31:第七章 宣戦布告-2-
真っ白な肌に視線が釘付けになる。
細く薄い体。けれどやわらかな膨らみは円やかで、両の丘の突起は小さく薄紅色の果実のようだ。ごくりと唾を飲み込む。
「まだ、あの顔が残っているんです‥‥‥胸を無理矢理吸われて‥‥‥」
真っ赤な顔をしてファーラは言葉を紡ぐ。
「わかった」
ゆっくりと、彼女の体を長椅子に倒す。白い乳房が揺れる様に体の中央が危ないことになっているが、理性を総動員してやさしい笑顔を維持する。
「ファーラ」
名前を呼んで、唇を軽く食む。
そして首筋、鎖骨、心の臓の上、乳房の間と、下に降り‥‥‥右側の薄紅色の果実を口に含む。
「‥‥‥っん」
小さな吐息が腰に来る。
やばい。
可愛い。
綺麗だ。
このまま襲いたい。
そういう思いを懸命に飲み込む。
両の乳房を堪能してから顔を上げてもう一度、唇を合わせる。
「他は‥‥‥?」
なるべく余裕を漂わせて尋ねると、ファーラは首をふるふると左右に振った。
よかった。下半身には触れていないらしい。さすがにそこまで触れれば、理性を保てる自信はまったくもってない。
「あ‥‥‥ありがとう、ございます」
礼を言われるのは変な気分だが、生真面目な彼女の礼にジャックは微苦笑を浮かべる。
「順番がおかしくなってるな。本当なら告白して承諾の返事をもらって、婚約して結婚してからこういうことになるのに‥‥‥」
「そうなんですか?」
「そうなんだよ」
真っ赤な顔のファーラを抱き起こして袷を直す。
頬にかかった髪の毛を撫でて耳元に除ける。
そのまま紅潮している頬を撫でる。旅の間もいろいろとみんなで協力して食べさせてきたから、ふっくらとしてきた頬は瑞々しくてずっと触っていたくなる。
「返事はゆっくり待つから」
額に唇を寄せて囁く。
「今のが嫌じゃなかったら‥‥‥ファーラが、俺以外の男に今みたいなことをされたら嫌だと思うんだったら、教えてくれ」
そのまま細い体を抱き寄せる。
拒否の気配はないが、ファーラがただ呆然としているということも考えられる。
腕の中にすっぽりと入る体を抱え込むようにする。
肉のあまり載っていない背中を撫でる。
「‥‥‥はい」
素直な返事にジャックはわずかに肩を竦める。
「悪い。ファーラ、もうちょっと役得させてくれ」
「え?」
温かな体を抱き締めて、その肩に顔を埋める。
やさしいぬくもりに心が捕らえられる。
欲しい。
心も体も、全部が欲しい。
ファーラの片隅にでも別の男がいるのが許せない。それくらい、好きだ。
好きという感情は嫉妬心や独占欲と紙一重だというが、それを初めて身を持って知った。
離したくない。
きつく抱き締めて、必死に本能と戦う。
「ジャック」
不意に名前を呼ばれる。気がつくと、彼女の細い腕が背中に回された。
そのことに息を呑む。
まさか?
自分に都合の良い解釈をしそうになる。
「あ‥‥‥あの、わたくし、わからないんです」
腕の中のファーラが身動ぎする。
「なにが?」
「その、好き‥‥‥という気持ちが‥‥‥」
懸命に彼女が感情を説明しようとしているのがわかる。
「うん」
だから、ゆっくりと促す。
「でも、ジャックにこういうふうに抱きしめられるのは嫌じゃありません」
「うん」
「くちづけも、皇太子殿下との時とは違って、嫌じゃありませんでした」
「うん。比較対照が莫迦皇太子なのが腑に落ちないけど、でもいいよ」
「だけど、わからないんです‥‥‥この気持ちが、あなたが言う『好き』という気持ちと一緒なのか‥‥‥」
こんなふうに抱き返してくれるのに、それでも生真面目に考えてくれるのがなんだか嬉しい。
悲鳴も上げないし、拒否も拒絶もしない。顔を赤くするけれど、抵抗もしない。
体のが素直に受け入れてくれているのを感じるが、それを口にするのは頭で考えようとしてくれているファーラを止めてしまいそうで気が引ける。
「じゃあ、一緒に探せばいい」
「え?」
「そんなに難しく考えなくてもいいよ。もっとファーラは感覚で動けばいい。俺に触れられるのが嫌になったらそう言えばいい。俺は、君に拒絶されたとしても、君を本当に守ってくれる男が現れない限り、ファーラを守ることは止めないから。安心してくれ」
「‥‥‥え」
「まだ、あの莫迦皇太子の顔が浮かぶか?」
悪戯心で尋ねれば、ファーラは顔を真っ赤にさせた。
耳まで真っ赤だ。
ふるふると顔を横に振る。
「綺麗に、上塗りされています。もう、ジャックの顔しか‥‥‥浮かばないです」
消え入りそうな声についつい笑いが零れる。
無理矢理くちづけたことを謝ろうと思っていたのに、もっと申し訳ないことをしてしまったような気がする。だが、これで彼女の中の記憶が上塗りされたのならかまわない。
「そっか‥‥‥これから本気で口説くから、覚悟しておけよ」
ジャックは冗談口調を心掛けながら、宣戦布告をした。