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三十八、女神の所以




 無人偵察機千六百機を世界に放ち用の済んだ私達は帰途に就いていたが、ふと図書館に行く事を思い付いた。私が九日前に我が家に帰宅してからどうにも世界の情勢が掴めない。何だか私だけ一年遅れているような気分。ちょっと図書館でそこら辺を調べてから帰っても問題あるまい。

「ディーウァ、少し寄り道をするぞ」

「了解で御座います」

 ここから片道徒歩十二分はかかるが、お昼前には帰れるかな?


 図書館へ向かっている私達は公道を極めて普通に歩いている。

 そう、私達には特に目立つような特徴はない筈なのだ。

 それなのに、何故だろう。

「私達、注目されてやしないか?」

「……そうで御座いますね」

 おかしい、これはどういう事なんだ。すれ違う人皆が皆私に視線を集中させるのはもう慣れた。それは一人で小さな子供が歩いているのを気に掛けているのだと感心したものだ、弱者が社会に保護される社会を構築するとは何て素晴らしいんだとね。まあ、お母さんやお祖父さんが同伴していても同じ反応だったのには過保護だろうと思ったが。

 しかしこの状況はなんなんだ。何で私を見て立ち止る? 追い掛けてくる? いや、以前も少数だがこのような反応を示した人はいたが、こういうのは変人だと無視していた。

 問題は今回はその人数の多さ。実に十人中六人は私を見て立ち止り、何十人かに一人が付いてきている。

 私は何処ぞの有名人か?

「なあ、どうする?」

「どうしようもないのではないので御座いましょうか?」

 何だその投げやりな態度。

「そんな事はないだろう。何らかの原因あってこの状況が発生しているんだ。その原因さえ特定出来ればだな……」

 もしかすると、私は常識外れな事をしてやしないだろうか。

「御主人様。これは私の推論で御座いますがお聞き下さりますか?」

「構わない。言ってみてくれ」

「現在の御主人様は他の者には想像を絶する程の魔力を消費したばかりで御座います」

「そうだな」

 さっき消費した魔力だけでも平均的な退魔師の六千倍は使ったかな。

「その影響で御主人様が体内に蓄積されていられる魔力が励起……活性化しているので御座いましょう」

 魔力の活性化? そんな理論あったか?

「んん、だが確かにさっきより体内の魔力が扱いやすくなってはいるな」

 何と言うか、普段の魔力がゼリーのようににドロドロしていたとすれば今の魔力は水のようにサラサラと流動的になっている。

「それで御座います」

「分からないな、説明してくれないか?」

「つまりで御座いますね。魔力が励起状態になると体内に蓄積された魔力が体外から確認し得るので御座います」

 魔力の活性化は魔力の流動性の変化により知覚出来、この状態になると体内の魔力が丸見えになるって事か。いやしかし。

「そんな事があるのか? 魔力は体外に放出しない限り人の感覚では探知出来ないと習ったが」

「ふふふ。それが……可能なので御座います。極めて巨大な魔力を保有している御主人様が身近にいらしたからこそ発見出来たので御座いますが」

「ふむ……」

 もしそれが事実なら対象の体内魔力を知るための魔法を使う手間が省けるし、対象に知られず私だけが一方的に対象の魔力保有量を調査出来るな。

 いや、ちょっと待て!

「おい、今私が蓄積している魔力が丸見えなのか? それは官憲に通報されかねないぞ」

 私が体内にどれだけ魔力を貯蓄してると思ってるんだ。言わば米ソの全保有核兵器を持ち歩いているようなもんなんだ。

「安心して下さいませ御主人様。この状態にある魔力はこの現象について知っている私達以外には魔力としては感知されないので御座います。どうやら魔力にも色々あるようで御座いますね。ふふふふ」

「お前……マッドサイエンティストを彷彿とさせる雰囲気を出しているぞ」

 お前が普段何を考えて暮らしているのかに不安を抱くな……。まあ、それはまたの機会にでも聞き出すとして。

「ふむ。じゃあ私が今注目されている原因は分かったような気がするが、その魔力の活性化とやらはいつ普段の状態に戻るんだ?」

「それは分かりかねるので御座います」

「……それは困るな」

 注目されていると、色々とやりにくい。

「致し方ないので御座います。まだまだデータが足りないので御座います」

「それと魔力として認識されてないなら、私の体内魔力はどんな風に見られているんだろうな」

 得体の知れない、何者とも付かない名状し難い雰囲気でも醸し出しているのだろうか。

「言葉で言い表し難いので御座いますが、強いて言えば人としての魅力と才能が溢れ出ているかのよう……とでも表現出来ましょう」

「ほう……」

 成る程。今までの悩みが解決したな。私が時々人を気絶させたり、硬直させたり、顔を赤面させたり……その他諸々の現象を引き起こしていたのは魔力の使用が原因だったんだな。お母さんやディーウァは原因を私の美貌に帰していたけどそれも魔力補正が働いていたのに違いない。

 だが冷静に思い返してほしい。私が大規模に魔力を使用して数日経過している日にも私は近所の人達にやらかしている。

 という事はだ、この魔力の活性化とやらは数日程度では沈静化しないんじゃないか? もしこの推定が正しいなら現在の情勢では一日に一度の魔力が避けられない以上、私が魔力の活性化に伴う副作用から逃れる術はないんじゃ……。

 そもそもだな、私は六歳の時魔族と戦闘状態に入るまで敵対者の存在なんて想定してなかった。いざ魔族との戦いに突入してみれば膨大な魔力が私の圧倒的優位を作り出したので、体も全然鍛えてない。さっききつい坂道を通った時も魔力で身体強化したし、確実に魔力の補助がないと同年代の子供にすら身体能力で負ける。思いっきりぐうたらな生活をしていた訳だ。例え魔力封じられても【物質創造】はお構いなしに使えるんだ。こんな貧弱な小娘の肉体じゃあ鍛えてもたかが知れているし、それなら他者から隔絶した魔力で何とかすればと誰しも思うだろう。一応魔族と敵対してる時は魔力封じられたバックアップとしてグレリア製の拳銃を携行していたしな。

 だが、ディーウァから衝撃の仮説を聞かされてしまった。これからは便利な便利な魔力の使用を控えて行かないとならない。むむ……いや、でもなあ。これはつまり二十一世紀の文明の利器を捨てろというに等しいな。一度知ってしまった快適な暮らしを果たして捨てられるか……。とはいうが、ちょっとした坂を歩くと疲れるのは不健康極まりない生活だという所作だろうな。普通の子供は坂道歩くだけで息が上がったりしない。

「御主人様、しっかりしてくださいませ」

「すまん」

 現実逃避していた。

 まあ、やる事は変わらない。図書館はもうすぐそこだ。

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