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イフ  作者: 秋華(秋山 華道)
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捜索

結局目が覚めたのは、夜も遅い時間だった。

目が覚めた時、目の前に麻美ちゃんがいたから、無事に帰ってきていた事に安心して、再び眠りについた。

そして次に起きたのが、次の日の朝だった。

起きた時、すぐに学校に行く準備をしようとしたが、どうやら学校は又、特別休校となったようだ。

話を聞いたところによると、麻里ちゃんの傷は浅く、手当もしっかりしていて傷もふさがっているらしい。

まあ、俺の能力で治したから心配は無かったが、山瀬さんは俺の能力を全部は知らないからそうとう心配だったらしい。

俺自身、この能力を他人に試すのは初めてだったしね。

Gパワーで治癒するってのも、なんだか気持ちは微妙だけど。

それで、刺したのはクラスメイトの男子で、誰かに麻里ちゃんを刺すよう頼まれたらしい。

おそらくは、宗教関係の者だろう。

報酬は1億円。

もちろん出すはずはないとは思うけど。

此処で殺しても、未成年だからすぐに少年院を出られる。

そしたらその後は1億円で遊んで暮らせると言われ、引き受けてしまったとも言っていたようだ。

その程度で引き受けるなんて間違っているとも思うが、今の若い人達は、我々世代以上に、将来に不安を感じていると聞く。

何年かの辛い日々で、将来の安心が買えるなら、引き受けてしまう者もいるのだろう。

この男子生徒もまた、世知辛い世の中の被害者だったのかもしれない。

「このままでは、高橋さんにも迷惑がかかりますね。」

俺達は、学校が休みになったこの日、山瀬さん宅で話し合いをしていた。

麻里ちゃんは大事をとって、自分のベットで横になっている。

昨日俺が寝ている間に病院に行っていた麻里ちゃん。

病院の先生は、麻里ちゃんの傷を見て、治りの早さにかなり驚いたようだけど、特に怪しまれる程の事は無かったらしく、俺はそちらの方が安心した。

でも、山瀬さんの此の一言で、俺は別の不安が大きくなった。

「高橋さんが2回もうちの娘を助けた事によって、今後マフィアは、高橋さんや、会社の愛さんと華恵さんを狙う恐れもでてきました。」

そらそうか。

俺自身も、既にマフィアからは邪魔者だし、一度目の時はメグミもカエも手を貸してくれている。

俺はなんだかとんでもなく悪い事をしてしまった気がした。

「悪い事したかなぁ・・・」

「それはないです。高橋さんのおかげで麻美も麻里も命を救われましたから。」

山瀬さんがそう言って見た麻美ちゃんに、俺も目を向けた。

少し元気が無く、俯いて俺達の話を聞いていた。

先日の麻美ちゃんと麻里ちゃんの会話を思い出す。

麻美ちゃんは、父親の仕事には反対のようだ。

だから今回麻里ちゃんが刺されたことで、ますます父親への反感が強くなっているのかもしれない。

だけど、今の麻美ちゃんからは、あまりそんな感じが伝わってこない。

何故だろうか?

