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二十、ぐでりぐでり




 お姉ちゃんの馬車が視界から消えた辺りで見送りは十分と判断したらしく、お母さんは私を抱きしめたまま我が家へ入って行く。

「ジェイソン! ジェイソンちょっと来てっ! 大変なの! アレシアがっ!」

 うわ、びっくりした。いきなり耳元で大声出さないでよね。というか、私がどうしたと言うんだ。

「何があった!?」

 お母さんがせかしたかいあって、お父さんはリニアモーターカー位の速さで居間から飛び出し私達のいる廊下に現れる。

「見てよアレシアの格好! 可愛いでしょーっ!」

 すまない、お父さん。こんな事で急がせちゃって。あと、私を他人に見せる時はお姉ちゃんもお母さんも脇を持つんだね。何でだろう?

「そうだな」

 あれ、呆れるのかなと想像したんだが。意外にお父さん、じろじろと見つめてくる。

「どうしたんじゃ? ほぉ……」

「まあぁ……お綺麗で御座います……」

 さらに、お祖父さんとディーウァも顔を出してきた。

 そんな、皆から見つめられると、恥ずかしい……。頭に血が集まって来ちゃったよ。

 ん? 皆が一斉に私から視線を反らしたぞ?

「こ、ここまでぇ! これ以上は理性が死ねるわ!」

 何かお母さんよく叫ぶなあ。というか、理性が死ぬってどういう意味だよ。

「そうじゃな。若いもんにはきつかろう」

 え、何がきついの?

「夕食の準備は出来て御座います。食事に致しましょう」

「では、行こうか」

 お父さんの掛け声と共に、皆はぞろぞろ食事室へ向かって歩き出した。




 えーと……見られてるよね、私。

 何だか家族の皆がおかしい。私が帰宅してからずっと、私の事をこそこそと覗き見て来るのだ。夕食の時も、夕食後の今も。

 やっぱり、この服装が原因だよなあ。しかしここまで注目される服装とはどういった代物なのだろうか。興味が湧いて来た。見てみよう。

 私は首を仰角三十度から俯角八十度に曲げる。

「なっ」

私は即座に仰角四十五度へと戻した。

「どうかした? アレシア」

「いえ、何でもないです」

 何とか平静を保って、お母さんに返事をする。

 私は……私は、何て恥ずかしい服装をしているんだ! 極力恥ずかしくないように描写するとするならば、黒と白を主力として展開しつつ、ピンクを要所に配置。フリルを何重にも重ねて防衛線を構築といった所だろうか。うん、この表現なら全然恥ずかしくなんてな……うわあぁあぁ! 無理! こんな服装してられるかっ!

「私、着替えて来ますっ!」

 今まで普通にこんな格好して歩いていたのか私! 何たる厚顔無恥! 穴、もしくは布団があったら潜り込みたい!

「駄目よ!」

「やめて下さいませっ!」

 この場から逃げ出そうと椅子から飛び降りた私だったが、左右の席に座っていたお母さんとディーウァに両腕を掴まれてしまった。

「何を考えてるのアレシア! 着替えるなんてとんでもないわ!」

「その通りで御座いますよ! 寧ろ毎日その格好でいて頂きたいのが私共の総意で御座います!」

 そんな総意認められるかっ!

「これ以上は無理! 恥ずかしい!」

「恥ずかしい!? 素晴らしいスパイスじゃない!」

「恥ずかしがられれば恥ずかしがられます程、目の保養で御座います!」

 お母さんとディーウァが何言ってるんだか分からない!

「お願いですから行かせて下さい!」

「イ、イかせて欲しいので御座いますか? 御命令とあらば、喜んで!」

「だっ、駄目よディーウァちゃん! アレシアは不可侵のまま、綺麗なままでいてちょうだい!」

 綺麗なまま、か。ごめんねお母さん。もう私は殺人という罪で汚れているんだ。羞恥に熱くなっていた思考回路がお母さんの発言により一気に冷却されていく。

「いい加減にするんだ!」

 喧騒に耐え兼ねたのか、やけに険しい表情のお父さんが立ち上がる。

「ご近所さんにも迷惑だろう。さ、今日はそろそろ寝てしまおう」

 お父さんの一喝に、お母さんとディーウァはうなだれ私に謝ってくる。

「ごめんね、アレシア。お母さんはしゃぎ過ぎたわ」

「申し訳御座いません御……アレシア様。如何なる罰も甘んじる所存で御座います」

 まあ、私は着替えさせてくれるならそれで構わない。二人に気にしていない旨告げた後、駆け足で二階に向かった。というか、もう着替えとかどうでもいいや。自分がお母さんの想像するような清純な存在じゃない事に思わずため息が出てしまった。

 でもさっきまであれだけ着替える着替える言ってたんだし、この格好のままでいる訳にもいかない。なので自室に入りさあ着替えようとしたら、ぎいいーと扉のきしむ音が聞こえてお母さんとディーウァが室内に入ってきた。

「……何か用ですか?」

 今はちょっとお母さんに会いたくないんだけどな。悲しくなってうっかり秘密を全部ぶちまけちゃいそう。

「ねえ、本当に着替え……どうかした、アレシア?」

 鋭い。これだから困るんだ。

「いや、別にどうもしてませんよ?」

 だがしかし、私はお母さんに心配かけないと決めたんだ。過去がばれる事は絶対にあってはならない。動揺が顔に出てしまったのは失点だが、とっさにお母さんに背を向けたので見られてはいない。背を向けたのも棚から着替えの服を取ろうとした行為だとすれば、不自然には見えないだろう。というわけで、私はいつも通りのペースで歩き、自然な風を装って棚に手を伸ばす。

「お母さん?」

「何か心配事があったら、すぐお母さんに言うのよ? 大丈夫。アレシアは必ずお母さんが守ってあげるからね」

 背後からふわりと抱きすくめられ、こんな事を囁かれちゃった。こんな事されたら私は……私はこんな事を言ってくれる家族を大切な家族を傷つけたくない。お母さんにしてみれば私に相談して欲しいのだろうが、今のお母さんの言葉は私の揺らいだ決意を固めるのに役立った。抱擁から抜け出してから、背後のお母さんに少しの弱音と隠蔽の決意を述べる。

「ありがとう、お母さん。でも大丈夫。私なら平気です。ちょっと一人になったら不安になっちゃっただけですから」

 その後何事もなかったように足を数歩動かして衣類棚の前に立ち、引き出しを開いて服を引っ張り出す。就寝時に着るのだからこだわりはない。いつもの白いワンピースだ。

 ふう、覚悟を決めよう。アレが視界に入らないように目をつむりながらアレを脱ぎ、ベッドの下にスロー・イン。悲鳴が聞こえたのは気の迷いに違いない。次に引き出しに収納されていた衣服の一番上に配置されていた白いワンピースを手探りで奪取しすぐさま着用。これで完璧だ。

「駄目じゃない。サハリアちゃんからの頂き物を粗末に扱ったら」

 目を開くとお母さんはベッドの下に体を潜り込ませお姉ちゃんからの贈り物を取り出そうとしている。

「すみません」

 ただ私も限界だったんだ。察して欲しい。

「もう! そんな辛気臭い顔しないの! お母さん一緒に寝てあげるから!」

 いや、それどんな繋がりがあるのかな?

「いいですよ」

「遠慮なんてしない! ほらっ、行くわよ!」

 お母さんったら、強引だな。でもまあ、いいか。温かいし。

 

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