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イフ  作者: 秋華(秋山 華道)
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定期検査

すっかり空気の澄んだ季節になっていた。

そう感じたのは、おそらく朝が寒かったからだろう。

しかし、寒さが辛く感じる事はない。

いや、正確には辛いのだけど、昔と比べると、この季節にしては寒く感じないのだ。

これはもちろん温暖化しているからであって、確実に実感できるレベルになっている。

日本は、排ガス規制とかなんとか、京都議定書で目標をたててはいるが、実際実行となると難しい。

たとえば車を全て電気自動車にすれば良いかと思うが、自動車製造会社にしてみれば、製造ラインを変えたり、インフラ整備にも時間がかかる。

だから徐々に変えるのだけれど、その間の利益向上も目指さないといけないわけだから、自動車を売る努力をするわけで。

高級路線とか言って、更にガソリンを必要とする車をアピールしたり。

他でもそうだ。

石油製品の使用を押さえるとか言いながら、売れる商品を売る為に、奇麗なプラスチックケースを使用したり。

人間は、地球の事を考える前に、目先の利益を考えざるを得ない生活の中にあり、なかなか温暖化ストップとならないのは、しかたのないところなのだろうか。

とまあ、朝っぱらからこんな事を考えさせられる、涼しくも気持ちいい朝をむかえた。

先日華恵も戻ってきていて、又元の三人での生活に戻っていた。

テスト期間も終わり、二人とも手応え有りの様子。

「俺はこれからちょっと用事があるから、留守番よろしくな!」

俺は二人に声をかける。

「何処?また山瀬さん?」

「あの人しつこいよね・・・あっ!」

「どうしたんだ?カエは会ったことないよな?」

そうそう、華恵が戻ってきてから、何かの拍子にカエと呼ぶようになってしまった。

まあ愛称で呼ぶってのは愛情表現だから、今ではすっかり定着している。

「う、うん。会った事ないね。」

ふふふ、カエは嘘がつけない性格だ。

どういうわけかわからないけれど、山瀬さんはカエと、おそらくはメグミとも接触している感じだ。

先日山瀬さんと代々木公園で会った時に、俺は山瀬さんと約束した。

「世の中、変えないか?」

「どうして、そんな事を?」

「娘二人を、こんな世の中に残しては死ねない。それだけだよ。」

それは本心で、本当の山瀬さんが見えた気がした。

だから俺は、約束した。

「私のどうしても話せない事、調べる事ができたら、協力しますよ。」

まああの時は、ホント話してしまいたかったからね。

だけど、絶対約束は守る。

これは俺のつまらない信念だ。

わかっていても、こういう性格だから仕方がない。

「じゃあな。」

「いってらっしゃ~い!」

「しゃーい!」

二人に送られて、俺は部屋をでた。

今日は、俺の体の定期検査の日だ。

まあ、国の秘密機関に入って、また色々調べられるのだけれど。

でも、定期と言っても年1回だから、我慢我慢。

俺は待ち合わせに指定されている、国道沿いで待つ。

するとすぐに高級自動車が目の前で止まった。

ドアが自動で空いて、そこに俺が乗り込む。

すると、私がいた秘密機関の責任者、山田が中に座っていた。

「久しぶりだね。調子はどうだい?」

「ええ、異常も無く、普通に仕事もしてますよ。」

正直、この山田って人は好きではない。

自分の体を調べられているし、この人ってより機関自体が俺を不快にさせる。

ぶっちゃけ、異常がないんだからこんな所には来たくないのだ。

「ゴキブリ退治で儲けてるらしいじゃないか。そんな特技があったとはね。」

「まあ、偶々うまくいってるだけですよ。」

能力の事は、この山田も知らない。

なんせ機関を出てから気がついた能力だからな。

「女子高生二人と同棲しているらしいが、秘密については話してないだろうな。」

ちょっと山田の顔がゆがんで見えた。

実際憎たらしい顔にゆがめて喋ってるんだけど。

「約束は守ります。機関から出していただけて感謝してますから。」

これは本当だ。

あんな所にずっと閉じこめられていたら、刑務所と同じだ。

それをこれだけの条件で出してもらえた事には感謝している。

年一回の検査と、話さない約束だけで。

「だったらいいんだ。」

それにしても、俺も不思議だな。

死のうとしていたのに、閉じこめられてるのは嫌だなんて。

だったら死ねば良いのになんて思うんだけど、若い体を手に入れてしまったから、死ぬのが惜しくなったんだろうか。

気がついたら、政府の秘密機関の敷地内に入っていた。

こんな所に、政府の秘密機関があるなんて、きっとほとんどの人が知らないのだろうな。

普通の住宅街のど真ん中にある、少し大きな建物と敷地。

どこかの宗教の建物みたいで、近寄ろうとする人は少ないのだろうけど。

車から降りると、懐かしくも嫌な景色に、少しめまいがした。

建物に入っても、人がいる気配は無い。

秘密を守るには、関わる人を極力減らす事が一番の方法だから、此処にはほとんど人がいない。

どんな建物か知らずに、掃除のバイトなんかもいたりするけど、掃除は廊下や階段だけだ。

部屋には入れない。

そのバイトが入れない部屋に、俺と山田は入った。

「さあ悠二くん、早速始めるから、準備をしてくれ。」

「はい。」

此処では誰もいないから、久しぶりに本名で呼ばれる。

懐かしさとうれしさと、なんとも言えない嫌な気持ちがあった。

おおよそ1年前、正確には10カ月前と同じように、俺はベットに横になっていた。

山田の手によって、腕や足に何かを刺され、胸や頭に何かを貼られ、おおよそ人間を扱ってる感じではないように思えた。

「あのウィルスは、もう出てないようだな。一体どうやったら若返る事ができるんだ。それさえわかれば、私はきっと世界一の研究者として名を轟かせる事ができるというのに。」

もう何度も聞いた、山田の独り言。

確かにそんな事ができるようになったら、ノーベル賞もんってか、世の中破滅へ向かうって。

歳をとらない人達で世の中溢れたら、地球は数世紀で人で埋まって終わりだよ。

何時の間にか、俺は麻酔によって眠りについていた。


検査が終わったのは、完全に陽が沈んだ後だった。

車で、来るときに乗せられた場所まで送ってもらう。

「じゃあまた、来年きてくれ。」

「はい。」

そう言ったところで、車が止まる。

ドアが自動で空いて、俺は車から降りた。

外の空気がとても美味しかった。

振り返ると、ドアが自動でしまり、山田はただ前方を見ていた。

車が走り出してから、俺は歩いて自宅マンションへと向かった。

足は少し重かったが、心はスキップしていた。

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