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二十四、友人達の放課後にて





 学校から何事も無く出て行った私達三人は取り敢えずそれぞれの自宅への道を歩いていた。と言っても、私の家までは同じ道を通るんだけど。

「しっかし、子供って恐ろしいですね。夢中となる対象物にがっつり食らいついて来るんですから。まあ、幼年者のお世話を皆がやりたがるのは悪い事じゃないんでしょうけど」

 そう考えてみると、私のお世話をしようと率先して群がって来た彼らは素晴らしい精神の持ち主だったのかもしれないなあ。まあ私にしてみれば群がって来る彼らの方が幼年者なんだけどね。

「何言ってんだ? お前も子供だろ」

 ラインラ君にすかさずツッコまれてしまった。

「いや、そうなんですけど」

 私はただの子供とは些か違うのですよ。色んな意味で。

「あ」

 私、またすべき事をしていないじゃないか。

「どうした?」

「アーザス君ってまだ学校ですかね?」

「あいつに用があったのか」

「そうなんですよ、それなのにあんな事になってしまって……」

 困ったもんだ。

「あんな事になったのはお前のせいだろ」

「う……」

 言い返す言葉がない。うん。確かにそうではあるんだけど。でもさ、どうしてああなるんだかなあ。

「アーザスになんの用があったんだよ」

「いやそれが、昨日ちょっと会う約束をしていたんですがすっぽかしちゃったんです。だから謝らなきゃいけないのです」

「それでわざわざ学校に押しかけてきたのかよ?」

 ラインラ君に私がしようとしていた事を復唱されてみたが、ここまでする必要ないよな。学校が終わってからアーザス君の家に訪問すればいいだけだったね。とんだ無駄骨だ。しかも、そんな事で学校に迷惑をかけてしまったし。後日謝りに行くべきかもしれない。て、謝罪対象がどんどん増えていってるよ。

「ははは……」

 乾いた笑いが喉を震わす。

「ばっかじゃねえの」

 ごもっとも。本当にその通りだ。

「で、これからどうすんだ?」

「そうですね……アーザス君の家に行って待たして貰いますかね」

「そうか」

「その後、何かあるか?」

「いえ、特になかったと思います」

「ならアーザスに謝った後、オレんちに来い」

「え? どうしてですか?」

「うっせい! 一緒に遊んでやるっつってんだよ! お前どーせアーザス以外友達いねーだろ!」

 何だこの状況は? ラインラ君ってこんな子だったっけか。以前はイタズラは頻繁に仕掛けては来るものの、遊びになんて誘って来る事は無かったのに。

 私を気遣うようになるとは、ラインラ君も成長してるんだな。年長者としては微笑ましい限りだよ。

「そういう事ならありがたく行かせて貰いますよ」

「……なんだよ。ニヤニヤしやがって」

「いやいや。何でもありません」


 あらから十数分後。ラインラ君達とは別れ、私は自宅のすぐ隣にあるアーザス君の家の前に立っている。煉瓦むき出しの我が家とは異なり漆喰で白く塗り固められた白い壁が美しい。汚れやすいだろうに、よくこの白さを維持しているもんだ。壁に合わせたのか白く塗装された木製の扉をどんどん、と二回叩いて訪問を知らせる。

「あら、アレシアちゃん。どうしたの?」

 ちょっと時間を置いて、デウラテさんが扉を開けて出てきた。

「アーザス君帰って来てますか?」

「ごめんなさいね。あの子まだ帰っていないの」

「そうですか」

 まだ学校なのかな?

「もうお昼ご飯の時間でしょう。食べてからまたいらっしゃい。マリーさん心配してたわよ」

「分かりました。ありがとうございます」

 デウラテさんの言葉に従って我が家に戻る事にしよう。アーザス君の家は自宅の隣なので三十秒もかからずに玄関に入る事が出来た。

「ただいま帰りました」

 私の帰宅の挨拶と同時に、いきなり台所の扉が威勢よく開け放たれお母さんが飛び出して来る。

「遅いじゃない! 何をしてたの!?」

 うお、凄い剣幕。

「すみません。アーザス君と上手く鉢合わせにならなかったもので」

「心配したでしょう!」

「すみません」

 床を踏み鳴らしながら近付いてきたお母さんは前触れもなしに私をギュウと抱き締め上げる。

 私もまさかこんな時間がかかるとは思わなかった。お母さんもちょっとアーザス君とお話しして帰って来るとばかり思っていたのだろうから、何かあったかと心労をかけちゃったんだろう。馬鹿だな、私は。こんなちょっとした事でお母さんに負担をかけてしまった。本当に愚かだよ、ちゃんと気を付けなくてはいけない。

「もう、一生涯このままでいようかしら」

「……え?」

 今とんでもない発言を聞いてしまったが、本気か?

