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イフ  作者: 秋華(秋山 華道)
18/38

脅迫状

今日は、山瀬さんに呼び出されていた。

いよいよ何か行動を起こすのだろうか。

俺は世を良くするために、協力すると約束した。

しかしあれ以来、特に何かを頼まれる事はなかった。

まあ、能力がこの程度だったから、協力も必要ないのだろうと勝手に思っていたわけだけど。

それに山瀬さんは、今までも個人的に色々やっていたらしい。

政治家の汚職事件、横領なんかの裏をとるために、色々動いていたらしいが、上司からは警察の仕事ではないと怒られていたらしい。

とにかく会って話せば、用件はわかる。

それに今日は日曜日で、待ち合わせはとある都内の駅の一つ。

一体何処にゆくのだろう。

いつもの場所ではないから、大切な話か、もしくは少し変わった用件なのだろうか。

駅につくと改札を出た所で山瀬さんを探す。

するとすぐに、向こうから歩いてくる山瀬さんが見えた。

俺は軽く右手を挙げて、そちらへ歩き出す。

山瀬さんも軽く右手を挙げて、こちらに小走りしてきた。

「待ちましたか?」

「いえ、今来たところです。」

なんとなくデートの待ち合わせの時に使われそうな文句だが、別に狙っていたわけではない。

だけど少し鳥肌が立った。

「ども。」

「わざわざこんな所まで申し訳ない。」

「今日はどうしてこんな場所なんですか?」

「まあ、とにかくついてきてくれませんか。」

結局山瀬さんは、俺が年上だと知ったことで、常に敬語で話すようになっていた。

今更もうどちらでも良かったけれど、やはりコロコロ変えられるのは気になるな。

とりあえず無言で、俺は山瀬さんの後をついて歩いた。

特に話す事はない。

いや、下手な事をこんな人通りの多い場所では話せないから話さないだけか。

この人の事を信用はしているが、別に友達ではないということ。

しばらくは山瀬さんのやや後ろを、とにかくついて歩く。

人通りの多かった商店街は抜けて、いかにもな住宅街に入っていた。

なんとなく、一昔前の時代の景色っぽかった。

建物は高くても3階建てで、ほとんどが2階建ての木造。

それも築数十年は経っているだろう。

そんな事を思って歩いていると、山瀬さんが立ち止まる。

3階建ての、この辺りでは少しういている感じの、まだ新しい建物の前。

「つきましたよ。上がってください。」

見ると表札には、[yamase]と書いてあった。

まあ予想はしていたが、今日は自宅に呼ばれたらしい。

これは私の信用度が上がったからなのか。

考える必要はないか。

「はい。では、おじゃまします。」

山瀬さんが開けたドアから、私は玄関に足を踏み入れた。

すると、すぐ目の前に、おそらくは山瀬さんの娘さんなのだろう、メグミやカエよりも小さい女の子が二人立っていた。

「こんにちは。」

「こんにちわぁ。」

少し人見知りしているようだけど、流石に山瀬さんの娘さんで、礼儀正しい。

「こんにちは。少しおじゃましますね。」

「はい。」

それにしても、何となく暗いと言うか、山瀬さんの娘さんのイメージとしては、少し元気が無いような感じがした。

「ああ、私の部屋にお願いします。右側の奥です。」

後ろからそう声をかけられたので、「はい。」と返事をして、靴を脱いでから右側へと入っていった。

すぐにそれらしい部屋のドアが見える。

というか、ドアはそこしかない。

しかし、少し入りにくい場所だ。

もしかすると、山瀬さんの部屋は元々物置だった場所だったのかもしれない。

娘が年頃になって、追い出されたと考えると納得できる、そんな部屋のドアだった。

「此処ですか?」

「ええ、元々物置だった場所なんですが、まあ中はしっかりしてますので、どうぞ入ってください。」

やはり私の考えは正解だったようだ。

少し笑みがこぼれた。

ドアを開けて中を見ると、まあ普通の部屋だった。

窓も有るし、入りにくい事以外は快適そうな部屋だ。

エアコンもついていて、既に部屋は暖められてあった。

「適当なところに座ってください。」

山瀬さんはそう言って、部屋に入ると、後ろ手にドアを閉めて、鍵をかけた。

なるほど。

誰にも聞かせられない話で、それは娘さんにもって事か。

これはいよいよ、何か動きを起こそうと言う事なのだろう。

俺はコートを脱いでから、適当な場所に、ベットを背もたれにして座った。

山瀬さんもコートを脱ぐと、仕事用のデスクなのだろうか、その前にある椅子に腰掛けた。

「いよいよ、何かするんですか?それも大事な話に思えますが。」

椅子に座ってから、少し黙ったままでいる山瀬さんに、自分から話をきりだした。

まあ何時までもこの雰囲気の中でいるのも、なんとなくしんどいし。

「えっと・・・大事な話ではあるのだけど、あの話とは関係ない事なんです・・・」

どうも歯切れが悪い。

いつも冷静な山瀬さんが、冷静さを欠いている?