疑問に思ったが、今は今後どうするかの方が大切だ。

俺は山瀬さんに向き直る。

「こうなったら、学校が休みの間に、俺もマフィア幹部を捜す手伝いをします。」

問題は、根本から解決するのが一番だ。

これさえ達成できれば、俺が狙われる事も、山瀬さんの娘さんが狙われる事も、ましてやメグミやカエが狙われる事もないだろう。

「確かに、早く捕らえる事が一番の解決作ですね。」

「華恵は今はちょっと協力できないかもしれませんが、俺と愛で探せば、見つけられる可能性はあります。」

「しかし、写真は無いですよ。」

それはきつい。

虫に任せられない以上、自分の足を使って探すしかない。

そうなると見つけられる可能性は爆発的に下がる。

「何か情報は無いんですか?」

そうだ。

せめて何か場所を特定する情報があれば、探す範囲を限定できれば可能性はある。

「一応、吉沢から聞いた情報はあります。」

ああ、あの吉沢さんか。

最近会ってなかったな。

「どんな情報ですか?」

「マフィアの拠点は、渋谷に有ると言う事です。」

なんと、そこまでわかっていれば、探せるじゃないか。

「でも建物からでない以上、写真が無くては例の方法で探すのも困難ですよね。」

例の方法ってのは、虫に探してもらうって事だ。

しかし、俺達は虫と視界をリンクできる。

実はそれは山瀬さんにはまだ話していない。

信用はしているが、もしこの能力が第三者にばれた時に、なるべく話していない方が、山瀬さんの迷惑にもならないだろうから。

必要な時は、こちらから話せば良いし。

「とにかく、渋谷ですね。俺は使えるものは使って、何とか探してみますから、見つける事ができれば後はお願いしますね。」

「あ、ああ。よろしく頼みます。」

なんとなく山瀬さんに余裕がない。

こんなに追い込まれている山瀬さんを見ることになるなんて。

今回もきっと、俺が探すって言ったら、きっと方法を追求したに違いないのに。

「よ、よろしくお願いします。お父さんを助けてあげてください。」

なんだか、今までの麻美ちゃんではなかった。

やはり何かがあって、お父さんの事を見直した感じがする。

今回麻里ちゃんが被害にあったのは辛い事だったけれど、何かしらで山瀬さんの心が伝わった事を考えると、悪い事ばかりでは無かったという事か。

「ああ、麻美ちゃんも、君の大好きなお父さんも、きっと助けるよ。」

麻美ちゃんは否定しようと口を開けたが、赤くなって俯いた。

カワイイ。

それにしても、俺も偉そうな事言っているな。

探すのは人としての俺の能力じゃないし、見つけられる確証もないのにな。

でも、安心させてあげたかったから仕方ないか。

自分で自分を笑い、そしてそれでも納得させた。

「では、俺は早速行動に移すので、山瀬さんは今日くらい麻美ちゃんの側にいてあげてください。」

俺がそう言って笑顔を送ると、山瀬さんは少し照れていた。

「あ、ありがとうございます。」

家族って良いな。

俺も、もしかしたらこんな家庭を作って、生きる人生が有ったのかもしれない。

あの時、俳優を辞めていたら。

あの時、もう少しやれる俳優になっていたら。

でもそれは、全てもしもの世界だ。

現実にはあり得なかったのだ。

もしかしたら、高橋としてなら、今後可能なのかもしれないが・・・

おっと、こんな事を考えている場合ではなかった。

俺は山瀬家を出ると、自動車で渋谷へと向かった。

渋谷と言っても正直範囲が広い。

渋谷について車を止めてから、俺は吉沢さんに電話をかけた。

詳しく聞くためだ。

山瀬さんには許可を得ている。

吉沢さんは俺の事を信頼してくれているから、吉沢情報を俺に話すのは許可しているらしい。

「もしもし、吉沢さんですか?」

「おお、お前かぁ。久しぶりやんけ。そっちから電話してくるとはめずらしいのぉ。」

珍しいってか、最初の仕事の時以来かけてないし。

「ええ、今日はちょっと吉沢さんに聞きたい事がありまして。」

「ああ、幻術の事やろ?どうせ。」

流石に吉沢さん、浜崎組の幹部を伊達にやっているわけではないか。

「ご察しのとおりです。」

「何が知りたいんや?情報量は100万からや。」

「ええっ!金とるんですか?!」

「あたりまえや。幻術の情報を得るのは、かなり危険で難しいからのぉ。」

まあ確かに言われるとおりだ。

それに吉沢さんはこう言っているけれど、きっと金なんてとらないと思う。

もし取るってなら、経費として山瀬さんに請求しよう。

「えっとですね。幻術の本部の場所を探してるんですけど、だいたいの場所を知りたいのですよ。」

「それは契約成立とうけとるぞ。」

