところまで虫が入ってくるのか。」

通気口内のGの視覚と聴覚から、ボスらしき人の情報は得られたが、これ以上入るとまたやられるかもしれない。

どうするか。

いや、此処にいても既に気がついているのだろう。

ただナイフが入ってこれないだけ。

とりあえずまだ時間はあるし、ココは一旦、車に戻って様子を見る事にした。

その際、部屋の中からは見えない位置に、録音用のボイスレコーダーを置いておいた。

他の部屋にもいくつか置いてある。

便利な世の中になったもので、超小型でも、しっかりと人の喋り声が録音できる。

盗聴は犯罪だが、ま、悪い奴を捕まえる為だ、かまわないだろう。

人殺しは犯罪だと言いながら、正当防衛は許されるし、戦争なら人殺しが称賛されたりもするのだ。

戦争はお互いの正義の主張であるわけで、常に敵は犯罪者であり、味方の正統性が主張できる。

そう考えると、絶対的正義は存在せず、善悪なんてものも存在しない事になる。

最終的には、自分にとって善なのか悪なのか、それに従って動くしかないという事だ。

お手伝いさんらしき人に、様子を見る為に一度車に戻る事を伝えて、俺は車に戻った。

車の中では、メグミが持ってきていた弁当を食べていた。

元々ギリギリまで屋敷内を調べるつもりだったから、弁当とパンを持参してきている。

とりあえず、しばらくは休むつもりなので、俺も弁当を手にとった。

「お疲れ様。」

メグミが当然の台詞を口に出す。

流石に車の中なら大丈夫だろうと思い、俺も普通に話す。

「どうやら、この屋敷にマフィアのボス様はいるみたいだな。」

「やっぱり桜田会長とつながりが強いのね。」

メグミは、マフィアのボスを見つけた喜びより、日本の財界トップが、宗教グループである他国のマフィアと、つながりが強い事への嫌悪感の方が勝っているようだった。

実際、権力者や著名人の一部が、暴力団などとつながりがある事は知っている。

俺も昔から俳優をやっていたわけだから。

ただ、人気のない俺に、そういった話が入ってくる事はそれほど多くは無かったが。

「とりあえず、今、録音機をいくつか配置してある。何かしらの話が録音できれば良いが。」

「うん。」

ここにきて、少し怖くなったのだろうか。

メグミは気分がすぐれない様子だった。

「先に帰るか?」

後は適当に時間をつぶして、録音用ボイスレコーダーを回収する事くらいしかできそうにないと思っていた。

それなら、俺一人でもなんとかなるだろう。

ただ、蜘蛛が糸を使って設置したボイスレコーダーだけは回収してもらわないとならないが。

Gに回収させて、糸につかまったりしたら大変だからね。

「うん、そうする。」

「蜘蛛に設置してもらったレコーダーは2つか。それだけは回収して帰れるか?」

「大丈夫。」

メグミはそういうと、食べかけの弁当のふたをして、ゴムで固定した。

「一緒に行こうか?」

俺は声をかけたが、メグミは首を振って、一人車から出ていった。

ま、おそらく今は、マフィアのボスも部屋にこもっているし、桜田会長がいる様子もない。

俺達が山瀬さんの娘さんを守り、犯人逮捕に協力した者である事を知る者も居ないようだ。

大丈夫だろう。

ほどなくして、メグミは普通に屋敷から出てきた。

「お疲れ様。」

今度は俺がメグミを車に迎え入れた。

「ただいま。」

メグミはそう言って車のシートに座ると、鞄からボイスレコーダーを取り出して、俺に差し出した。

「ありがとう。じゃあ、タクシーでも捕まえ帰ってくれ。」

ボイスレコーダーと引き換えに、俺は1万円札を渡した。

するとメグミは、「大丈夫、電車で帰るから。」そう言って、1万円は受け取らず、自分の荷物を適当に持って、車から出た。

俺は車内から手を振った。

「ごめんね。後頑張って。」

メグミはそうって少し笑顔を作り、手を振ってから、桜田邸の敷地内から出ていった。

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