三十一、州境派遣部隊第三梯団の出撃
ルール君が目覚めてからしばらく居間にてお茶を飲んだりお菓子を食べたりしていたが、ラインラ君が突然外に遊びに行くと言い出し出掛けてしまった。ルール君も乗り気じゃなかったし私を誘ってもくれたのだが、疲れているってお母さんに嘘付いてるしチャーイちゃんにずーっとべたべたくっつかれて事実疲れてたので私は辞退させて貰った。ルール君は強引に引っ張って行かれてしまったが。
にしても、戦闘時には魔力で身体能力無理矢理向上させてたのは不味かったな。五歳児を常時抱っこしてるだけで体力がガリガリ削られてく。
「アレシア、やっぱり寝てたらどう?」
私の疲労は目に見える位ひどいのか、お母さんから心配されてしまう。
「そうさせて貰います」
横になれば、チャーイちゃんの重さも苦にならないだろう。それ以前に、チャーイちゃんが離れてくれるだけでもいいのだがね。
「ワタシもいっしょにおねんねする!」
どうにもそうはいかないらしい。決意に満ちた表情で必死に主張して来るチャーイちゃん。
別に大声で叫ばなくとも一緒に寝る位構わないというのに。
「じゃ、チャーイちゃんもおねんねしましょうか」
寝てくれれば、隙を付いて部隊を送れるかもしれないし。と、黒い考えも少しあったり。
「はーい!」
元気のいい返事だ。この位の年齢の時って生きるのが楽そうだ。羨ましくなるね。
「お母さんは家事をこなさなくちゃならないからついてあげられないけれど、ちゃんとするのよ」
こうしてお母さんも都合よく席を外し、自室にてチャーイちゃんと共にベッドで横になったのだが、少し前世とでも言うべき地球での事を思い出す。
前世でも自分が幼少の頃、妹の添い寝をしてあげた事があったっけ。もうあっちには行けないと思うと少し悲しくなるね。
まあ、今更戻った所でどうなるのか考えたくもないが。結構年月経ってるから皆年を取ってるのにも関わらず、私だけ小っちゃくなっておまけに性別入れ替わってるんだからなあ。
おっといけない。感傷に浸ってないでさっさとチャーイちゃんと寝かしつけよう。そうすればゲルマフィリオ州に飽和爆撃出来るだけの航空戦力を叩き込んでやれる。
チャーイちゃんの添い寝をしつつ、体感時間にして十分程が経過する。
「えへへへ~」
にこにこしながらずーっとすりすり頬をすり寄せてくるチャーイちゃん。うーん。中々眠らないなあ。
「チャーイちゃんは眠くはありませんか?」
と、私が問うと
「寝てられないもん!」
との返事が帰って来た。
「それはどうしてですか?」
寝てくれよ。
「だって、お姉ちゃんと会うの久し振りなんだもん……」
そう言い終えるとまたすり寄ってくるチャーイちゃん。
「そうですかあ」
こう慕われると悪い気はしないのだが、いかんせん時期が悪い。
州境に投入した中距離弾道ミサイル二発と爆撃機十二機だけでも単純計算で 致死面積(そこにいれば確実にお陀仏)十平方キロ(東京都台東区程)はある。危害面積(そこにいるとあの世に逝くかもよ)ならば一気に広がり二百平方(アメリカ合衆国首都ワシントンDC程)キロだ。
地球のような一部地域に人口や構造物が集中しているのならば十分過ぎる戦力なのだが、州境は五百キロもの長さがあり主戦場は二か所に絞られているとはいえロミリア軍はその州境線上の至る範囲に展開している事もあって魔物を全滅させられるかと問われると自信は持てない。
さっさと増援をディーウァに送ってやりたいなあ。
よし、こうなったら出来るだけチャーイちゃんに尽くして満足させてやろう。そうすればまどろむ位はしてくれるだろう。
「じゃあチャーイちゃん。横になりながらでなんですが、したい事を言ってみて下さいよ。出来る事ならさせて貰います」
「ほんと!?」
私の申し出は喜ばれたようで、チャーイちゃんは目を光り輝かせ始めた。
「ええ。勿論」
「ほんとにほんと!?」
「はい」
そんなに喜ばれるとこっちも気分が良くなる。でも、ここまで喜ばれる事を言ったつもりはなかったのだけれど。
「じゃあね! じゃあね! お体触らせて!」
「……」
うわぁ~、そう来るのかあ……。
「だめ?」
「……いい、と思いますけど……何故触りたいんですか?」
「あのねあのね! 女神様のお肌すべすべしててね、気持ちいーの!」
「そうですか……」
私もまだ若い肉体だから、肌はそれなりに綺麗なのだろうけど、絶対チャーイちゃん自身の肌の方が良好な状態を保っていると思うのだが。
「だめ?」
まあ、大した事でもないか。体を触ると聞くと卑猥だが、実質は肌を触らせてという事だし。
「いいですよ」
「やったー!」
喜びの雄叫びを上げたチャーイちゃんは私に絡ませていた両腕を離し万歳の格好をして、指をワキワキさせる。
「ちょっと待って下さい!」
だが私は、タダでは動かない!
「?」
万歳の格好のまま動きが止まるチャーイちゃん。
「その代わり、条件があります」
「じょーけん?」
首をかしげるチャーイちゃんに、条件を投げかける。
「はい。目をつむってゆっくり十秒数えてくれませんか?」
「何で?」
「少し覚悟がいるんです」
どうだ? 乗ってくれるか?
「んー……いいよ!」
少し頭を悩ませていたようだが、割かし簡単に承諾してくれた。
「ありがとうございます」
「じゃあ、行くよー」
両手で目を隠し、準備万端なチャーイちゃんに私は始めてくれと促す。
「いーち……にーい……さーん……」
良し、今からが勝負だ。ベッドの上をもそもそと進んで素早く窓を開き、爆撃機編隊を【物質創造】。魔力をあまり大きく使うとお母さんにばれるかもしれないので、五派に分けて十二機ずつ州境へと出撃させる。
「よーん……ごーお……ろーく……」
爆撃機だけだと、細かな支援が出来ないだろう。機械兵を満載した上陸艇も三隻程送るか。上陸艇と言っても海上を移動する奴ではなく宇宙空間から惑星に上陸する時に使う物なので空を飛ぶ事も可能だ。
「なーな……はーち……きゅーう……」
さて、四種類しか【物質創造】出来ない制限の中、爆撃機に上陸艇を【物質創造】した訳だが、まだ二種類の余裕がある。後何か足らない物はあるかな? いや、大丈夫だろう。上陸艇には機械兵以外に火砲や戦車、工兵機材とかも入ってるし。
「じゅう! もーいーかい?」
「もーいーです」
頑張れ、ディーウァ。