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イフ  作者: 秋華(秋山 華道)
14/38

山瀬の思い

「お父さん反対したんだけど、私がでてきてやったわ!」

戻ってきたメグミは、なんでも万屋イフに戻る事を父親に反対され、それに反抗して出てきたようだ。

それでもメグミの顔には笑顔が有り、おそらくは父親も心の中では許している事が伺えた。

「そうか。家出とはなかなか。お主も悪よのぉ~」

「そ、そうよぉ。私だって悪いことするんだからぁ。」

まあなんとなくだけど、俺もメグミも、あの父親も、全て心が伝わっている感じがした。

今まで、仲良が良くてかなりわかりあえてるつもりだったメグミが嘘のようだ。

「じゃあまあ、俺は家出少女をこき使うとしますか。」

俺はメグミをバカにしたような顔をして、立ち上がった。

「ええっ?!私は試験勉強があるんだよぉ~」

まあ、そうだろうね。

知ってるから。

「ははは、大丈夫だって。勉強なんて世に出ればほとんど使えないし!」

「でも、大学出る事は必要だし、出た方が色々メリットあるんだよぉ。」

だから知ってるし。

「知ってるよ。だから留守番頼むだけだって。」

メグミの顔がこちらを見たままで、キョトンとした表情で固まった。

ふふふ、からかわれた事に気がついたようだ。

顔がバカっぽいよ。

それにしても、こんな顔もできるんだな。

メグミの事をわかっていたつもりだったのは、メグミの演技によって、全てわかっていたように思わされていただけだったんだな。

女は生まれながらの女優だって言うけど、これは凄いな。

自分が俳優として成功しなかった事が、実力だったような気もしてきた。

「なによぉ。まあそれなら良いけど、仕事なの?」

「ああ、また山瀬さんに呼ばれた。あの人、何か色々探ってくるし、俺の事不思議に思ってるみたいだから苦手なんだよなぁ。」

「じゃあ会わなければいいじゃない。」

「そうしたいけど、そうするとやっぱり何か隠してるみたいだし、何よりいい人だからなぁ。」

そうなんだよ。

俺は苦手なんだけど、人としていい人ではあるし、保身や見栄を気にする警察にあって、この人はそれらが感じられない。

苦手なんだけど、俺は好きになっていたのだ。

「はいはい~!じゃあ私は勉強してるから、電話くらいは対応しておくわよ。」

メグミはそう言いながら、既に視線は教科書とノートに移っていた。

そう言えば、本当なら授業に出ている時間なんだけど、実家に帰っていた都合で、今日は学校休んだようだ。

でもまあ、学校休むくらいは、今時の学生なら当たり前だろう。

ディズニーランドは平日が空いてるからって、休んで行く子もいるし。

「んじゃまぁ~よろしくぅ~」

俺がそう言っても、メグミの視線は勉強へと集中していて、返ってきた返事は左手が揺れるだけだった。


山瀬さんは、いつも会う六本木ではなく、今日は天気も良いから代々木公園で話そうと言ってきた。

いやいくら天気が良くても、クソ寒いでしょ?

男と会うのに公園って、微妙でしょ?

そう思わなくも無かったが、いつもの場所では話辛い事でもあるのかなと、なんとなく思った。

絶対に人に聞かれてはいけない話なのかもしれない。

公園なら話していてもそうそう聞かれる事は無いだろう。

車を近くのコインパーキングに止めて、そこから歩いて公園へと入った。

するとすぐに、話しかけてくる人物。

もちろん山瀬さんだ。

いつものにこやかな笑顔。

というか、目が細くて瞳が見えない。

「こんな所に呼び出して悪いね。」

「クソ寒いですね。まあそれでも、思った以上に暖かい気もしますが・・・」

俺は寒いという固定観念が有ったから、寒いと思っていたけれど、実際感じてみるとそうでもない気がした。

「このところ温暖化で、本当に寒い日ってのは、そんなにはないみたいだからね。」

それは言い過ぎだけど、12月なんて冬と表現するには物足りない寒さだという事は言えた。

「私は世界を良くしたいと思って警察になったけど、今では駄目な国を守ろうとしている自分がおかしいよ。」

顔は笑っているけど、少し寂しそうだ。

「国民から見れば、山瀬さんはきっと本当の警察官だと思いますよ。」

本当の警察官とは何か?

