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二十五、童心




 私とアーザス君、それにラインラ君の三人が気まずい雰囲気の中綱渡りのような会話をしていると、ラインラ君の弟のルール君が玄関から姿を現した。

「遅せぇぞルール」

 ラインラ君の声は心なしか嬉しそうだ。私が嬉しいからそう感じるのかも知れない。とにかく、ルール君の登場で変わった空気をさっきまでのようにならないようにしないと。

「ごめん兄ちゃん」

「さてと、じゃあ行くか」

 てっきりこの場で何かすると思ってたが違うのか。

「何処に向かうんですか?」

 私の質問に、ニヤリと笑うラインラ君。

「いいトコだ。ついて来い」

 ラインラ君が歩きだしたので、それに合わせて私達も付いて行く。ラインラ君が意気揚々と前を歩き、その横には楽しげに笑うルール君。その少し後ろをアーザス君と一緒に私が歩く。

「何処に向かうんでしょうね」

「ボクには分からないよ。変な場所じゃないといいんだけど」

 相変わらずアーザス君は不機嫌そうだ。あんまり外で遊ぶのが好きじゃなかったっけ? そんな事は無かったと思うけれど、幾分情報が古いからなあ。もしかしたら、嫌いになってたりするだろうか。

「アーザス君は外で遊ぶのって好きですか?」

「好きだよ」

 あれ、好きなんだ。

「じゃあもう少し楽しんだらどうです? ラインラ君の用意するお楽しみに期待してみましょうよ」

 あいつの事だから、きっとびっくりさせてくれるさ。

「うん……」

 どうにも気の乗らない返事だな。

「おい! 早く来いよ!」

 おっと。ラインラ君達と随分離れてしまった。

「ほら! 行きましょう!」

 私はアーザス君の手を握り彼を引っ張る。

「あ、う、うん! そうだねっ!」

 私達はラインラ君の元へ駆け出す。まあそんな距離が離れていた訳でも無いからすぐに追いついた。しかしアーザス君運動不足なんじゃないか? 五十メートルも走ってないのに、顔が真っ赤だぞ。

「何やってんだ! はぐれたらどうすんだよ!」

 私達に対してお怒りの様子のラインラ君。

「すみません。さ、もう大丈夫ですから先を進みましょう」

 ラインラ君はこっちを睨み付けたまま動こうとしない。

「? どうしたんですか?」

 私が問いかけるとラインラ君は舌打ちをして

「後ろにいたらまた遅れるかもしんないだろうが! アレシアはオレの横だ!」

と怒鳴って私の腕を強引に引っ張った。危ないので私はアーザス君の手を離した。

「痛いじゃないですか」

「うっせい! さ、行くぞ!」

「仕方ないですね。アーザス君、行きましょう」

「うん。そうだね」

 どうしたのアーザス君。笑顔なのに威圧感が漂ってくるよ。

「アーザス君、どうかしました?」

「ん? どうして?」

 ちょっとこの子怖い。どうするよ。

「い、いや何にも無いのなら構いません」

 よく分からんが、しばらく触れないで置こう。

 こうして私達は止まっていた足を前に進めた。ラインラ君の態度が軟化していて友好ムードになると思いきや、性格温厚だった筈のアーザス君の頑なな態度によってあんまり居心地の良くない環境である。私としては別にそれでも一向に構わないっちゃ構わないのだが、どうしてこの二人の仲はこうも悪いのだろうか。改善出来ない類の対立なのかねえ。

「アレシアちゃんと一緒に外を歩くのも、久し振りだね」

 機嫌が直ったのか、アーザス君が話し掛けて来た。

「そうですね」

「オレは二度目だけどな」

 ラインラ君も参加して来た。

「ふーん、そうなんだ」

 おい、ラインラ君が会話に参加したらたちまち機嫌を害しやがったぞこいつ。笑顔が何故か黒く見えるな。

「アーザス君はそろそろ機嫌を直してくれませんか? こうして大勢で外を歩いているんです。もっと楽しみましょうよ」

 私にとって、こういうのって久し振りなんだから、楽しくありたいんだ。

「ごめん、そんなつもりじゃなかったんだ」

 途端に罰の悪そうな顔をするアーザス君。

「ですから! 一緒に楽しもうと言っているんです! しょげた顔しないで下さい」

「分かった。じゃあ思い切り楽しもうと思う」

 いい心掛けだ。だが何故私の手を握る?