それにどことなく悩んでいるようと言うか、暗いと言うか、そうそう、さっきの娘さんと同じような感じ。

「なんだか暗いですね。さっきの娘さんと同じような感じですね。」

俺は冗談っぽく、少し笑顔で場を和ませようとした。

「やはりわかりますか・・・」

おいおい、もしかして同じ理由で、家族みんなで暗くなっているとでも?

そしてそれが、俺が呼ばれた理由?

俺はこれ以上は話がきりだしにくくなった。

沈黙がしばらく続く。

おそらくは10秒程度だったのだろうけど、苦痛が1分にも2分にも感じさせた。

「これを見てください。」

ようやく山瀬さんはそう言いながら、紙切れを俺に渡してきた。

二つ折りにされた、手紙にも見える。

俺は受け取ると、開いて中を見た。

見た瞬間、これが何かしらの脅迫状であるとわかった。

文字が全て、新聞や雑誌の切り抜きだったから。

最後の部分に、「幻術」の文字、あの二人を捉えた事による報復か。

ため息がでた。


山瀬さんに脅迫状を見せられ、内容にショックを受けた。

差し出し人は、マフィア幻術の幹部、そしてこの前捉えた二人の解放を求める内容。

更には脅迫。

脅迫は、陳とロバートを解放をしない場合、娘二人を殺すと言うものだった。

こうやって、罪の無い人が狙われる現実。

何故あんな女の子が、大人の世界、犯罪に巻き込まれなければならないのだろうか。

全く腐っている。

マフィア幻術は、なんだったかある宗教を信仰する組織でもあると聞いた事がある。

神の教えを請う者達が、何故こうも簡単に人を殺すと言えるのだろうか?

