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十六、サハリア宅にて




「アレシア、起きなさい。到着しましたわ」

 え、あれ。いつの間にか眠っていたみたい。サハリアお姉ちゃんに肩を揺すぶられてる。

「あ、すみません。ついうとうとしちゃって」

 肩を揺する手を止めたサハリアお姉ちゃんは、何が嬉しいのか笑顔になる。

「仕方ないですわね。抱っこしてさしあげましょう!」

 仕方ないと言う割りに、どうして上機嫌なんだか。

「いや、大丈夫……なんです、けど」

「遠慮しなくていいのですわ!」

 遠慮して控えめに拒否したんだがね。完全に無視されてしまい、私は既にサハリアお姉ちゃんの腕の中。いまさら拒否しても面倒なので、おとなしくするか。断じてサハリアお姉ちゃんの体が温かくて心地よいからではない。

 二人であらかじめ開いていた馬車の扉から出ると、扉の傍に黒のフロックコートを着た口髭の豊かなお爺さんが立っていたのに気付く。

「お帰りなさいませ、奥様」

 お爺さんは深々とお辞儀をした後、私達に、えーと、奥様? と呼び掛けて来た。どういう事なの……。

「まさか、サハリアお姉ちゃん……」

「察しの通り、私結婚しましたの」

 私の頭に唯一浮かんだ考えを肯定するサハリアお姉ちゃん。抱っこされてるから表情は分からないが、耳やうなじの辺りは少し赤くなってる。お姉ちゃんの今の感情は嬉し恥ずかしい、といったところだろうか。って、おい!

「ほ、本当なんですかっ!?」

 何冷静にお姉ちゃんの感情について考察してるんだよっ! 一大事じゃないか!

「本当ですわよ」

「お、おめでとうございます」

 意外とあっさり返答され、私の動揺も収まった。しかし、どんな人と結婚したんだろう。わがままで優しく少し傷付きやすいがすぐ立ち直るお姉ちゃんに相応しい男性とは?

「お相手はいい人ですか?」

「そうですわね。軟弱で臆病、そのくせ女たらし。あぁもう! 思い出すだけで腹が立ちますわ!」

「そ、そうですか……」

 深入りしない方がいい話題みたいだ。

「それにですわね!」

「奥様、それからアレシア様。ここは寒うごさいます。お話の続きはお部屋に入られてからではいかがでしょうか?」

 話に割り込んで来たのはさっきの口髭お爺さん。

「それもそうですわね。アレシア、行きましょうか」

 プリプリ怒ってた割に案外簡単に矛を納めてくれて助かった。

「そうですね」

 お爺さんが歩き始めたのに、サハリアお姉ちゃんが付いていく。だが抱っこされている私には、二人が一体何処へ向かっているのやらさっぱりだ。まあ、お姉ちゃんの足元の歩道に敷いてある石が、赤白緑黄の四色を使ってモザイク模様を形成しているのを見るに、大層豪勢なお屋敷なんだろうな。

 少しばかり四色のモザイク模様を眺めながらお姉ちゃんと会話をしていると、不意にお姉ちゃんが足を止める。何だろうと思い、首をぐるりと回してみた。あ、口髭お爺さんが扉を開けるのを待ってたのか。

 ただノッカーがライオンの顔なのには違和感。ライオンってこの世界にもいるのかな。

「どうぞお通り下さい」

「ありがとう、サパヤ」

 お姉ちゃんが口髭お爺さんに促され、邸内に足を踏み入れる。白い観音開きの扉の先にはテニスコート並の広間があり、鏡に使えるんじゃないかという位床は磨き上げられ、天井には大きなシャンデリア。さらにシャンデリアの周囲には花畑に囲まれた乙女達の絵が描かれている。

 すごい家だなぁ、お金持ちって違うなぁ。

 そしてホールにはメイド服とでも言うのだろうか。白地に黒をアクセントに付け加えた、足首まで隠れるスカートを穿いている二人の女性がお姉ちゃんの出迎えに来ていた。

「お帰りなさいませサハリア様。そのお方はどうされたのですか? お医者様を御呼び立てしましょうか?」

 先に口を開いたのは茶髪をお姉ちゃんと同じくツインテールにしている妙齢の女性。目が少したれ目だ。もう一人の見た目は優しいおばさんといった感じ。どちらからも殺意は感じない。て、何を探ってるんだ私。やめやめ……んー、駄目だ。努力はしたけどどうしても意識してしまう。何かメイドさんに警戒心持っちゃう。以前メイドさんに毒盛られたからかなぁ。

「奥様お帰りなさいませ。よろしければ、私が代わりに抱きましょうか?」

 何だか勘違いされてるね。誤解を解くとしよう。よっと。私はサハリアお姉ちゃんから飛び降りた。

「あっ」

 驚かしてしまったらしく、とお姉ちゃんが声が上げる。すまないと頭の中で謝っとく。

「えーと、お初にお目にかかります。アレシアと言う者です。間柄は友人といった所でしょうか。お邪魔します」

 うーわあ。何て下手くそな挨拶だ。魔王討伐旅行に出ていた間、人とあんまり会話してなかったからコミュニケーション能力が著しく劣化してやがるよ。ええい、もう手遅れだ。お辞儀でごまかせ。

 私は我ながら完璧とも言える四十五度のお辞儀を済まし、頭を上げる。これで名誉挽回だ。

「……あれ?」

 えーと、何故だろう。場にいる全員が私を見て微笑んでいるんだが。

「アレシア、背伸びして変な敬語になってますわよ」

 あ、そう、そういう事ね。挨拶がおかしかったから私、笑われちゃってるんだね。サハリアお姉ちゃん、口元をいまさら手で隠してもばれてるよ。はあ、第一印象が大事なのに見事にとちってしまった。

「アレシア様。無理はなさらずとも構いませんわ。アレシア様のお話はサハリア様から散々聞かされてますから、初対面とは思えませんの。どうか普段通りに過ごして下さいな」

 たれ目のメイドさんからこう言われ、反省。高そうな物に囲まれて、そうだな、少し対上流階級思考に陥ってたかもしれない。落ち着こう。

「ま、ま。可愛らしくてよろしいではございませんか。さ、奥様。奥様の部屋に参りましょう」

「そうですわね。アレシア、付いて来なさい」

 口髭お爺さんを先頭に、サハリアお姉ちゃんの後を私は歩く。玄関ホールの左奥の階段に向かっているみたい。階段もまたツルツルに磨かれているようだが、滑ったら困るからか赤い絨毯が敷かれていた。あれなら片方のサンダルをなくした足に優しいだろうな。ホールの床は冷たいのだ。

「おや、アレシア様。靴はいかがなされました?」

 あ、口髭お爺さんが気付いた。

「アレシア寒くないんですの? 仕方ないですわね、私が……」

「しばし我慢下さい。急いで用意させますので」

「あ……」

 何か、お爺さんにおんぶされた。

「私大丈夫ですよ?」

「お客様には快適に過ごしていただくのも私の仕事の一つです。ですからどうか遠慮なさらないで下さい」

 こう言われると断れないよ。まあ、お姉ちゃんの部屋で椅子に座るまでの間までの事だし、いいか。

 私はお爺さんにおぶわれながら、お姉ちゃんの部屋へと向かう。それはそうと、お爺さんの後ろを歩くお姉ちゃんから物欲しげな目線を向けられるのは何故なのだろう。


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