「ジョーダンよ、冗談。さ、お昼ご飯にしましょう」

 だよねえ、真剣な表情で言ってそれらしく見せただけだよね。その慌てたような表情も驚かす為の演技なんだよね。……だよ、ね?


 さて、お昼ご飯を済ませた私はちゃんと行き先を告げた後、最初にアーザス君の家に向かった。扉をノックして来訪を告げると、すぐに扉が開いてアーザス君が出迎えてくれた。

「アレシアちゃん! 待ってたよ!」

「こんにちは、アーザス君。少しだけいいですか?」

「もちろん! とにかく中に入ってよ!」

 それにしてもアーザス君は機嫌が良いようだ。何か嬉しい事でもあったのかな。

「いえ、次の予定もあるのでここで」

「そっか。それで何の用かな?」

 うん? 少しテンションが下がったようだが、私は何かしてしまったか? まあいい、先ずはやるべき事を済ませよう。

「昨日の事です。約束していたのにすみませんでした」

 ようやく目的が達せられた。というか、何か、謝る事が目的になっちゃてたな。

「そんなのいいよ。全然気にしてない」

「そうですか。良かったです」

 これでもうアーザス君には用が無いのだけれど、これだけでお別れというのもアーザス君に悪い気がする。

「そうだ。実はラインラ君の所に行くんですが、予定が空いているのならアーザス君も来ませんか?」

「ふ~ん……」

 あれ、ちょっとした親切心からの発言だったんだけど、お節介だったかな。

「アーザス君?」

「うん。ボクも行くよ。お母さん! アレシアちゃんと遊びに行って来るね!」

「行ってらっしゃい!」

 私はアーザス君と隣り合ってラインラ君の家へと歩いて行く。徒歩でも三分以内に着ける位の距離だ。しっかし、私達を除いて人がほとんど歩いてないなあ。

「ねえアレシアちゃん。ちょっと聞いてもいいかな」

 隣を歩くアーザス君が話し掛けて来る。

「何ですか? 構いませんよ」

「あのさ、ラインラの所に何をしに行くの?」

「何でしょうね。ただ来いとしか言われていないんですよ」

「そうなんだ。じゃあ、彼はアレシアちゃんをどうして呼んだのかは分かる?」

「分かりません。でも、そう悪い事にはならないとは思いますけど」

 ラインラ君は意地悪な性格はしているけど、陰湿な性格はしてないからね。それに大雑把な性格だし、変な小細工はして来ないでしょう。ガキ大将っぽい感じと言えばいいのかもしれない。

「そうだといいんだけどね」

 アーザス君は何が心配なのかな。私と話している時は笑顔なんだけど、時々考え込むように下を向いたりする。少し警戒し過ぎだと思う。大体再開する前のラインラ君のレベルなんて私のスカート捲ろうとしたり、私が外を歩いている時に通せんぼしたりとか、もう日本の小学生でもやるか分からない程度の低いものでしかなかったよ。それに比べれば……。

「遅かったじゃねえか!」

 おや、到着したか。ラインラ君の住む地域は私達の住む地域より丘の下辺りに存在している新興住宅地だ。元々小さな賃貸住宅に住んでいたようだが、私のお父さんと仲が良かった事もあって近所に引っ越しして来たと聞いている。そういう事もあってラインラ君の家は築五年も経っていないんじゃないだろうか。とにかく新築なのだ。建築には最新の流行が取り入れられいて、三階建てのラインラ君の家は大きな窓と青い壁が特徴になっている。

 その家の前はフットサル場位の広さがある庭になっていて、その広い庭からラインラ君は私達に声を掛けてきたのだ。

「すみません」

「つーか、何でアーザスまでいるんだよ」

「悪いかい?」

 アーザス君、けんか腰はやめなよ。確かにラインラ君の物言いはがさつで無神経だけどさ。

「いや、その、駄目でしたか?」

「まー、いてもいーけど邪魔はすんなよ」

「そう、ありがとう。ラインラ」

 何だこの緊迫した雰囲気。来て早々帰りたくなって来た。これから大丈夫か?

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