「はい。」

「ははは!嘘じゃ。情報料はいらんぞ。」

「そうですか。脅かさないでくださいよ。ありがとうございます。」

やっぱりね。

吉沢さんは実はいい人だからなぁ。

「それで幻術の本部の場所やな。幹部のおっさん探しとるんやろ。それやったら、渋谷の1丁目と2丁目に絞れるはずや。」

「そうなんですか。そんなにも場所を特定できるんですか?」

「詳しくは話されへんけど、それ以降の区域は別のマフィアとわしらの管轄やからなぁ。ていうか此の場所は元々わしらの縄張りで、貸し出してるだけやからな。」

結構詳しく教えてると思うけど。

まあ、欲しい情報は手に入ったし、これ以上聞いても吉沢さんにもわからないだろう。

「ありがとうございます。それだけ聞ければなんとかやれそうです。」

「それだけゆうても、かなり広いし、見つけるんは不可能や思うぞ。」

確かに短期間で見つけるには広すぎるし、出入りがなければまず探すのは無理だ。

普通のマンションの一室に潜伏されていたら、まず見つからないだろう。

「まあなんとか頑張ります。では!」

「またな。」

俺は電話を切った。

携帯電話を置くと、再び自動車のエンジンをかけて、教えられた場所へと向かった。


俺もマフィアの拠点を探し始めたが、結局数日はみつける事ができなかった。

かといって、この行為をやめる必要はない。

学校はしばらく休みだから。

といっても、学校自体休校しているわけではない。

流石にこれだけの大事、少しの事情は話さねばならなくなり、男子生徒が麻里を刺した動機は、テレビでも放送されていた。

「誰かから、ある特定のクラスメイトを刺すように頼まれた。」と。

そうなると、刺された人は狙われる理由や、その家族にも何かしら問題があると考えるのが普通だろう。

麻美ちゃんと麻里ちゃんは、こちらがなんとかする以前に、学校側からしばらく休むように言われた。

もちろんこれは極秘だ。

何故なら、本来学校内の安全管理に抜かりがあったわけで、学校側はこのような事が今後無いように言って、教育や安全管理を強化しているところだ。

だけど、狙われるような生徒を登校させる事に、他の生徒の保護者が反対した。

色々な事情と話が絡み合い、結局このような結論に達したわけで。

それでも表だって大きな騒ぎにならなかったのがせめてもの救いだ。

もちろんテレビでは取り上げられたが、数日でこのニュースは放送されなくなっている。

俺から見れば、これはかなりの大ニュースなのだけれど、全てを皆知らないわけで、この程度で終わっている事実。

きっとテレビで放送されないニュースの中にも、凄く大きなニュースがあるのだろうと思い、少し震えた。

人を平気で殺す集団が、身近にいるのだから・・・

とにかく、こんな状況が、こんな街が、こんな国が、こんな世界が良いわけがない。

それを少しでも改善する為に何かできるのなら、それはやるべきだ。

そして俺は、今回の事に関してはそれができる立場にいる。

だからなんとしても、マフィアのアジトを見つけなければ。

ただ、相手の顔もわからないのに、どうやって探すのかと言う事にもなるのだけれど、その人が隠れて話している事を聞けば、きっとわかるだろう。

俺はGの聴覚から得た第六感で、そういった会話を探している。

もしくはGの視覚から得られる関連資料の映像。

どちらかから人物と潜伏場所を見つけ、後は捕まえてから警察がなんとかしてくれるだろう。

資料があるならそれが証拠になるだろうし。

今日も一日中探したが、既に夕方、まだ見つける事ができていない。

今は普通の住宅マンションにGを忍ばせて、盗聴と盗み見を一部屋ずつ行っている。

普通の人の部屋でそういった事をするのは、良心の呵責に苛まれるが、これは人の命がかかっている事だからと、自分に言い聞かせて続けていた。

あたりは既に暗くなっていた。

少し日は長くなり始めているが、まだまだ日が暮れるのが早い。

探し始めた初日こそ、会社の事やメグミとカエの事も気になるから、日が暮れれば打ち上げていたが、今はかなり夜遅くまで探している。

「でも寒いから、車のバッテリーが上がらないか心配だよ。」

俺は何となく独り言を言っていた。

完全に日も暮れて、そろそろ子供は寝る時間だ。

「結局今日もダメだったか。」

マンションが建ち並ぶ道一本探すだけで、半日を要した。

もう少し、探し方を考えた方が良いだろうか。

会話はしていなければわからないし、資料も探さなければならない。

確実に探す事が必要だと思って探していたけれど、これでは全て調べるのにどれだけの時間がかかるのだろう。

もう少しスピードを重視するか?

