四十、相互監視
時間も来た事だし、そろそろ家に帰るか。
「新聞を元の場所に返してきます」
「すぐ戻っておいで」
「はい」
ん? 今まで気付かなかったが、新聞の日付欄のロミリア歴四百十五年三月十日という記載は何かおかしいような気がする。
「アレシア、どうかしたのかい?」
おっと、つい立ち止ってた。
「あ、いや、何でもありません」
考えるのは後回しだ、今はさっさと新聞を返して来よう。
帰り道にて。
どうやら学校の下校の時間と重なったようで多くの子供たちと道ですれ違う。そして前から迫る歩道の八割を占拠する児童下校軍団の中から聞き覚えのある声。
「アレシアちゃんじゃない!」
ああ、やはりヌァイちゃんだな。
それにしても、目が合うなり喜色満面で駆け寄ってくる彼女の為に道を空けてあげる子供達は優しいなあ……いや、ヌァイちゃんの迫力に押されているだけか。
「こんにちは、ヌァイちゃん」
「こんにちは、アレシアちゃんとグライヴさん、それにディーウァさん」
お互いに挨拶を交わした所で、ヌァイちゃんが今何をしているのかと聞いてくる。
「図書館で少し調べものをしていたんです」
「何を調べてたの?」
「最近の世情に疎くなっていたので、それら全般ですね」
「ふ、ふうん……」
私の外見に相応しくない回答に対しヌァイちゃんも返答に困った様子。まあ、いいか。
「では、急いで帰らないとお母さんが心配するのでこの辺で」
ヌァイちゃんに別れを告げ、その脇を通り抜ける。
「今日も遊びに行ってもいい?」
背後から聞こえるヌァイちゃんの声に私は振りむき言葉を返す。
「勿論です」
「さて」
一日が無事に過ぎ、夜が更けて来たのでこそこそと自室に入って行く私。お母さんに抱き枕扱いされている故、わざわざ夜に自室に忍び込まなくてはならないのは面倒だがようやく生還した子供というのはそれだけ手離しがたい存在なのだろう。
お母さんの抱擁から巧みに抜け出し、早速今日出撃させた部隊からの情報を見てみる事にする。
モノクルを【物質創造】、と。お? 収集した情報の優先閲覧事項が更新されているな。ふーむ、何々……顔識別システムに誰かが引っ掛かったのか。私が密かに作成していた政府の情報機関勤務者リストから該当者が出た、ねえ。まあ、戦争の原因となった現場で行方不明になった私に対して何がしかの行動を取ると思ってはいたがまさか常時監視の目を付けるとは……。魔法的な監視がないからうっかりしてたな。事情聴取位はされるとは予想してたが、何でまた私を監視しているんだ?
うーん、常時監視を付けられる程のヘマをしたつもりはなかったのだが、まあ、現に付けられている訳だ。意図は分からんがこれから迂闊な行動は出来ないし、今までの事も見られていたと考えて行動しなくてはならない。しかし……いつから見られてたのだろう。どの程度まで情報が漏れたかが分からないと行動が大分制限される。
ま、しかし。これでこちらが遠慮する必要はなくなったな。そちらがこちらの私生活を一部始終見るのならそちらも同じ覚悟をして貰おう。
衛星や機械兵統御を担い、副次的にその巨体を生かし部隊を駐留させている司令船。宇宙に漂うそれにモノクルから小型機械兵光学迷彩仕様投下を命令。これにより司令船から物資輸送用使い捨てコンテナが射出される。コンテナは首都上空にて外殻をパージし内部に搭載されていた小型機械兵光学迷彩仕様をばらまく。ばらまかれた小型機械兵光学迷彩仕様は各々が盗聴盗撮の任務を果たすべく首都に散って行った。
何処まで情報を持っているか、見せて貰うとしよう。