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四、ご近所さんの来襲




 お祖父さんとディーウァの外出後、朝ご飯を平らげた私達は食後のお茶を嗜みながら食事室でくつろいでいた。

 私はお母さんの膝上に乗せられ、再会するまで何をしていたかを曖昧に話す。

「海岸に打ち上げられたって……だ、大丈夫だったの!?」

 曖昧にぼやかしても私の話は刺激的なようで、始終お母さんは顔色を変えている。というか刺激が強すぎたらしく、私を不安解消に抱きしめる用途で使用する為に膝上へと強制移動させられてしまった。

「はい。運よく釣りに来ていたカルロスさんとヒューイ君に助けられたんです」

 胸を撫で下ろすお母さん。よかったと小さく呟いてから先を促してくる。

「それで、どんな人達?」

「カルロスさんは優しいお爺さんでヒューイ君は元気な十歳位の男の子でした。二人は家族で、私を二人の家に案内してくれました。そこで一週間位でしたかね、色々と面倒見てもらったんです……いつか、また訪ねたいです」

「その時は私も行きたいわ」

「きっとみんな喜ぶと思いますよ、ん?」

 家の扉をしきりに叩く音が聞こえてくる。お祖父さん……じゃないはず。お祖父さんなら家の鍵を持っている。

「あら、誰かしら。見てくるわ」

「はい」

 私を椅子に移し立ち上がり、廊下に繋がる扉へ向かって歩き出したお母さんへ私は簡素に返答する。その後、扉を閉めて廊下を駆け足で進むお母さんの足音が私の耳まで届く。

 足音が止み、入り口の扉の施錠を外した金属音と共に、訪問者の声が聞こえ始める。どうやら訪問者は複数人いるようだ。何者だろうか。少し様子を見てみよう。

 お母さんの出て行った扉をちょっとだけ外側に開き、入り口を片目で覗く。

「あ! 本当にいたぞ!」

「え? どこどこ、どこよ?」

「おっ! あそこじゃ! ワシは見たっ!」

 テッドさんに、デウラテさんに、アティースアさんに、ズムウォルトさんに……あぁ、懐かしいなあ。もしかして、私に会いに来てくれたのだろうか。玄関には、私が近所で仲の良かった人々が押しかけていた。

 まだ私に会いに来たとは決まってないのに、つい私は嬉しくなって扉を開き彼らの目の前に姿を現す。朝から次々と旧知の人物との再会が実現し、思わず私の頬も緩む。

「皆さん久し振りです……ね?」

 んーと、どうしたのだろう。皆さん固まっていらっしゃる。私、死んだと思われてたから、いきなり姿を見せたのは少し衝撃的だったのかもしれない。とりあえず声を掛けてみる。

「あーと、この通り私は無事ですけど……」

 無反応かい。

 あ、そういえば、昔も時たまこんな事あったっけ。この世界の人達のボディーランゲージの一つのようだし、少し待とう。

 十五人の固まった人間を掻き分けて、お母さんがこっちに歩いて来た。彼らを見て「威力は数段上がったみたいね……」と呟くお母さん。威力って、何の事だろう。あぁ、十五人もの人間が呆然と突っ立ってたら確かに威圧感はあるよね。

「皆さん、どうしちゃったんでしょうね」

 前々からこのボディーランゲージの示す意味が分からないんだよなあ。何を示しているんだか。

「……さあね」

 お母さんは難しい顔で私を見つめてくる。あれ、何で私を見るのだろう。

「何か?」

「いいえ、何でもないわ」

「?」

 あー、まあいいか。ボディーランゲージに深い意味があるとも思えない。

 今回は死んだ人間が生きてた事に対しての驚きに違いない。びっくりして固まった、という事だ。気持ちは分かる。分かるけど、固まる事はないんじゃないかな。

 ボディーランゲージの示す意味について考えて数十秒程経過しただろうか。他のみんなよりいち早く正気を取り戻し、辺りの固まったままの人々を挙動不振に見回しているテッドさんに気付き声を掛ける。

