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箸休め二品目:ジェレイコスのその後



 ジェイソンの部屋を出たジェレイコスは軍務省地下にある自らの仕事部屋に向かう。本来軍務省に限らず政府機関の勤務時間は朝日が昇ると共に始まり、日の暮れと共に終わるのだが、ペロポネアと戦端を開いたあの日からロミリア軍が戦時体制を解いた事はなく、多忙な日々が続いている。大規模対人戦はペロポネアとの停戦により幕を閉じたが、停戦後は狂暴化した魔獣の対処に追われ、軍属に休む暇はない。未だ各国の調査機関は何故魔獣が狂暴化した原因すら特定出来ていないのだ。何かに反応した事は明らかなのだが……。


 日は当に暮れ、光源は足元に設置された僅かばかりの赤色に光を発する魔力灯のみにも関わらず、ジェレイコスは複雑に入り組んだ通路を躊躇ためらう事なく突き進んで行く。

 やがて彼は行き止まりで立ち止り、口を開いた。

「五、四、二、八」

 彼が述べた数字の羅列に反応し、ジェレイコスの目の前の壁が横にスライドして奥へと繋がる通路が現れる。壁の向こう側の通路の天井に等間隔に吊るされた照明の白い光が暗がりに慣れたジェレイコスの網膜を焼く。ジェレイコスは目を幾度かしばたかせ、目を光に慣れさせるとまたしても何本にも分かれているへ再度歩みを進めた。装飾品など全くなく無機質極まりない白で統一された迷路のような通路を数分も歩くと、ジェレイコスは行き止まりに突き当たった。しかし先ほどとは異なり、左側に鉄格子で囲まれた窓がある。

「許可証をお見せ下さい」

 その鉄格子の向こう側から若い男の声が聞こえ、ジェレイコスは声に従い懐から取り出したクレジットカードのような物を鉄格子の向こう側にいる男に手渡す。男はカードをリーダー(読み取り機)にかざす。

「ありがとうございました。ジェレイコス部長」

 男はカードをジェレイコスに返却した。カードが認証された事によって情報部室への道うを阻む壁が横にスライドして下へと向かう階段が出現した。この階段を下りればようやく情報部室に到着だ。情報部室は地下に存在するというのに人員五十人以上が同時に作業可能な大きな部屋を与えられている。しかし情報を収集するのには泥臭い手間が必要なため、部屋に留まっている者はそう多くはない。

 部屋に快適性が全く考慮されていないのも人気のない一因かもしれない。木板にただ脚を取り付けたに過ぎない安い造りの机が無規則にあちこちに四、五脚毎に固まって配置され、壁際には書物や書類をギュウギュウに押し込まれた背の高い本棚がこれまた雑に並んでいるだけなのである。照明と壁は閉鎖感を薄めようと白色が多用されているが、逆に寒々とした印象を与えてしまっていた。その部屋の中で作業をこなしている者の一人、金髪を短く刈り上げた平均的な日本人男性より若干身長の高めの目が青い中年男性がジェレイコスを険しい表情で見つめていた。

「エリソン、どうかしましたか?」

 エリソンの机に広げられている書類や走り書きに目を通していた同僚が視線に気が付き声を掛ける。

「大した事じゃない。ジェレイコスのジェイソンへの粘着に呆れていただけさ」

「そうですか。それよりエリソン、ここを見てくれませんか?」

 同僚の指差した箇所に目を移すエリソン。

「何だ?」

「エリソン、あなたはまさか部長を疑っているんですか?」

 思わず顔を同僚へ向けるエリソン。

「ジャレド。何を言うんだ突然」

「あなたが俺に調べるように言ってきた情報に俺の個人的捜査結果を加えて言ってるんです。あなたは間違いなく部長が怪しいと思っている」

 ジャレドは自信満々にこう言い放ったが、エリソンに動揺の色は見られない。むしろジャレドに呆れたような表情を向ける。

「……そんな訳ないだろう。まだお前にこの仕事は早かったようだな」

「誤魔化さないで下さいエリソン。俺はあなたの力になりたいんです」

「ジャレド。いい加減にするんだ」

「エリソン。俺はいつまでもあんたに手取り足取り支えて貰わないとならないような新人じゃない。あなたが協力しなくとも俺は独自に動きますよ」

「ふざけるんじゃない! 手を引くんだジャレド!」

 部屋の出口に向かうジャレドを追おうとしたエリソンだったが、声を張り上げた事でジェレイコスの目についてしまった。

「エリソン、どうかしたかね?」

「いえ」

「あまり叫ばないでもらいたいね。耳障りだよ」

「申し訳ありません」

 露骨に眉をしかめてみせたジェレイコスは、エリソンの謝罪を聞くとそのまま隣接する部長室へ歩みを進めていった。

「ちっ。あの馬鹿……」

 その隙にジャレドの姿をエリソンは見失ってしまった。










 

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