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二十九、ディーウァ出撃




 お母さんに見守られながらベッドに横になる私。頭の中では州境の戦闘の事ばかり考えている。私が投入した戦力は役に立っただろうか。あれでも結構強力だとは思うけれど、敵が敵だけに戦果を直接確かめたい。ああもう、じれったいなあ。私自身が行けば万事解決なのにこんな所で何油売っているんだ。

 早急に対策を講じないとならないというのに……もう駄目だ、我慢出来ない。

「アレシア?」

 思わず目をかっぴらいてシーツをはねのけた私に、お母さんの声が耳に入る。

 この状況下で無駄な時間を費やすのには耐えられない。でも、ここで私が飛び出したら家族に秘匿していた私の能力が知られてしまう。そうなれば、どうなるだろうか。

 私の持つ力は、人が持つには大きすぎる。家族のみんなは私を人間として見てくれるだろうか。それとも怪物として見るようになるだろうか。

 問題はそれだけに止まらない。何らかの権力が私を知ったらどうするだろう。家族を人質に利用される事になるかもしれない。いや、私を利用するのはリスクが高いと判断して殺されるか?

 考えれば考える程、私自身が出るのは難しいと判断せざるを得ない。

 だがしかし、私にはディーウァがいるのである。自立判断すら可能なAIを搭載し、何故か人型に変体出来るディーウァなら前線に行って的確な指揮を執れるだろう。ディーウァに州境へ出撃するよう頼んでこよう。

「私、お手洗いに行ってきます」

 そうと決まれば、早速行動だ。

「気を付けるのよ」

「はい」

 お母さんの温かい声を背に浴びて自室を出た後、ディーウァの魔力を探る。ん、どうやら一階にいるようだ。

 階段を下りると、廊下を掃除するディーウァの姿が見える。箒で大きな汚れを掃き出している最中のようだ。私の足音に気付いたのか、こちらに笑顔で顔を向けるディーウァ。その笑顔は私を見た途端弾け、ディーウァは眉間にしわを寄せる。

「御主人様、どうかなされましたか?」

 私は掃除をしているディーウァに近寄り、前置きなしに話を切り出す。

「ディーウァ、時間がないから手短に行く。今からモノクルの情報を送るからそれを元に魔物を撃滅して来てくれないか」

 こう言い終えるなり、有無を言わさずモノクルを【物質創造】してディーウァへ情報を与える。

 だが、ディーウァは州境に出撃してくれるのだろうか。今の日常を楽しんでいるディーウァには酷な仕打ちだろうし。もしかしたら断られるかもな。

「分かりました。御主人様」

 私が案じていたのを恥じ入らせる位の即答を頂いた。何てありがたい。

「ではお祖父様とお母様に挨拶後、現地に向かわせて頂きます」

「私が行くべきなんだろうが、押し付けてすまない」

「宜しいので御座います。これが本来の私の務めで御座いますから」

 私に向けて、清々しい笑顔を見せてくれるディーウァ。そんな顔するなよ、お前を戦線に投入する事に引け目を感じちゃうじゃないか。

「本当にいいのか? 無理はしなくてもいい。他にやりようはある」

「ですが、私を投入した方が確実で御座いましょう。安心して下さいませ。私の心配は御無用で御座います」

 確かにディーウァの言う事はもっともだ。極端な話、ディーウァが粉々に撃破されても私の膨大な魔力を以てすれば簡単に再生させる事が可能だ。

「では、行って参ります」

 私が、自身の良心の為にディーウァの決意を鈍らせるような台詞を量産しようとするのをこれまた良心によって躊躇ちゅうちょしている間に、ディーウァはすすすっと動き回ってお祖父さんとお母さんに挨拶を終えてしまっていた。仕事の早い奴だよ、本当に。

「それでは、しばらくお暇させて頂きます」

 玄関に立ち、ぺこりと頭を下げるディーウァ。

「いってらっしゃい、ディーウァちゃん」

 見送りに一階に下りてきたお母さんの背中で、どうしたものかと逡巡しゅんじゅんする私。何とディーウァに声を掛けるべきだろう? 何か上手い言葉はないものだろうか。

 ああもう、そうこうしている間にディーウァが行ってしまう! 何を喋っても構わないから、口よ動け!

「ディーウァ!」

 それで出たのが名前だけかい……まあいい、出発しようと背中を向けていたディーウァを振り向かせる事には成功したのだ。後はこういう場面に相応しい台詞を口走っちゃえばいい。さあ、思うがままに声帯を震わせよう。

「あの、その、頑張って下さい!」

 うわあ、やってしまった……”頑張れっ”て、何て陳腐で無責任な台詞なんだ。もう、私の馬鹿馬鹿馬鹿!

「はい! 行って参ります!」

 それにも関わらず、ディーウァってば、とびっきりの笑顔で飛び出ていきやがった……無事でいてくれよ、ディーウァ。

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