「お久しぶりですね」

「あ……夢、じゃないのか?」

 私を凝視し、口を半開きにしたままテッドさんが尋ねてくる。

「違いますよ、私は帰って来ました」

「ほ、本当に帰って来たのか?」

 テッドさんの声が震えている。

「はい、そうですよ」

 口を大きく開き、ガタガタと震え出すテッドさん。これは……大丈夫だろうか。

 テッドさんの様子に一抹の不安を覚え始めた時、突然テッドさんが大声が上げる。

「な、何てこった! マリーさん、よかったじゃないか!」

 テッドさんは歓喜の勢い余って隣にいたお母さんの肩をつかみ激しく揺さぶる。

「え、ええ。ありがとう」

 苦笑いで応じるお母さん。

 テッドさんの大声に反応して、みんなも活動を再開させ始めた。

「あらあらまあまあ! アレシアちゃん綺麗になったねえ!」

「よく無事で戻って来たなあ!」

「愛でたい! じゃなかった、目出度い!」

「あぁ……生存してくれてたのね」

「くそっ! マリーさん、ウチの馬鹿息子と交換してくれないか!」

「ははははは! 今年は良い年になりそうだぜ!」

「はっ、だから政府の言う事は信用出来ないんだよ。ほれみい、アレシアちゃんは生きとるじゃないか」

「おばあちゃん、そんな事よりもっとアレシアちゃんの近くに行きましょ!」

「ママ……あのお姉ちゃん、女神様?」

「何言ってんだいもう忘れたのかい!? バルカ家のアレシアちゃんだよ! あぁもう見てご覧よあの容姿ったらもう!」

 みんなで一斉に話し始めるものだから何を言ってるのかが分からない。

「ちょ、ちょっと! 一人ずつ話してくれませんか!?」

 制止に入るが、しかし。

「あらあらごめんなさいね」

「確かにそうだよなあ」

「かあいいなあ」

「なあマリーさん、テッドなんかに構ってないで話を聞いてくれよ!」

「ははははは! こりゃすまねえなあ!」

「あたしゃ前々から言ってたろう? 魔族はいるんだよ」

「おばあちゃん、静かにっ」

「ああ何て綺麗なんだろうねえ!」

「ママっ! しーっ、だよ!」

 薄々感じてはいたが、無駄なようだ。

「ハハハ……」

 駄目だこりゃ。もう、苦笑いするしかない。

「あら、まあ」

「ぐぼぁっ!」

「げぐぁ……」

「ほえ……」

 ああもう本当に訳が分からない!

 顔を赤くしたり、いきなり再度固まったり、奇声を上げ出したり、赤い液体を吐き出したり、何なんだ一体。以前はこんな事はなかったのに。どうなってるんだ。これが時の流れなのか?


「マリー! 一体何の騒ぎだ!」


 その時、入り口の扉が乱暴に開け放たれ男の声が響き渡った。


「アレシアが生きているというのは事実なのか!?」

 入り口に立つ男の声は喧騒の中でも響き渡り、全員が押し黙って目線を彼へと向ける。

 その中の一人である私の目にも、彼の姿が映った。

 そこには黒一色の服装に身を包み、肩を上下させている父の姿があった。

「お父さん……お父さん!」

「アレシア……」

 逸る気持ちに足が動き出す。デウラテさんとハフムさんを掻き分け、お父さんに駆け寄る。お父さんも私に向かって走り出す。十メートルもない二人の距離はあっという間に縮まり、私はお父さんの腕の中に抱き寄せられた。数センチの空間を境に、目と目が合う。

「大丈夫か? 体は何ともないのか?」

 不安げに語りかけてくるお父さん。大丈夫だよ。

「私はいたって健康ですよ」

「そうか、良かった」

 お父さんの顔に、穏やかな笑顔が浮かんだ。つられて私も笑顔になる。


 ギャラリーと化した近所の皆さんからは祝福の拍手が上がり始めた。


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