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三十五、肉体に引っ張られる精神




 ああ、やっちまったなあ。

「何なのあの女。ちょっとアレシアに恩が売れたからって生意気よ」

 ディーウァを休ませるという名目を出されると、私に反対が出来る筈もない。何故なら私も人目につかないようにディーウァへ魔力補充しようとお母さんとお祖父さんに同じ事を言ったのだから。反対した事をヌァイちゃんがうっかり彼らの前で口に出したりすると、途端に厄介な事になってしまう。

「アレシアも恩に感じる必要なんてないわ。あの女はアレシアの見た目だけしか気にしてないに違いないもの」

 あーあ。自室でヌァイちゃんと二人きりだ。

 まあこれでも嫉妬心と独占欲が凄まじい事を除けばいい子なんだが。除けば、な。

「そんな事はないと思いますが」

 しかし、ディーウァへの批判は主人としてやめさせておくか。

 見た目うんぬんで付いてきてくれる程度の覚悟じゃ、とっくにディーウァは私の元からいなくなっているだろうよ。そもそも彼女は人間じゃないしな。

「……ふん。いつか本性が分かると思うわ」

 私はあなたの本性を知りたくなかったがね。


 私にとって苦行になりつつある時間が終わるのは決まってアーザス君が来てくれるからだ。

「ヌァイちゃん。今日も一番乗りだね」

「仲良しだね~」

 今日はイグヴァ君も一緒に来てくれたのか。だがイグヴァ君よ、君の目は曇りきっているようだ。

 いや、ヌァイちゃんの偽装が優秀過ぎるのか。

「だってアレシアちゃんに会いたくて仕方なかったんだもの」

 ヌァイちゃんの偽装能力は並外れたものだ。二人が扉をノックした時には浮かべていた黒い表情は一瞬にして影を潜め、扉が少し開いてアーザス君のドアノブに伸ばした腕が見える頃には笑顔を顔に貼り付けている。

 その驚異の変貌を目の当たりにした私でも騙されそうな清純な笑み。

 何て……末恐ろしいんだ。

 とは言え彼ら二人が来てくれれば優等生モードに移行してくれるので私の負担は激減する。

 ありがとう、アーザス君、イグヴァ君。

 君らのおかげで心労が和らぐよ。

「アレシアおねーちゃーん!」

「チャーイちゃん! 今日も来てくれたんですね!」

 そして一番の癒し要素が来た!

 扉をあけ放ち飛び込んでくるチャーイちゃんを私はしっかりと抱きとめる。

 胸元に目をやると、締まりのない笑顔ですりすりと頬をこすり付けてくるチャーイちゃんの顔。

「チャーイちゃんは可愛いですねえ……」

 チャーイちゃん……あなたがいなかったら、もう私はとうにストレスでぶっ倒れていた事だろうよ。

「えへへへへ~」

 うぐ、褒め言葉に素直に照れてくれるのも嬉しい。

 ヌァイちゃんの黒さに穢れきった私の心が洗い流されるよう。

 よし、これだけの人数がいればヌァイちゃんも本性を現せまい。

 何とか今日も一日乗り切ってやる!


「……で? 何でそれをオレに言う?」

 時は過ぎて夕刻。皆が帰宅していって静かになった私の部屋に、ラインラ君が訪れていた。いや、私が引きずり込んだと言うべきか。

 私はベッドに腰掛け、ラインラ君は椅子の背もたれに顎を乗っけて座っている。

「いや、ラインラ君なら大丈夫だと思いまして」

「毎回愚痴聞かされるオレの身になれよ」

 渋い表情を隠さないラインラ君。明らかに面倒くさがられている。

 毎日ラインラ君をはけ口にしてるのは申し訳ないと思うよ。やめる気はないが。

「すみませんね」

 連日やってくるチャーイちゃんの送り迎えの為にラインラ君も毎日我が家に来ていたのだが、私の交友関係の中で唯一軽口を言い合える中なのでついつい甘えてしまっていた。

「しっかし、ヌァイがそんな腹黒だったなんてな」

「悪口はあまり言いたくはないですがね。あの子と本音で付き合うのは少々気力がいります」

 ああいうのが好きな人だっているんだろうが、私には少し荷が重いかな。ヌァイちゃんによって削られた精神が一向に回復しない。ラインラ君がいてくれてやっとどっこいどっこいに持ちこめている感じだ。

「学校でばらしたら面白い事になりそうだな」

 ニタリと嫌味な笑顔を浮かべるラインラ君。

「ラインラ君の立場がどうなるか。私も楽しみです」

 残念だが君では彼女に勝てないだろう。

「……学校じゃあいつすっげえ人気者だもんな」

 現実にげんなりしたのか様子。

 本当の所、ラインラ君に言っても何も出来ないのが分かってるから暴露してるんだけどね。すまんね、私はひとしきり言いたい事言ってすっきりしたのに、ラインラ君には口閉じさせて。

「まあ、好意を抱かれてるのは間違いないですし。命の危険はないです」

「……そんなひどいのか?」

 命と口に出した私にギョッとした表情をするラインラ君。驚かせてしまったか。

 でもね、彼女に迂闊にちょっかいかけないよう釘を刺して置こうか。

「んー。敵に回したら躊躇なく対象を追い落としに掛かるでしょうね」

 あれ、何か同情の眼差しをよりにもよってラインラ君から浴びせられている。

 そして、ラインラ君が私の頭に手を乗っけて来た。

「何ですか?」

「何でもねえよ」

 ひょいとすぐに離された手だが、まあ気持ちは伝わった。

 だが同時に悲しくなった。

 お前に同情されるようになってしまったか……。

「じゃあオレは帰る」

「明日も来てくれますか?」

 しかし非常に貴重な精神回復剤を手離すわけにはいくまい。

「さあな。オレはチャーイの送り迎えしてるだけだし、チャーイに聞けよ」

「じゃあ、一緒に下に行きましょうか」

「ああ」

 チャーイちゃんにはなるべくたくさん訪問して貰えるよう吹き込んでおこう。

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