まあ逆に、神を信じて疑わない人こそが、神を盾にもっとも残酷になれるとも言われているが。

山瀬さんは、脅迫状が来ただけマシだと言っていた。

最悪、報復だけをしてくる場合もあったのだからと。

とにかく、まだ娘さん二人は生きている。

だから対応する事ができるわけだ。

この事は娘さんには話してはいないらしいが、一度危険な目に遭って、なんとなくわかっているかもしれないという事だった。

いつでも殺せるという威嚇だったのだろう。

この脅迫は、一応港川警察の上司には報告しているが、解放はまずあり得ない。

犯した犯罪は聞いていないが、おそらくはかなりのもので、情報もかなり持っている事は間違いないとの事だ。

そこで俺が呼ばれた。

最悪家にいる時は安全だろう。

一応警察も、山瀬さんの家の辺りの警戒を強めているらしい。

山瀬さんの家に行った時には、気がつかなかったけど。

で、問題は登下校中と学校内だ。

登下校中は警戒するにも、それとなく警戒するには限界があるし、学校内には警察は入る事はできないから、此処で何か有ればどうにもならない。

だから俺に相談してきたわけだ。

まあ運良くなのかどうかはわからないが、登下校時は、暇な俺が送り迎えする事ができる。

本当は山瀬さん自身でやりたかったらしいが、流石に刑事として他の事件の調査もあるから難しいらしい。

ただ俺が送り迎えするには、理由を話す必要があった。

それで娘に不安を与えたくないから、山瀬さんは話したくないようだったけど、本人もなんとなく気がついてるし、話さないと友達と遊びに行くなどという事を止められない。

だから結局娘さん二人には話した。

問題は学校内。

警察でも入れない場所であるから、逆に言えば安全ではあるのだけれど、殺し屋なんかがもし存在するなら、学校内は一番の狙い目になるかもしれない。

どうしたものか、俺は帰った後メグミとカエに相談したわけだけど、その中学はカエの父の知り合いが理事を務める学校だったらしく。

まあ山瀬さんに話す許可を得て、色々手を回した訳で。

「俺はどうしてこんな所で、掃除しているのだろう。」

中学の生徒達が教室で勉強している中、俺は廊下や階段の掃除をしていた。

用務員のおじさん、いやお兄さんとして、中学に潜入しているわけで。

昨日から潜入しているから、だいたい下調べはできていた。

娘二人の教室を狙える位置はなさそうだから、授業中はとりあえず安全そうだ。

問題は昼休みや体育の授業中、更には登下校の移動時。

一応娘二人には、休み時間はトイレと食事以外では出ないようには、昨日言っておいた。

これでかなり安全と言えるだろう。

「それにしても、ボディーガードなんて無理だって言ってたんだけどなぁ。」

まあ身をていして守る事ができれば、俺はそう簡単に死なないから大丈夫だけど。

でも刺されたら痛いだろうし、あまりおおっぴらに死なないのもまずいよね。

能力がばれる危険があるから。

しかし目の前で女の子二人が狙われているのに、黙って見ている事なんて、できるわけもなかった。

さて、そろそろ授業が終わる時間だ。

俺は校内の生命反応を調べた。

この能力は、もちろん人間の存在も調べられる。

「狭い学校で良かったな。」

この能力は、範囲を広げれば広げるほど疲れるし、限界もある。

その限界ギリギリの広さの学校だった。

「ふぅ~」

どうやら朝一番に調べた時と変わりはないようだ。

遅刻してきた生徒が2人ほどいたが、どちらも生命反応から子供だと判断できた。

チャイムが鳴った。

娘さん達の休み時間中の移動は、指定した場所以外に行く場合には、それぞれから携帯電話で連絡が入るようにしている。

特に連絡は無く、どうやら二人とも大人しく教室にいるようだ。

一応Gを教室の天上や、校舎のあちこちに配置してある。

まあ配置しなくても、元々結構いたりしたけど。

もちろん一応女子トイレと更衣室にも配置しているけれど、覗いたりしてないよ?

誰もいない時に、中の様子は調べたけど、それだけだよ?

休み時間中は、人目のつかない場所で、俺はGと視界のリンクをして二人を見守る。

二つの景色プラス実際の景色が見えるこの状況は、なんとも不思議な感覚だ。

人間の感覚は色々あるけれど、それは感じ方の一部で、些細なものである事だと改めて思う。

人間には五感しか無いけれど、本当はもっと沢山感じる方法は有るのだろうな。

この見えないものが見える感覚は、見えていると表現するには微妙な感覚だし。

チャイムがなった。

どうやら授業開始らしい。

俺は再び、掃除を再開した。


警戒を繰り返す中、今日の学校は何事もなく終わった。

「ちょっと辛いなぁ~。送り迎えがあるから、金持ちだとか言われるし。」

「私は遊びに行けないのが辛いなぁ~。お姉ちゃんは受験生だから、どっちみち遊びに行けないから良いけど。」

俺の運転する自動車の後部座席から、山瀬さんの娘さんのそんな会話が聞こえてくる。

「まあ辛いだろうけど、状況が状況だから、我慢してください。」

俺はバックミラーから、二人をチラッと見た。

少し疲れた表情。

なんだかんだ文句は言っているけれど、本当はおそらく怖いのだろう。

それを文句を言うことで忘れようとしているのかもしれない。

「あーあ。お父さんが刑事なんかするからいけないんだよ。」

「お父さんは偉いよ。お姉ちゃんはすぐお父さんの悪口言うけど、私は誇りに思ってるんだから。」

「だったら我慢すればいいでしょ。」

「ふぅ~。お父さんは、君たちの為に今全力をつくしているから、少しの辛抱ですよ。」

お姉ちゃんの方の麻美ちゃんは丁度反抗期なのかな。

まあ受験時って、それでなくてもピリピリする時期だもんな。

麻里ちゃんはまだ中学生になったばかりだし、お父さんの事が好きみたいだな。

でも結局二人とも、いずれはお父さんの事を大好きで、感謝する時がくるのだろう。

なんせ山瀬さんは、この二人の娘の為に、頑張ってるんだから。

「少しって、どれくらいですかぁ?」

そんな事俺が知るわけがない。

「脅迫してきた人が捕まる迄ですね。」

麻美ちゃんも、どれくらいかかるかなんてわからない事は知っている。

「あーあ。早く捕まえてくれないかなぁ~」

それは、きっとみんな願っている事だ。

そして一番願っているのは、きっと山瀬さんなのだろう。

俺は車を止めた。

「つきましたよ。」

山瀬さんの自宅の前だ。

二人の通う中学校は、対して遠くはない。

歩いて通える程度の距離だからね。

俺は、防弾ガラス仕様で、パンクしないタイヤに付け替えた自家用車から降りると、一応辺りを探る。

特に何もなさそうだ。

後部座席のドアを外から開けると、二人が降りてきた。

二人が家に入るまでは、一応警戒を続ける。

「今日もご苦労様です。」

「ありがとうございます。」

一応二人は、俺にお礼を言ってから、家に入っていった。

俺は笑顔だけを返した。

礼儀正しい良い子なのに。

こんな子を狙うなんて、なんだか腹が立った。

それにしても、警護素人の俺が、こんな事してて大丈夫なのだろうか?

というか、守れるのか?

不安と共にため息を吐いた。

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