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三十三、人工衛星網




『……人様。ご主……ま。御主人様! 衛星網の完成で御座いますよ!』

 右耳に掛けたモノクルに内蔵されたイヤホンから聞こえてくる、弾んだディーウァの声。

「よくやった。ありがとう」

 私はディーウァが払ったであろう多大な努力を思い、労いの言葉を掛けた。


 私がディーウァに衛星網構築を依頼してから一週間。

 ついに構築が完了し、私とディーウァは通信衛星を介しての交信にはしゃいでいた。

 自室の机の上に置かれた液晶ディスプレイには、鮮明にディーウァの姿が映し出されている。ディーウァだけでなく、背景として焦土と化した街並みや魔物の死体を機械兵が積み上げて火葬しているのも見える。あっちは相当荒廃してしまっているようだ。

「本当にディーウァは良くやってくれたよ」

 ディーウァには、心から感謝するよ。

『お褒めの言葉、真に嬉しいで御座います!』

 画面越しににっこりと微笑むディーウァを見て、無性に彼女に会いたくなった。

「これからはここから部隊の指揮を執る事も出来るし、州境に行ってもう六日だろう。そろそろ帰って来ないか?」

 幸い過剰に投入した爆撃機戦力が地形もろとも魔物を焼き払ってくれたおかげで、州境沿いのロミリア軍の負担は激減してる。

 又、機械兵三個連隊およそ三千六百兵がゲルマフィリオ州内に侵攻して積極的に魔物を掃討して回っている。

 状況は最悪から脱していると判断してもいいだろう。ただ、爆撃が激しすぎて地形が一変している土地が多々存在しているから、後で避難した元住民とかに恨まれるかも分からない。まさか、画面の背景の瓦礫しかない街並みは私のせいじゃあるまいな。

『ですが、御自宅からの指揮となりますと、どうしてもタイムラグが生じてしまいますし、依然現場指揮をする者は必要ではないので御座いましょうか? 失礼ですが、御主人様の【物質創造】なさった機械兵の思考能力は高くありません。私抜きで大丈夫で御座いましょうか?』

「大丈夫。問題ないよ。十二万もの数の魔物が文字通り壊滅してしまったんだ。いくら魔物の繁殖力が高いとしても数週間でどうこう出来るような数じゃない。それよりそっちでは何もなくて苦労したろう。早く戻って来て休んだ方がいい」

 本心はただディーウァの顔が直接見たいだけだが、私の言ってる事に間違いはない筈だ。

 まだ通信衛星位しか使ってないが、偵察衛星も軌道上に上げているし奇襲食らうなんて事はまずない。まあ、情報を読み誤らなければの話だが。

『しかし……』

「ディーウァも心配性だな。いざとなれば、私がもう一度爆撃機で丸ごと焼き払うから大丈夫だよ。私はディーウァの顔がすぐにでも見たい、戻って来てくれ」

 核パトロールの如く、常に爆撃機を上空に待機させればいざという時だって乗り切れるさ。

『了解致しました。即座に戻って参ります』

 ディーウァも私の話に納得したらしく、頬を赤らめつつ帰還する旨を告げる。

 やはり彼女も魔物の死体がそこらに転がっているであろう州境には辟易していたのだろう。何だか嬉しそうだ。

「じゃあ、待ってるからな」

『光栄で御座います!』

 ディーウァが空に飛び上がるのを最後に通信は途切れた。

 さっき鐘が鳴ったから、今はお昼か。

 戦闘攻撃機体型となったディーウァの最適巡航速度はマッハ四だから、およそ二十分あれば戻って来る。

 どれ、一階で到着を待つ事にしよう。


 一階に下りて、居間でお祖父さんとお話ししながらそろそろ二十分が経過する頃。

「おや、誰かが来たようじゃな」

 玄関の扉を叩く音にお祖父さんが気付く。

「本当ですね」

 ディーウァだろうか?

「私が見に行って来ますね」

「いや、お母さんに任せておきなさい」

 何故かお祖父さんに引き留められた。

「ですが、お母さんは今昼食を作っている最中なので私が出た方がいいと思います」

「なら、儂が応対するかの」

 お祖父さんは大義そうにロッキングチェアから腰を上げる。

「私じゃ駄目ですか?」

「気持ちは嬉しいんじゃがのう。最近は物騒じゃから」

 お祖父さんは苦笑いしながら私の頭に手を伸ばし、わしゃわしゃと撫でまわしてくる。

「はあ」

 そういうものか? 玄関の応対が危険なら、そのうち私は外出も駄目になりそうだな。

 過保護は良くないと思うよ、お祖父さん。

「どなたかしら?」

 あ、お祖父さんとやり取りしてる間にお母さんが玄関の扉を開けちゃったようだ。

「お久しぶりで御座います。只今帰って参りました」

 ディーウァの声だ。たった六日しか離れてないし、ついさっき交信したばかりなのに、ひどく懐かしいように思えるのは何でだろう。

「あらあ、ディーウァちゃんじゃない! 元気にしてたかしら?」

「はい、お陰様で」

「お祖父さん! ディーウァなら、問題はないですよね!」

「そうじゃな、どれ、儂も一緒に行こう」

 私はお祖父さんと連れ立って居間から廊下に出て、ディーウァの姿を目の当たりにする。

 肩に触れそう程まで伸ばし長さを切りそろえた茶髪は土埃にまみれ光沢を失い、ディーウァの自由裁量で魔力を分解・再構築していくらでも作り変えられる服装も変える余裕が無かったのかくたくたよれよれだ。

 いくらディーウァが魔力で構成された擬似生命だとはいえ、酷使してしまった事に後悔の念を抱く。

「ディーウァ……」

 すまない。適度な休息を挟むべきだったな。

「御主……アレシアちゃん、私はこの通り無事に帰って参りました」

 私が近づくのに気付いたディーウァが清々しい笑みを浮かべ帰還を告げる。

 疲れてるのに、無理して笑顔なんか作らないでもいいというのに。

「よく帰って来ました。今日は存分に休んで下さい」

 待ってろ。隙を見て魔力を補充してやるから。

「そうね。ディーウァちゃん疲れてように見えるわ。一度横になって眠るといいわ」

「そうさせて頂きます」

 ふらふらよろよろ。何ともおぼつかない足取りのディーウァ。

「私が付き添います!」

「そんな。だ、大丈夫ですぅ!」

 大丈夫なんかじゃないだろ! 口調が魔力節約モードの時の頃に戻りつつあるじゃないか!

「いいから、二階に行きますよ!」

 早く人目につかない場所へ!


 理由は分からないが、背中にお母さんとお祖父さんの生暖かい視線を感じつつ、私は二階の客室へとディーウァの左腕を引っ掴んで連れ込んだ。

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