そんな説明はできない。

警察官全てが本当の警察官なのだから。

それでも、本当の警察官の響きは伝わるだろう。

警察官でも犯罪をする時代。

警察官でも罪無き国民を苦しめる時代。

それを警察官と呼べる人がいたら、その人はきっと幸福ではないのだろうな。

「一応そう決められた立場にいるからね。」

山瀬さんは意味を理解しながらも、返す言葉は言葉どおりのもの。

誉められても自分で納得できなければ喜べない、損な人。

それ故に好感の持てる人。

「私は実は、山瀬さんが苦手なんですが、でも好きだし応援するから、今日もこうして会いに来てるんですよ。」

「ははは、苦手と言う気持ちは正解だよ。私は何に対しても疑問は解決したいし、しつこいからね。」

「でも、そういう気持ちが犯罪解決への力になってるんですよね。」

「それだけの為に、ずいぶん多くの人に嫌われてるがね。」

結局のところ、山瀬さんは不器用だけど正義感溢れる人であるわけだ。

ただ後ろめたいところがある俺だから、きっと苦手なんだろうな。

隠し事も悪い事も無い人だったら、山瀬さんを苦手だなんて思わないんだろう。

山瀬さんがもし多くの人に嫌われていると言うなら、それは悪人が多いか、秘密社会だからなのか。

俺自身、俺は自分の事を話してはいけないと、国から止められている。

こんな人だったり、国家権力の元に秘密にされる事柄は、もしかしたら沢山世間にあふれているのかもしれない。

「このへんで話しますか?」

俺達は歩きながら喋り、いつの間にか公園の奥、人気の無いところまで来ていた。

「そうだね。まあ、今日は仕事の話では無いし、君にとって嫌な話をする事は、もうわかっているのかな?」

「そらまあ、大事な話である事は推測してましたけど。」

俺の力の事を、何かわかったのか、それとも・・・

俺はあまり使われていなさそうなベンチから、落ち葉を払いのけて座った。

すると山瀬さんも、同じようにして横に座る。

俺達はしばらく黙ったまま、木から落ち葉が落ちるのを見ていた。

じっとしていたらやはり寒い。

「君は、何者なんだ?」

突然そんな事を言ってきた。

おそらく何かつかんだのだろう。

それでも俺は喋るわけにはいかない。

特に国から止められている事は。

山瀬さんに話しても、おそらく誰にも話さないだろうから何事も起こらないだろう。

しかし、内緒にすると約束した事は、俺は誰にも話さない事にしている。

もし此処で、信頼できる人だからと話したら、それは俺が約束を破った事になるから、自分自身自分が信じられなくなる。

「高橋光一ですよ。そして人間です。」

これで引き下がってくれるとは思っていない。

これで引き下がってくれるなら、俺は山瀬さんを苦手だと思わないし、好きにもなれないだろう。

それに今日はいつもの喫茶店ではないのだから。

「君の事は色々調べさせてもらったよ。大事な仕事を依頼する人だからね。でも、調べても何も出てこなかった。」

俺は黙ったまま、山瀬さんが話を続けるのを待った。

「何も出てこなかったわけじゃない。データだけは出てきた。親だとか本籍だとか。でも実証できるものが何もないんだよ。」

そらそうだ。

高橋光一って人物は、生まれたのがついこの前だし、そのデータは国が作った偽りのもの。

「本当なら人の事をそこまで調べないんだけど、あまりに出てこないから不思議じゃないか。だから更に調べてみたんだよ。」

まあ不思議に思うよな。

それが山瀬さんだったから、更に調べる結果になったって事か。

果たして何処まで調べられたのだろうか。

それに、人捜しの仕事の前から調べていたのだろうか。

調べたとは言っていたけど、もしかしたらあの時は進行形だったのかもな。

それで最近、何かに行き当たったと・・・

「何も言わないんだね。」

「何も言えないんですよ。」

わかってるなら、きっとこの意味もわかるはずだ。

わからないなら、山瀬さんだったら更に調べるかもしれない。

でも、俺から聞き出そうとか、そんな事はしないし、既にある程度わかってるんだろうけど。

「まあ、君が言わなくても、かなりのところまでは調べがついてるんだけどね。」

だから此処で話しているんだろう。

「場所を配慮してくれてますからね。」

俺は自然と笑顔で山瀬さんを見ていた。

それでも山瀬さんは、いつもの表情のまま前方を見ていた。

「君の借りている部屋、居ない時に見させてもらった。」

俺は少し驚いた。

あの部屋を見られた?

いや、それ以上に山瀬さんが勝手に他人の部屋に入った?

警察なのに。

それを俺に言って良いのか?