「あの?」

「駄目かな?」

「一向に構いませんが、こんなんで楽しいですか?」

「ボクはこれで楽しいよ」

 さっきまでとは違うきれいな笑顔を浮かべるアーザス君。

「ならいいんですが」

 何が何だか分からない。


 こんな具合で新興住宅街の出来たばかりの新しい街並みの中、新しく敷かれた石畳の広い道路を進んでいたのだが、先頭に立つルール君が住宅と住宅の間の細い脇道に入り込む。覗き込んで見ると脇道は日の光も満足に差し込んでおらず薄暗い。ここからは表の道を外れるらしい。

「本当にここを通るのかい?」

「あぁ」

 アーザス君が嫌そうな表情でラインラ君に問いかけるが、ラインラ君の方は意に介していないようで投げ槍な返事を返す。

 脇道に入り込んだ後もアーザス君と私が今まで通った事の無い入り組んだ路地を進み続けておよそ五分。唐突に道が開けたかと思うと、木々の生い茂る雑木林に私達は立っていた。

「こんな所があったんだ」

 アーザス君も驚いているようだ。

「私も知りませんでした」

 そういえば、上空を飛翔していた時この丘の一部に緑があったな。陸路でどうやって行けるか検討も付かなかったが、よもやラインラ君が道を知っていたとは。

「おい、まだ着いてないぞ」

 私達は緑の芽吹き始めたばかりの木々や灌木を避けつつ、雑木林の中へ足を踏み入れていく。しばらく進むと開けた土地に出た。広さはそうだな……縦百メートル、横八十メートル位かな? 結構な広さだ。

「おっラインラ。遅かったじゃ……」

「そうだよ~今まで何して……」

 そこにはかつてラインラ君と共に私にイタズラを敢行した二人の少年の姿があった。茶髪が完全に逆立っている生意気そうなのと、ここらでは珍しい黒髪の気弱そうな少年だ。身長は伸びているけれど、全体的な特徴はちっとも変っていない。ラインラ君とは現在でも親しき仲にあるようだ。

「ガーンにドウス。こいつ、覚えてるか?」

 ラインラ君が私の腕を上に突き出して、プラプラと振る。

「おおおおおお覚えているのなんのってもんじゃあないよラインラ! アレシアいつ帰って来たのさ!」

 ドウス君の方が凄い剣幕で叫び出す。落ち着けよ、どもってるぞ。

「つい二日前に帰って来ましたね」

「そそそそそそうっすか! ありがとうございます!」

 何に対してのありがとうございますなんだろう。

「それよりラインラ! な~にアレシアに触ってくれてんだあ! アーザス! お前もだっ!」

 一方のガーン君はラインラ君目掛けて突っ込み、私の腕を掴むラインラ君の手を振り払った後即座にアーザス君に突撃して腕を引き離す。

「いてえじゃねえか!」

「何をするんだ!」

 二人はこの奇行に抗議の声を上げる。

「知るか! くそっ! 何て羨ま……けしからん! ちょっとこっちに来なさ~い!」

「お、おい」

 ガーン君に連れ去られてしまったラインラ君。少し離れた所で三人で円陣組んで、彼らは一体何をしているのだろう。

「ルール君。説明してくれませんか?」

 状況がいまいち理解出来ないのだが。

「う、うん! ここはボク達の秘密の遊び場なんだ!」

「へええ。そうなんですか。凄いですね」

 この大都市にこんな場所が未だに残ってたんだからなあ。

「へへへ~」

 ルール君は秘密を自慢出来たのが嬉しそうだ。

「アーザス君。秘密の遊び場ですって。面白そうな展開じゃありませんか?」

「そう?」

 あーあ。せっかく機嫌が直ったのにガーン君の行動のせいでアーザス君のテンションが下がっちゃったよ。

「おいお前ら。これからナヂュルやんぞ。こっち来い」

 円陣を解いたラインラ君が私達に呼び掛けて来る。

「うん」

 ルール君は真っ先にラインラ君達の方へ駆けて行った。

「やるの? アレシアちゃん?」

「久し振りの事せすからね。楽しそうですし」

「そっか……うん。じゃ、ボクも参加しよう」

 私達もラインラ君達に合流すべく歩いて行った。

「じゃあ誰がナヂュルになるか決めようか」

「いっせーの!」

 全員がそれぞれグーやパー、チョキを出す。グーは肉弾戦を意味し、パーは魔法、チョキは剣を現す。グーはチョキに弱いがチョキはパーに負ける。しかしグーはパーに勝つ。じゃんけんみたいなものだが、勝ち負けの基準が異なる。

「私の負けですね」

「ちゃんと十回回るんだぞ?」

「分かってます」

 ナヂュルは鬼ごっこに似た遊びで、じゃんけんをして負けた者がナヂュルとなってその他の者を捕まえる。ナヂュル役の者は十回立ったまま回転してからその他の者を追い掛けなくてはならなくて、ナヂュル役の者に足をタッチされたら捕まったと判定される。捕まった者はその場に仰向けになる。これを繰り返してナヂュル役が全員捕まえたらお終いなのだが、捕まった者もタッチされていない方の足で動き回る事は可能でそのハンデの下、ナヂュル役にどこでもいいからタッチすると全員復帰となる。しかし、片足歩行時にナヂュル役に捕まったらその場でずーっと仰向け待機となるが、この場合でも誰かがナヂュル役をタッチしたら復帰出来る。とまあ、こんな遊びだ。逃げる範囲は時によって変わるが今回は無制限っぽい。

 私は早々に回転し終えると、方々に逃げ去った者の内誰を狙うか見定める。足場は枯草が生えている程度だし、辺りは木々に囲まれている。木々の中に隠れるせこい手さえ使われなければ索敵は無問題。後はいかにして追いこむかだ。

 さあ、やってやろうじゃないか。

 

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