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イフ  作者: 秋華(秋山 華道)
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不覚

山瀬さんの話によると、捕まえた不審者は、マフィア幻術のメンバーだろうと言う事だった。

しかし一向に口を割らないから、確証はないとの事だ。

それでも脅迫があって、実際に狙われたわけだから、俺達は間違いないと思っている。

不審者本人は、中学生の誰でもいいから殺そうと思ったと、言ってはいるらしいが。

俺が撃たれた時に、俺の後ろにいた生徒が、麻美ちゃんなら確実なんだけど、あの状況でそれをしっかり覚えている者はいなかった。

とりあえず、不審者は捕まり、一つの危機は無事回避できた。

それでもまだ、脅迫してきた幹部は捕まっていないわけで。

「結局、俺はまだまだ用務員のお兄さんなのさ。はぁ~」

そうは言っても、人の命がかかっているから、しっかりしなくては。

メグミとカエは、一応学生だから、毎日学校をさぼるわけにはいかないので、今日は俺一人だ。

交代でやろうと言う話もあったが、カエの蜂は冬場は使えないので、結局俺一人だ。

「用務員のお兄さん、拳銃で撃たれたのに大丈夫なの?」

拳銃騒ぎがあった次の日は、学校は臨時休校されたが、また今日から復活している。

そして俺は、女子中学生にやたらと話しかけられるようになった。

男子はあまりいい顔していないけど。

「ああ、大丈夫。お腹に少年ジャンプを入れていたんだ。捨ててあったのを後で読もうと思ってね。」

まあ嘘だけど、防弾チョッキを着て、守るために来ているとばれたら、みんな不安に思うだろうから。

「ねえねぇ、彼女はいるんですかぁ?」

女子中学生の好きそうな話題だ。

でも俺がガキの頃の中学生は、あまりこんな話はできなかったから、違和感があるな。

「彼女はいないけど、好きな女の子はいっぱいいるよ。」

「えー!それは好きな人じゃないよぉ。英語でライクってやつ?」

「とにかくフリーなんですねぇ!」

「まあね。」

とは言っても、俺は本当は50歳越えてるし、あまりピンとこないんだよなぁ。

それに、英語でライクと言われても、好きをどうやって区別しているのかわからないよ。

俺は好きを、そんなふうに区別なんてしたことがないから。

好きな人なら、きっと条件が合えば結婚だってできるし、一番好きでも信頼できなければ無理だし、ラヴとライクで区別なんて。

チャイムが鳴った。

「あー!授業始まる!」

「それじゃお兄さん、またぁ~!」

「はいはい~」

こちらを見ながら走っていく女の子は、校舎に入るまで手を振っていた。

危ないだろ。

苦笑いした。

昼休みが終わり、午後最後の授業になっていた。

後は授業が終わってから、帰りに送るだけだ。

用務員の格好のままで送り迎えすると、麻美ちゃん達の知り合いだとばれるから、そろそろ変装してくるか。

そう思って、自動車まで向かおうかと思った時、校舎の方からかすかに悲鳴が聞こえた。

しまった。

どこかに隙があったか?!

俺は校舎へ向かって走りながら、Gと視界をリンクする。

「ちっ!」

麻里ちゃんの教室で、刃物を持った男子生徒が、今にも麻里ちゃんに襲いかかろうとしている映像が見えた。

生徒が殺しをするなんて、完全にやられた。

俺は視界のリンクを保ったまま、校舎に飛び込んだが、その時すでに麻里ちゃんが刺されている映像が伝わってきていた。

早く、早く行かないと。

幸い麻里ちゃんの教室は、さほど遠く無かった。

階段は上がるが、一番階段に近い教室だった。

教室の外には生徒が溢れていたが、かまわず中に飛び込む。

教室内は、刺した生徒が、震えた手で包丁を持って座っている。

その横には、お腹あたりを刺された麻里ちゃんが倒れていた。

俺は躊躇せずに生徒に近寄り、一気に取り押さえた。

「先生!取り押さえておいてください。」

「は、はい!」

俺の勢いに押され、先生は素直に言う事を聞いてくれた。

俺はすぐに麻里ちゃんを抱き上げ、廊下に出て走り出す。

「私が病院に連れて行きます!安心してください!」

そう言って、俺は走って校舎を出た。

その間、生命力を使って、傷を治すようにつとめた。

なんとなくうまくいっている感じがする。

苦しそうにしていた麻里ちゃんの顔が、少し穏やかになってきた。

いつの間にか車まできていた。

後部座席に寝かせて、お腹の部分を確認してみた。

イメージどおり、既に傷口はふさがってはいたが、まだまだ治っているとは言えない状況だ。

しかし危機は去っただろう。

ホッと胸をなで下ろした。

疲れてはいたが、俺は更に生命力を使った治癒を続けた。

5分ほどしたところで、なんとか傷口は完全にふさがった。

でも、傷跡は残るかもな。

自分の体ではないから難しい。

俺は後部座席から出て、運転席へとついた。

一応電話を入れる。

ポケットから携帯電話をとりだし、着信履歴から山瀬さんの名前を探す。

2つ目に見つけ、通話ボタンを押した。

話中だった。

おそらくは誰かから連絡がいっているのだろう。

俺は電話をやめて、車のエンジンをかけた。

一応なるべく衝撃のないように、丁寧な運転を心がける。

車を出してから5分くらいで、山瀬家についた。

車の中から生命反応を確認。

不審人物がいないことを確認してから、俺は車から降りて、後部座席に回った。

そして丁寧に麻里ちゃんを担ぎ上げて、山瀬家へと・・・

しまった。

鍵が無い!

そう思ったが、運良く麻里ちゃんのポケットから、鍵が落ちた。

それを拾って、すぐに家に入る。

部屋の配置がわからないから、俺は山瀬さんの部屋のベットに寝かせた。

一度車に戻り、救急箱を持って再び麻里ちゃんの傷口を見た。

まあ此処までふさがっていれば大丈夫だろうが、一応消毒してガーゼで傷口を塞いだ。

「これで、大丈夫だろう。」

安心したら一気に疲れがでてきて、その場に座り込んだ。

生命力を使い過ぎた。

もう一歩も動ける気がしなかった。

「麻美ちゃんも、送らないと・・・」

そう思ったが、俺は気を失っていた。

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