俺は山瀬さんに気づかれないように、一応いつも持ち歩いているICレコーダーのスイッチを入れた。

信用できる人ではあるけれど、念のためだ。

全てを疑え。

それが俺が長く生きてきて学んだ事。

「この写真、見てもらえないかな。」

渡された写真は2枚。

1枚はGが大量にいる、あの部屋の写真。

この写真が、あの部屋に入った明らかな証拠だ。

「はは、あの部屋に入ったんですね。」

「ああ、君に許可を得ないで、勝手に入ったよ。あのゴキブリには驚いたけど、なついているって言い方はおかしいが、よく教育されているね。」

山瀬さんははっきりと、俺に許可を得ないで部屋に入ったと言ってきた。

これは俺が録音している事を知っていて、尚かつ自分は釈明しないと言っているのだとわかった。

この人は、自分がどうなろうが、俺の事を調べたい、いや、俺の能力を知りたいのだと思った。

そして何故か、俺の事を買っている?

「まあ色々訳有りなんですよ。」

能力の事については、もう隠せない、いや、隠す事は無理だと思った。

俺はもう1枚の写真を見た。

「えっ!!」

俺は驚いた。

そして思わず声に出してしまった。

流石にこの写真を見たら、山瀬さんじゃなくても疑問に思うだろう。

その写真とは、俺の30年前の写真、俳優をしていた頃の宣材写真だった。

白黒のその写真の中で笑う俺は、まさしく今の俺と同じ顔。

髪型こそ当時の流行だから違うけど、別人だと言っても誰も信じないだろう。

「僕はね。君がもしかしたら超能力者なんかじゃないのかと思っていたんだ。あの二人を見つけたのははっきり言って奇跡だ。何故なら私が依頼した日以降、あの二人は一歩もマンションから出ていないと言っているから。」

なるほどね。

そんな人物を見つけるのは、ほぼ不可能だろう。

そして会社についても調べていて、女子高生アルバイト二人と、後は俺だけ。

プレーンがいるって言ったけど、接触している気配はないしな。

魔法でも使わない限り、見つけられない人をみつけてしまった俺。

どうやって探し出したか、向上心と好奇心のある山瀬さんなら、ますます気になったんだろうな。

それでも俺は言う。

「俺が、あの二人とつながっているって事は考えないんですか?」

普通なら、そちらを考えるだろう。

自分が助かる為に、仲間や取引相手を売ったんじゃないかと。

「そんなバカな事を、君がするかい?どうせ色々喋られて、結局捕まるような事。ああ、麻雀で対戦した事は聞いてるよ。まあそれはどうでもいいけど。」

おいおい、どうでも良いのか?

金や島の権利を賭けて麻雀してたんだよ?

まあそれは、山瀬さんの中では悪ではないのかもしれないな。

この人は信用できる。

俺は山瀬さんをそう判断している。

だから全てを話しても、全てを話してもきっと大丈夫。

国から止められている部分に関しては話せないが、能力については話しても良いかも。

しかし、メグミや華恵の事もあるから、今すぐ全ては話せない。

色々な想いが俺の頭の中を駆けめぐった。

「君は、今の世の中、どう思う?」

山瀬さんのいきなりの質問に、俺は一瞬面食らった。

話が全く変わっているが、おそらくは今日呼ばれた理由の本質。

「どう思うと言われてましてもねぇ。」

「私はねぇ。今が限界だと思っているんだよ。」

「限界?」

意味がわからなかった。

「そうだよ。改革しなければ、正さなければならない時期の限界点。」

「そうですか。」

俺も、今の世の中が嫌で、死のうとした人間だ。

民主主義になっても、誰かが王となり治めた時代でも、結局は権力者が富みを食らう世の中。

悪い奴が、得をする事が多々ある世界。

どうすればそれをやめる事ができるのか。

どうすれば、皆が幸せに暮らせる世界になるのか。

権力者が存在する限り、悪い事をする人がいる限り、それは変わらないものだと俺は思っていた。

しかし山瀬さんは、今ならそれを変えられると言っているように聞こえた。

もちろんそれを変える事はできないだろうけど、今より良くするシステムは、今の人達なら考えて作る事が可能だろう。

ネックは、そういった事を改善出来る人が、権力者である事。

変えるなら、それら権力者を凌駕する力を、改革者が得なければならない。

権力者の権力を、簡単に奪える力を国民が持たなければならない。

限界点ではあるけど、可能なのだろうか。

「君は、何かしらの能力を持っているんじゃないのか?全てを考えなおしても、その結論にしかいかないんだ。否現実的だと否定しても、私の勘がそう結論づける。こんな事は初めてだ。マジックにはタネがあるけど、タネの無いマジックを信じたくなった事なんて。」

「仮に私が、何かしらの能力を持っていたとして、山瀬さんはどうしたいんですか?」

話の流れから、きっと・・・

「世の中、変えないか?」

今日初めて、山瀬さんがこちらを直視した。

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