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イフ  作者: 秋華(秋山 華道)
13/38

愛須愛

次の日の昼、華恵から電話があった。

明日の夜にはこちらに戻ってくる事と、もちろん両親とのわだかまりが取れた事の報告。

更には華恵の父親が、俺の事をべた褒めしていたって言っていた。

電話を切ると、横でメグミがニコニコしていた。

電話の内容はどうやら聞こえていたようで、特に聞いてくる事はなかった。

というか、よく考えたら今更だけれど、昨晩はメグミと二人きりだったんだよな。

結構夜遅くまで、一緒に喋ったりしていたけれど、まあ、全くもって良い雰囲気というような事にはならなかった。

これだけ意識しなくてすむ可愛い子ってのは、貴重だと思った。

「そうそう、私も一応話しておく事にしたから。」

勉強しているメグミが、視線は教科書やノートに向けたまま、ごく普通に話しかけてきた。

話というのは、おそらくはメグミが、あっさりと家を出て此処にいられる理由か。

だから俺は、普通に、でも真面目に、メグミの話を聞く事にした。

「ああ。話してくれ。」

メグミの視線は、そのままで、手に持たれたシャーペンも、せわしなく動いたままだった。

「私の両親ってさ。私がまだ小さかった時に死んじゃったんだ。」

「えっ!?」

どこか普通じゃない何かがあるとは思っていたけれど、両親共亡くなっていたとは。

では、今あの店の店長をしている男性は、父ではないと?

「ああ、でもほとんど記憶にないんだ。まだ小さかったから。だからそれが悲しいって気持ちはないの。それに今のお父さんはいい人だし。」

メグミは先ほどとなんら変わるところも無く、ただ淡々と話し続ける。

「両親が亡くなって、今のお父さん夫婦に引き取られて、それからすぐに2人目のお母さんも亡くなったんだ。」

なんとも辛い、それでよくもまあ、こんなに良い子に育ったものだ。

おそらくは今の父親の愛情だろうか。

「今のお父さんは、それはもうかわいがってくれて、貧乏なのにゲームとかもいっぱい買ってくれて。だから私もゲームして。」

そうか。

あの店長は、メグミをとても愛している。

それは、あの喫茶店の名前からもわかる。

そして、メグミはお父さんにとても感謝している。

だから、その愛情にこたえる為に、与えられた物は喜んで使ってみせ、勉強も手伝いもしっかりして、こんな良い子にそだったのか。

メグミは、動かしていたシャーペンを置いて、こちらに体を向けた。

「お父さん、無理しちゃってるんだよね。私の為に。だから私も、無理して楽しそうにして、ゲームばっかりして。」

「メグミも、話す必要があるんだろうな。お父さんと。」

「そうだろうね。だから昨日言っていたけど、私も悪い事なんて、ほとんどしたことがないよ。」

また俺は見間違っていたようだ。

メグミは、誰にも心配をかけないように、常にその人にあった演技をしてきたのだろうか。

「お父さんは、メグミが本当に父親として認めてくれているか不安で、それがメグミには辛くて、だからお互いの為に家を出たって事か。」

「そうみたいだね。私も昨日の華恵ちゃんを見て、はっきりとわかっちゃったから。これから行ってこようかな。」

「いってらっしゃい!」

俺はそう言って頷いた。

きっとメグミは、何もかもわかっていたんだろう。

でも、自ら踏み出す事が出来なかっただけ。

「でもさ、ちょっとやっぱり照れくさいから、一緒に来てもらっていいかな?」

「ああ、店が終わる時間あたりに、車出してやるよ。」

「うん。」

満面の笑みとは言えないが、メグミの本当の笑顔を見た気がした。


夜、喫茶メグミの営業時間が終わった後、店の客席に俺達は父親と向かい合って座っていた。

大事な話が有ると言って席につたから、もしかしたら父親は、結婚報告でも受けるような気持ちになっているのだろうか。

少し心の中で笑った。

「お父さん、聞いてください。」

「ああ。」

メグミはもちろん緊張している。

それ以上に、父親も硬くなっていた。

「私、お父さんの事好きだから。これまで育ててくれたこと、とっても感謝してるから。」

「そ、そうか。」

父親は少し嬉しそうだ。

しかし、すぐに顔を引き締める。

「だから・・・その・・・」

やはりなかなか、確信をはっきりと言うのは難しい。

すると父親から話してきた。

「でも、しかし、まだ早いんじゃないかな?ほら、愛もまだ高校生だし。」

ぷっ!

やっぱり勘違いしてるよ。

最初からわかっていたけどね。

「えっ?早い?そんな事ないよ。今まで話さなかったのが間違いだったんだよ。」

「いや、えっ?!そんなに早く決まっていたのか?一目惚れか?」

くっくっく・・・我慢できねぇ~!!

「何言ってるの?とにかく、今日はっきりと・・・」

「いやしかし。」

我慢出来なかった。

「ははは!!お父さん、話がかみ合ってないですよ。メグミも普段は鋭いのに、こんな時だけわからないんだな?」

俺はもう真面目な顔に戻す事は出来なかった。

「きっ、君。どっどういう事なんだ?」

「何がおかしいの?私真面目なのに!」

二人の反応が、尚おかしかった。

「ははは!!いいですか。私はメグミと結婚報告しにきたわけじゃないですよ。おとうさん。」

俺がそう言うと、しばしの沈黙。

そして、すぐに二人は驚いた。

「ええっーーー!!!」

息がピッタリだ。

二人はこれほどお互いを気遣って、お互いを想っていたんだ。

はっきりと言って問題ないだろう。

俺は父親の方に顔を向けた。

「お父さん、メグミはお父さんが執拗にかわいがってくれる事が、申し訳なくて、逆につらかったんですよ。もっと遠慮なくガンガンいってほしかったんです。」

俺は視線をメグミに向ける。

「メグミも、お父さんなんだから、もっと遠慮なく、気遣いなんて考えないで普通にしてれば良かったんだよ。その方が父親も嬉しいし、わかったはずなんだよ。」

ははは、言ってやったよ。

まあ、俺を連れてきたんだから、これくらいは許してほしい。

じれったいのって、俺は大嫌いなんだよね。

「あっ・・・そうなのか?」

「うん・・・そうかも・・・」

全く此の二人は。

しかしメグミが、これほどまでに幼かったなんて、それなのに考えや知識は豊富で。

いやぁ~楽しい。

「じゃあ、俺帰るは。今晩は二人で話しなさい。メグミもまだまだ子供なんだなぁ~」

「子供で悪かったわよぉ~」

メグミのそんな言葉にも、棘は全くなく、とても穏やかだった。

帰りの車の中、面白いその後の展開を見ておけば良かったとも思わなくもなかったが、まああれ以上は野暮ってもんだろう。

俺は笑みがこぼれた。

昨日今日で、二人に対する不安と疑問が、一気に解消して、俺は嬉しかった。

良かった。

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