それで見逃したら、又最初からだ。

逆に時間がかかる結果になる。

急がば回れ。

昔の人が経験から発した言葉だ。

自分が歳をとったからわかるのだけれど、人生経験の長い人ってのは、やはりそれだけ経験しているわけで、そんな人の発する言葉は、若い人の発する言葉よりも正しいと思う。

そしてことわざは、そんな人たちの多くが認めている言葉なのだから、やはりこれに従うべきだろう。

俺は必死に焦りを押さえた。

次で最後にしよう。

そう思った時に見えたのは、一件の、というにはあまりにも敷地が広い、大豪邸だった。

この区画全てが、どうやら塀でかこまれているらしい。

そしてその塀の中心に、大豪邸以外の表現が難しい大豪邸が見える。

周りは全て庭と表現するのだろう。

とにかく金持ちが住んでいる家に間違いはなかった。

カーナビで見てみると、地図にも名前が出ていた。

最大手化粧品会社、美妃化粧品会長「桜田達吉」の自宅だった。

桜田達吉は、経団連の会長でもあるから、文字どおり経済界のトップだ。

そんな人の家にマフィアの幹部がいるわけないと思うと同時に、なんだか一番怪しくも感じられる。

マフィアの幹部が、マンションの一室でずっと閉じこもって生活するだろうか?

もし閉じこもるなら、それなりに快適な場所を必要とするだろう。

それが此処なら、十分やっていけるだろう。

俺は今まで以上に、此処を調べる事にした。

流石に一日能力を使い続けていたから、かなり疲れている。

それでもなんとか、この豪邸の敷地内の生命反応を全て調べた。

特に地下室や隠れる場所はなさそうだ。

「頼むぞ。」

俺はGを3匹放った。

この寒い中では、Gも辛いだろうから、今日は帰ったら美味しい物でも与えてやる事にしよう。

そんな事を思っている自分に苦笑いした。

さて、Gが進入してすぐ見つけた二人の男、ひとりはテレビで見る顔と同じ、桜田達吉で間違いない。

そしてもうひとりは、流暢に日本語を話してはいるが、肌の色から明らかに外国人だ。

この人がマフィア幹部だとしても、俺には違和感のないくらい貫禄がある。

まあこの豪邸内で、桜田と話しているってだけで、それくらいの貫禄は有って当然なのだろうけど。

なにやら、仕事の話をしているようだけど、今のところ意味はわからない。

「あの件は、そちらに任せるから、頼んだぞ。」

「ああ。ビジネスは持ちつ持たれつと言うんだろう。」

「末永く良い関係を続けたいからな。」

話には具体性が無いから、聞いていてもわかる事はほとんどない。

ふたりの利害関係が一致して、少なくとも現在良い関係を持っているか、それともこれから築きたいと思っている感じ。

とにかく怪しいから、もう少し聞いていよう。

そう思ったところで、聴覚と視覚を繋いでいたGとのつながりが切れた。

「うお!」

なんだ?

俺は慌てて、G2号に命令を送る。

G1号のいた場所へ向かうように。

すぐにG2号は、先ほどの部屋を視界に入れる。

その映像が俺に送られる。

G1号は、ナイフに刺さって死んでいた。

「流石に殺し屋やっていただけはある。これだけ正確にナイフ投げができれば、見せ物でも使えそうだな。」

「まだまだ腕は落ちてないさ。歳はとったが今でも現役のマフィアのボスだからな。」

なに!!

マフィアのボス?

そして今このエリアを縄張りにしているマフィアは、幻術だ。

幹部を捜していて、ボスを見つけるとは。

そしてそのボスが、経団連会長とつながっている。

俺は震えた。

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